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もぅ……本当に泣かされちゃったし。やっぱり私は子どもに弱い。そんな事を思った本。

この本を手にとったきっかけ

なぜ、今さら、さだまさし?
(ファンの方には本当に申し訳ないけど、そう思ってしまいました)
この本は、「神さまたちの遊ぶ庭」・「13歳のアート思考」に続いて
夫の親戚の方から、読んでよかった本として勧められたものです。
はい、いい意味で裏切られました。
医者の話とかあんまり好きじゃないけど、不覚にも泣いてしまいました。

風に立つライオン感想

※2024.1.1.能登地震の被害に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げます。この本には、東日本大震災を思わせる描写があるため今手に取るのはおすすめいたしませんが、心に余裕のある方だけお読みください。

内容としては、
航一郎という人徳ある日本人医師の想いが、
アフリカから始まり過去から未来に受け継がれていく感動物語です。
「心」のバトンが紡がれていきます。

おもしろいと思った所は、航一郎は影だけで描かれているという所。
実際の人物は存在したけれど、物語には本人は出てきません。
その人の周りの人から彼の事を次々に語らせることで、
航一郎の存在感を浮き上がらせる文章の書き方。人物の描き方。
この辺りは、noteをやっている皆さんにもおもしろいポイントです。
こういうタイプの小説はあまり読んでこなかったので、
なるほどこういう表現もあるのかって感心しました。
慣れていないので、読みにくかったけれど。
ちなみに、主人公にあたるのはンドゥングというケニアの青年。

泣けてしまった所は、最初は冷酷だったこのンドゥングという青年が心を開き始めて医者になりたいと告白した場面です。航一郎が「勿論なれるよ」と返事をしますが……

「いい加減な慰めを言わないで!」
そしてこう怒鳴ったんです。
「僕は九人の命を奪った!」

風に立つライオン p184~p185

「こんな人間でも……」とンドゥングは途切れ途切れに続けました。
「僕は……本当に医者になれますか?」

風に立つライオン P186

この前後のやりとりに想いが凄くこもっています。
彼は、元少年兵。
自ら望んだわけではなく、家族を殺され本人は麻薬づけにされ
朦朧とする中、ご飯を与えられる代わりに、人を撃つしか選択肢がない。
そんな生活を余儀なくさせられていて、
彼は嫌になりそこから必死で逃げてきました。
逃げる時に足を撃たれ、航一郎が働く病院に連れてこられたのです。
戦時中の少年兵は捨て駒扱い。地雷のある所を歩かされる日常。

もう、この設定だけでも読んでいて苦しくなりました。
日本にいると、なおさら。
本当に見たくもないけど、現実にはあるんだろうなって。
胸が締め付けられる。
どうにか子どもたちを守りたくなる。でも……。
あぁ、ツライ。

ンドゥングが最初に病院に運ばれてきたとき、
医者の航一郎に敵意を向けて腕に噛みつきました。
大人たちを信じていません。

私は、この場面を読んで、ふと過去の体験を思い出します。
大学2年生。
保育学校に通っていたので資格を取るため実習が必須課題。
児童養護施設への泊まりこみの実習もありました。

児童養護施設はいろいろな事情で親のいない子どもたちが暮らす場所。
そこに先生の代わりとして学びに行きます。
右も左もわからぬ学生は、友達気分でのほほんと関わります。
一応、実習生の部屋は用意されているもののお風呂は共同。
お風呂と言っても、一般のお風呂じゃなくて
共同生活のための小さな銭湯のような場所。
私が体を洗っていると後ろから中学生の女の子が
睨むような感じで「そこ!私の場所なんだけど!?」
と冷たい一言を放ちました。
明かな敵意。
正直、その空気が怖っ。て思いました。
知らなかったとは言え、この世界は彼女たちの日常の場所。
私は知らぬ間にプライバシーを侵害してしまっていたのでしょう。
彼女は毎週のようにどこからか知らぬ大学からやってくる
私たちのような存在に飽き飽きしていました。
1週間で帰ってしまうお姉さんなんかに絶対心を開いてやるもんか
というプライドも感じられました。
(もちろん、みんながみんなそうじゃなかったけど)

一度傷ついた人の心は簡単には癒せません。
自分から心を開くと決めない限り絶対に。
そして、それは長くて暗いトンネルの中にいる感じで本人も周りもツライ。
唯一、そのトンネルから出る方法は、
人への信頼を取り戻し愛情をたっぷり受けとる事。
でも、一度傷ついた人は知っているから。
失う悲しみや苦しみを。
もう一度、あんな深い悲しみを味わうくらいなら
自分からはその愛情を拒否しようと決めてしまう。
心を閉ざしてしまう。

私もそれは、わかります。
父親が病でおかしくなった時から意思疎通ができなくなったので。
親に対して、心のシャッターを閉じました。
どこかでかすかな期待をしながら。

こんな記憶がよみがえり、思わず涙があふれてきました。
小説の中のンドゥングは、自分が人殺しをしてしまった……。
自分のせいではないけれど、自責の念をずっと抱いていて
苦しみ続ける中で、やっと信頼できそうな医者が目の前で
たくさんの傷ついた人を必死で救っている様子を見て
自分もできたら、そっち側に行きたい……と光を見たのでしょう。
でも、こんな僕がそれを望んでもいいのだろうか?
と勝手に自分を貶めて、可能性に蓋をしている。

あなたのせいじゃないことぐらい、みんなわかってる。
でも、その夢は高いから。
中途半端な覚悟じゃたどりつけないのも、みんなわかってる。

「お前は九人を死なせた、それなら……」
航一郎はほんの少し言葉を探し、こう言いました。
「……それなら、これからお前の一生を懸けて十人の命を救わなくてはならない」

「いいかい。未来はそういうためにあるんだよ」と。

風に立つライオン p186


こうやって、背中を押してくれる人がいるから
背中を見せてくれる人がいるから
サポートしてくれた人がいるから
愛してくれた人たちがいたから


「ガンバレ」は人にいう言葉ではなく「自分を叱咤するときの言葉なのだ」と航一郎にあとで教わりましたが、航一郎は、自分が悲しいとき、悔しいとき、迷ったときにはいつも一人で広大な夜空に向かって叫んでいました。
僕はそんな彼が大好きでした。

風に立つライオン p16 ンドゥングより

こどもたちも、ガンバレるんだと思います。


くぅ。
期待しないで読んだ分、やられました。
私にとってはそんな本でした。


おまけ


災害の多い時代。
避難所でも笑顔になれるヒントもこの小説にはありました。
(チームビルディングやシェアの心得)
その姿は理想と言うかもしれませんが、
実際に活躍していたあの人を知るきっかけになるかもしれません。
気になる方はぜひ図書館か本屋さんへ。




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