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三遊亭圓歌一門内「パワハラ」裁判第1回口頭弁論 1

 落語協会所属で二ツ目「三遊亭天歌」であった噺家の井上雄策さんが、師匠である四代目三遊亭圓歌こと野間賢さんに対して提起した民事訴訟の初回口頭弁論が東京地方裁判所で行われました。
 傍聴人は15人で、井上さんと東京地方裁判所めぐりをnoteで行った三遊亭はらしょうさん、一般社団法人落語協会理事の古今亭菊之丞師匠の姿もありました。
 民事訴訟のレポートでこのような個人的な感情を吐露することが不適切なのはわかっていますが、私は非常に複雑な気持ちでした。被告の三遊亭圓歌師匠は新宿末廣亭での初めての寄席見物で主任だった師匠で、あの時「幕末竜馬伝」を聴いていなければ、私が寄席や落語会に通うこともなかったわけです。そして、傍聴席にいらっしゃった古今亭菊之丞師匠は私が初めて独演会に行った師匠で、前座として登場した今の蝶花楼桃花師匠、二ツ目として登場した今の古今亭文菊師匠の高座を聴きに行くきっかけを与えてくれた師匠でもあります。そして、三遊亭天歌であった井上さんは、私が初めて落語協会2階の黒門亭に行った時に、当時前座の三遊亭ございますさんとして「寺の冷蔵庫」をかけていた噺家さんです。アンジャッシュのコントに影響を受けたと思われるその新作落語を楽しんだことを覚えています。ここが法廷ではなく落語会の打ち上げの居酒屋などであればどれだけ楽しかったかと感じないわけにはいきませんでした。

裁判所の構成と出頭者

裁判長裁判官 杜下弘記
右陪席裁判官 安川秀方
左陪席裁判官 高岡遼大
裁判所書記官 石川舞

原告側
原告 井上雄策
原告訴訟代理人 船尾徹弁護士、永井久楽太弁護士

口頭弁論

杜下弘記裁判長(以下「裁判長」)「それでは開廷します。
訴状及び訴状訂正書を陳述します。
また、被告から答弁書が提出されていますので擬制陳述します。
甲第5号証の2の訳文ですが、証拠説明書には『原本』とあります。
この原本か写しかという考え方には諸説あるわけですが、録音データということになりますと、こちらに提出された録音データはダビングしたもので、ダビング元のデータがあるわけですから、写しというべきかなと思うのですが、原告訴訟代理人のお考えはいかがですか。」
原告訴訟代理人船尾徹弁護士(以下「船尾弁護士」)「写しで結構です。」
裁判長「それでは、甲第7号証までを取り調べます。
乙号証ですが、乙第1号証の1から乙骨第6号証まで提出されていますが、原告のもとには届いていますか。」
船尾弁護士「はい。」
裁判長「今後の進行についてご意見はありますか。」
船尾弁護士「原告本人による意見陳述を行いたいと思っています。」
裁判長「どういうことをおっしゃるのか聞いた上で、相手方のご意見も聞いて判断することになろうかと思いますが、陳述する内容については提出されていますか。」
船尾弁護士「訴状の3頁以降の部分だけ補足で原告本人から4〜5分説明したいと思っています。」
裁判長「その内容は事実経過に関するものですか。」
船尾弁護士「はい。」
裁判長「事実経過については、訴状が提出されて裁判所は読み取れる範囲で原告のご主張はどのようなものかを理解しています。被告のご意見を聴くことができない中で、原告訴訟代理人本人の思いなどを述べられるというのであれば裁判所としては事実上許容するということになろうと思います。」
原告「訴状の補足説明については。」
裁判長「それは裁判所は理解しています。思いを一言述べるようにしてください。裁判所としては今後当事者の尋問を行うことは必要ではないかと思っていますので、事実経過に関することについてはその場で行おうと考えています。書面については裁判所もわかっていますから、読み上げではなく思いを述べるようにしてください。」
原告「今回のハラスメントについては、落語という特殊なる世界の中で「噺家なら許される』という認識があると思っています。わたしは噺家ですが、噺家の前に人間であり一社会人です。このようなハラスメントは断じて許せないと思い、訴訟を提起しました。」
裁判長「訴訟を提起するにあたって悩まれましたか。」
原告「はい。この業界はやり直しがきかない業界で、法に訴える人はいませんでした。師匠に逆らったら辞めるしかありませんでしたし、噂が広がると他の師匠も弟子に取りたがらないという事情もあります。そのような中で弱者である私は法に頼るしかなかったのです。」
裁判長「職を賭して訴えたということですね。」
原告「はい。」

補足

 井上雄策さんの立場については補足が必要でしょう。東京の噺家は、見習い、前座、二ツ目、真打と階級があり、二ツ目までの噺家のは師匠の弟子として修行する立場です。したがって、破門された場合には別の真打の師匠の弟子にならなければ噺家としての修行を続けることができなくなります。
 破門された後に別の師匠の弟子になって修行を続ける噺家さんもいらっしゃいます。落語協会から落語芸術協会というように別の団体の師匠の弟子になって修行を続ける場合には、前座からやり直すことになります。ただ、定席の寄席での修行のある落語協会については30歳以下、落語芸術協会については35歳以下という入門時の年齢制限がありますので、井上雄策さんが噺家を続けていくためには、年齢制限がないものの大きく環境が変わることになる円楽一門会や立川流への移籍を除けば、落語協会内で別の師匠の弟子になって修行するしかないことになります。