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改めて、専門家として知的障害について考えてみたー第4話

この記事は2,187文字あります。個人差はありますが、4分〜6分でお読みいただけます。

このnoteではVoicy(音声配信)で配信した内容のテキスト版(要約版)です。詳しくはVoicyで聴いて頂ければと思います。

ちなみに、Voicyは下記チャンネルで毎日更新しています!

さて、今日はシリーズで書いていた「改めて、専門家として知的障害について考えてみた」の第4話をお届けします。どうぞお付き合いください。できれば第1〜第3話もお読みいただける方がより理解しやすいかなと思うので、そちらもぜひ!


知的障害と適応行動

これまでの記事では、IQとはそもそも何か、IQのみを重視しすぎることの問題点等について解説をしてきました。

従来は、知的障害についてはIQが重視されてきたのですが、世界保健機関の「国際疾病分類」(ICD)、米国精神医学会の 「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM)、米国知的・発達障害協会(AAIDD)など、国際的な定義としては、「適応行動」という言葉が含まれるようになりました。

例えば、
AAIDD-12(AAIDDの最新版)では、「知的機能 (intellectual functioning) と適応行動 (adaptive behavior)の両方に有意な制限(significant limitations) がある状態」

DSM-5(DSMの最新版)では、「概念的、社会的、実用的領域において、知的機能と適応機能の両方が不十分な障害」

ICD-11(ICDの最新版)では、「平均より約2標準偏差以上低下(約2.3パーセンタイルより低い)している知的機能と適応機能で特徴づけられる」

とされています。
2標準偏差というのはわかりにくいと思うのですが…ざっくり説明すると「平均よりも大きく離れている(全体の2.3%以下のグループ)」ということです。

IQの平均が100だとした時に、95.6%は70〜130に入ってくるけれども、70以下または130以上に該当する人は4.4%くらいというという感じです。

と、ここで伝えたいのは、そうした数字の話ではなくて、国際的には「適応行動」とか「適応機能」という言葉が用いられるようになりました、ということです。

ちなみに、いずれの場合でも、これらの困難は発達期から認められるということも大切です。

適応行動って?

では、何を持って適応行動とされるのでしょうか。

一般的に、適応行動というのは、僕らが日常生活の中で遭遇する様々な課題に対して対応していけるような概念的スキル、社会的スキル、実用的スキルの総称を指しています。

….ちょっとこれだけだとよくわからないですよね。
少し具体例を出します。

  1. 概念的スキル:言語能力(読み書きや会話)、時間、お金、数字に関する知識など、知的な活動や概念に関わるスキルです。

  2. 社会的スキル:対人スキル、社会的責任、ルールや法律の理解/守る力、友情や関係を築く能力、被害に遭うことを避けるなど、社会生活において必要なスキルです。

  3. 実用的スキル:日常生活の自己管理(衛生、服装、食事、スケジュール)、家事、職業上のスキル、安全に関する知識、レジャー活動、移動、お金や電話の使用など、日常生活を送る上で必要な実践的なスキルです。


適応行動の評価は、これらのスキルをどの程度自立して行えるか、ということに焦点が当たります。

そして、自立して行えるということですから、「スキルがあるかどうか」ではなくて、「社会生活のために活用しているかどうか」が基準になります。

なぜ、そうした基準で考えるかというと、「自立しているかどうか」よりも、サポートが必要な領域はどこなのか(=どこに支援が必要なのか)を明らかにすることが目的だからです。

ですから、「自分から料理をすることはないし、関心もないけど、お金を渡してもらえれば買いに行く」というのは、適応行動としては「食事についてはサポートが必要」となります。

必ずしもIQとは比例しない

適応行動をこのように考えていくと、必ずしもIQとは比例しません。
IQが高くても、こうした生活スキルは乏しいという方もおられます。

これは大事な視点で、「IQは高いけど、サポートの必要性は高い」と考えていく際の指標にもなります。

そしては、これは主観的なイメージではなくて、「標準化された検査(=検査の信頼性や妥当性が十分に検証された検査)で判断すること」が重要だとされています。日本だとよく用いられるのは、Vineland-Ⅱ適応行動尺度という検査です。

課題

そもそも、IQや適応行動を把握する目的は「その人に合ったサポートのため」です。

現在の知的水準、適応行動を把握することで、どこで困っていて、どんなサポートが望まれるのか、具体的にプランを立てていくことが何より重要です。

ただし、IQや適応行動の数値だけ見ても、そうした支援プランを立てることはできません。診断名がついたからといって、具体的な支援プランが立つわけではありません。

支援の必要性を訴えたり、周囲の方に理解してもらうためには、知能検査には現れない、生活上の困難(=適応行動の困難)も併せて確認し、支援プランを考えていくことが重要ではないでしょうか。

そうしたIQと適応行動の意味を正しく理解し、判断できる専門家の養成も重要になってくるだろうとも思います。

佐々木康栄

災害時に役立つさまざまな情報

これまでnoteにまとめていましたが、TEACCHプログラム研究会東北支部のホームページに集約しました。宜しければご活用ください。

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自閉症スペクトラムの方々の支援現場では「アセスメント」というキーワードはよく見聞きするようになりました。他方で、

「そもそもアセスメントは何か?」
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こうした疑問を現場からはよく見聞きします。
そこで、東北支部では今年度のテーマを「アセスメント」にし、年間を通じて共にアセスメントについて学びたいと思います。
  
1回目は、「アセスメント総論」ということで、今後のセミナーにつながる内容として、佐々木がお話をさせていただきます!どうぞ奮ってご参加ください。

*この画像は、当事者の方に作成いただきました。春らしい、素敵な画像に仕上げていただきました!*

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