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Eighth memory 02 (Conis)

「着いたぞ、だが気をつけろよエスシー……その辺は、足場がーー」
「わっ!!」
「っつ!! あぶねっ!!」

 ワタシが足を踏み外し落っこちそうになる直前、オービーがワタシの手をとりひょひょいと引っ張り引き上げてくれました。

  踏み外したワタシよりも、オービーのほうがぞわぞわぶるぶるした表情を浮かべていました。

「落ちる、かと思いました」
「あのなぁ! だから気をつけろとーー」
「?」
「まぁ、無事だったからいい。行くぞ、エスシー」
「……あっ、あのっ!!!」

 相変わらず少しとげとげした言い方でしたが、その中のぽかぽかしたオービーの気持ちを感じたワタシは大きな声でオービーを呼び止めました。

「どうした?」
「はい、あのえーっと、ありがとうございます?」

 オービーに向けて小さく頭を下げます。
 これはシーエイチが教えてくれたことです。胸がぽかぽかしたり、又逆にちくちくした時はその相手にこうして頭を下げてその言葉を言えば良いと彼女はワタシに教えてくれました。

「……気にするな」
「気にする、ですか?」

 オービーは、ワタシの知らない言葉をたくさん知っています。シーエイチもそうでした。

 他の人たちはワタシが知らないことを初めは色々教えてくれました。

 でも、やがてみんな何も教えてはくれなくなり、ワタシの前から何も言わずに去っていってしまいます。

 でも、二人は違いました。ワタシに色んなことを教えてくれました。
 その意味はわかりませんがワタシの中にはその色んな事がぱんぱんに詰まっています。

「……問題ない、ということだ。わかったか? エスシー」
「はい、問題ない、わかりました。オービー」

 オービーはそう言って、また、にこぎゅっとした表情を浮かべて、それからは一言も言葉を発さず、黙ったまま歩いていました。

 でもオービーはまたワタシが落ちないようにワタシの手をぎゅっと握って離さず、しっかり握ったまま時折振り返ってワタシの顔と様子を見ていました。

しばらくてくてく歩き続けると、ワタシたちはマザーのいる揺り籠の最深部へたどり着きます。

 でも何故かオービーは揺り籠に行くのがイヤイヤなようでした。

 他のみんなはにこにこして、マザーのところへ行くのに、オービーだけはイヤイヤにがにがしていました。

 どうしてオービーは、ほわほわしたりにこにこしたりするマザーがイヤイヤなのでしょうか?

 ワタシにとってマザーはほわにこ出来る存在です。
 でもオービーは違います。マザーとあってもほわにこできないとオービーは言っていました。

 ワタシは、マザーのいるあの場所……いえ、この揺り籠という場所自体には、ほわにこ出来ずにざわぶるしてしまうのでオービーの気持ちも少しだけわかる気がしました。
 
「待っていましたよ。私の子供たち」
 
 マザーはワタシたちを見てそう言いました。

 マザーの近くにはワタシたちとは別に数十人の人たちがマザーに頭を撫でられた後に眠っていました。

 マザーはいつもふわふわした顔をしています。
でも、不思議です。

 マザーのそのふわふわした顔しか見たことがワタシはありません。みんなもきっとそうです。

 みんなからは時々見える様々な色も、マザーは綺麗に透き通っているだけで何も見えません。

 マザーにそのことをお話するとふわふわした顔でワタシの頭を撫でてくれました。
 
「今日の生存者は俺たちが……最後だと思います。マザー……」
「最後……だと思う? OB-13オービーサーティーン、情報は正確に正しく伝えろ」

 お顔に何かつけていて、ちゃんとお顔が見えない大きい人、ヌルさん。そのヌルさんがオービーにそう言いながらとげとげした雰囲気で剣を向けました。

 その瞬間、オービーもヌルさんを睨み、ぴりぴりした雰囲気をヌルさんへと向けました。

 「……NO-00ナンバーヌル……マザーの側近とはいえ、まだ動ける俺を壊す権利があんたにあるのか? それこそ、仲間の始末はマザーに歯向かうことになるんじゃないのか?」
「っつ――」
NO-00ナンバーヌル、剣を納めなさい……」

 ヌルさんの剣先がオービーの首筋近くまで迫りました。

 しかしマザーのその一言でヌルさんの動きが止まり、オービーからもヌルさんからもさっきまでのとげとげやぴりぴりしたものがなくなっていました。

 でも代わりになんだかざらざらした空気が流れました。

「……マザーの御意思の赴くままに……」
 
 ヌルさんはそう言って、オービーに向けていた剣を下ろして、またマザーの近くで腕を組んでワタシたちの方をじっと見て立っていました。

 他の皆さんはびくびくしたり、オービーのようにぴりぴりやとげとげしますがワタシはヌルさんは本当はとてもふわふわぽかぽかしている人なのだと思っています。

 前にワタシとよく一緒にいた本好きな女の子。

 ヌルさんと初めて出会ったのもその本好きな彼女と一緒にいる時でした。
その本好きな彼女は、ワタシに名前すら教えてはくれませんでした。

 それにその本好きな彼女は他の人とあまり仲良しさんではなかったように思えます。

 その頃から既に、両足がキラキラとした宝石のようになっていて上手に歩くことが難しそうに見えました。

 いつもどこかツンツンしているように見えましたが、ワタシが話しかけると目をまんまるまるにしてびっくりしていましたがふわふわした空気でワタシに本のことを教えてくれました。

『本は私を決して裏切らないから好き』と本好きな彼女は良く言葉にしていました。
 ワタシのことも『エスシーも裏切らないから好き』と言ってくれました。

 ある日オービーが出掛けていない日、ワタシはその本好きな彼女と二人でマザーに会いに行きました。
 その時、マザーに撫でられていたワタシたちを離れて見つめていたのがヌルさんでした。
 じっとこちらをギロギロした目で見ていたヌルさんをワタシは少しぶるぶるあれあれした顔で見ていました。
 しばらく様子を見ていたかと思うと、ワタシの横をふとすり抜けて本好きな彼女の変形してしまった足の様子を見に来て『痛むか?』と尋ねました。

 すると、その本好きな彼女は『平気よ。ありがとうヌルさん』とにこにこ答えました。

 そう言われた、ヌルさんは小さくにこにがした表情をしていたような気がします。
 本好きな彼女はワタシにヌルさんはみんなが言うような怖い人ではないと言っていました。
 だから、ワタシはヌルさんを本好きな彼女のまねっこをしてヌルさんと呼ぶようになりました。
 ヌルさんは、みんなの思っているとげとげぴりぴりしているような人ではないとその時から思っているのです。 

 ……でも、マザーに呼ばれた本好きな彼女とその日、別れた後からその姿を見かけていません。
 一体どこへ行ってしまったのでしょうか……?

「……こちらへ来ていただけますか? OB-13オービーサーティーン、そしてSC-06エスシーシックス……」

 そのマザーの言葉にハッと我に返ると、まるで引き寄せられるように、ワタシはマザーの方へとぽてぽてと近づきました。

「マザー」
 
 ワタシはマザーの太もも近くでごろごろりと横になり、マザーの顔をうーんと下から見上げるように天井を仰ぎました。


つづく


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