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ロンドン遠吠え通信 Vol.6

「この作品の意味は何ですか?」
引き続き、「ロンドン遠吠え通信」(メールマガジン「Voidchicken nuggets」に連載。2014〜15)より、Vol.6をお楽しみください。



「この作品の意味は何ですか?」


という質問って困るよねー、と作家に言われて、そうだねーと同情することがこれまで何度かありました。学芸員も作品の「意味」をストレートに聞かれると一瞬固まったりもします。まあ、一般の方はいいとして、ジャーナリストでそういう質問する人はもっと頑張ってくれるといいなと思っていた。留学するまでは。


しかしこっちに来たらこのストレートな質問はデフォルトだったのでした。作家は基本「この作品の意味は何ですか?」「この展示で何を伝えようとしていますか?」と聞かれ、キュレーターも、「この企画の意図は何ですか?」「あなたが取り上げた作家の美術史における重要性は?」と聞かれる。そしてこちらの方々はそれらの質問にチャキチャキと答えます。というわけで、作品の意味とか伝えたかったこととか、美術史上の重要性とか、言葉で言えるようにしておいたほうがいいですよー!


・・・と言われてもね・・・と思った方。ですよね・・・。分かります、私も「うあー、あぐー」しか言えない、という悔しい思いを何度もしました。その苦難の連続の中から、今回は皆さんの役に立つと思われる、個人的ないくつかのアドバイスを贈りたいと思います。


1)「この作品(企画)の意味は何ですか?」は「あなたの作品(企画)は意味が分からない」という攻撃ではない

日本国内だと(本当にそうかはさておき)背景はだいたい共有されているので話さなくても分かってくれることになっているかもしれません。でも世界中の人々はそれぞれまったく違った背景で生まれ育っているので、とりあえず本人から話を聞かないと分からない、ということになっています。この質問は、「あなたのお名前は?」くらいの平坦な質問として受け止めましょう!


2)「言葉で言えないことを作品で表現している」と言うのはあまり解決にならない


こちらでは言葉での説明の上に作品で表現されていることを上乗せして理解するのが基本のようですから、「まずは作品を見て!」と言われるとコミュニケーションを拒んだような印象になることもあるようです。相手は素朴な一言でほっとします。助け舟を出すイメージで!


3)「意味を説明しだすと長くなってしまうけどいいのか?」―イエス

というか、たぶん相手は待ちきれずに細かい質問をはさんでくるので、それに答えていればいつの間にか相互理解に達することでしょう。


4)「意味を説明しだすと抽象的になってしまうけどいいのか?」―ノー

どうも、「緊密な物質性に内包される死とエロスの相克」などの凝縮された言葉を聞きたい訳ではないようです。個人的なきっかけやエピソードから話しましょう。「何か大きいものがつくりたくて、あとプラスチックが好きで、たまたま友達がいらないっていうやつをもらってつなげていったらヘンな形ができていろいろやってたらこうなったんですよ」くらいが具体的でいいようです。


参考になったでしょうか?でもまあ、うまくいかなくてもいいと思います。伝えようとする気持ちがあればいろいろ伝わるということも、また本当です。


ところで今回のトピックに関しては、海外経験の豊富な読者の皆様から体験談を伺えたら素晴らしいのではないかと思っています。お便りお待ちしています!(2015年3月2日)

初出:メルマガ VOID Chicken Nuggets 2015年3月2日号
https://mlvoidchicken.tumblr.com/post/112726884048/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%ACvoid-chicken-nuggets-2015%E5%B9%B43%E6%9C%882%E6%97%A5%E5%8F%B7

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