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逆噴射小説大賞2019:投稿作品

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四名死亡、一名生存。

Mar 23, 2019, 9:18 am 「遅刻だマッチョマン! プロテインで下痢したか?」  ダミ声の眼帯男がジロリと睨む。 「ごめーん。私が最後?」 「これで全員だ。いいか! 今この時から俺のことはサーと呼べ。貴様ら五人は俺のチラシ広告に興味を持ち、俺の面接にパスした精鋭。チームだ。我々はアラスカに向かい、敵を叩く! 一刻を争う状況だ。先日も天から星が落ち、川の水がサーモンの血で赤く染まった。おい、アキアック。見せてやれ…… 彼も被害者だ」  義足に視線が集まる。 「

エスコートの流儀

 ワンコールで繋がった。男は前置きせずに切り出す。 「女を頼みたい」 『レファレンスはございますか』 「AAA-012」 『議員のご紹介でしたか。ご利用ありがとうございます。ホテルにご滞在ですか』 「プラザ。1905号室」 『お好みは』 「見てくれはこだわらん。いちばん上手い奴がいい」 『……では七つ星、最高ランクのテクニシャンが一時間ほどで伺えます』 「じゃあそれで」  きっかり一時間後にチャイムが鳴り、女が招き入れられた。美しいボディラインが際立つ白のカクテルドレス。長

ハリー・ザ・シャドウプリースト

『――午後から雲が減り、マイアミの最低気温は昨日より三度ほど上がるでしょう。今日はこの曲でお別れです。よい一日を』 「遅れちゃう!」  慌ただしく廊下を走るケイトの声がキッチンに届き、ラジオから流れるサルサを掻き消す。 「忘れ物は無いか!?」 「だいじょうぶ!」 「先生の言いつけを守るんだぞ!」 「はーい! ……っしょと。行ってきます!」  ドスン、と玄関ドアの重い音。ハリーは肩をすくめて微笑み、ハミングしながら卵に水を混ぜる。手早くスクランブルエッグを作り、ケイトが残したオ

ゴールドラッシュとシルバーアックス

 ギラつく太陽。一直線のハイウェイ。トルクにモノを言わせてビンビンにブッ飛ばす。キャデラック・エルドラド―― 名前からしてツイてるだろ? コイツだけはいくら金に困っても手放せねぇ。  ベガスで久しぶりの大勝負。LAだって郊外に行きゃあいくつもある。モロンゴ。バロナ。パラ―― だが田舎のカジノは性に合わねぇ。俺はベガスが恋しいのさ。あの華やかな街が。老舗のホテルで食えねぇ野郎どもとヒリつくような勝負がしてぇんだ。 「腹、へりましたね」 「バカ。こっからが気持ちイイんだ。お前は寝

眠れぬ街のマージョリー

第一話「Awakening」 私は叫びながら9ミリをブチ込む。 相棒の胸に何発も――  三番街から枝道に折れて車を止めると、死んだはずのハンクが近づいてきた。ドアを開けた途端、蒸し暑い空気とすえた臭いがまとわりつく。ブロンクスのホームレスは増える一方。大人も、子供も。 「ようマギー」 「おはよ。遅れてごめん」 「いいさ。って、顔色悪ぃな? 嫌な夢でも見たか」  ええ。あなたが死んだの。私に撃たれて…… なんて、縁起でもない。 「深酒」 「ヘッ、相変わらずだな。依存症の相棒