ヒトノモノ その4


 夢といっても、悪夢ではなかった。そのおかげもあってか、いつものように規則正しく、6時30分に起きた。一階に下り、適当に食パンを電子レンジのトースターで焼く。ゆっくり回る食パンを眺めていた。そして、食パンにバターを塗って食べる。ただそれだけの簡単な朝食だった。

 母を起こさないように、そっと家を出た。速足で駅に行き、電車の座席に座る。誰とも視線を合わせないようにするため、本を読んだ。活字にだ

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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)㉓

二人は大事な何かを言いたいのだが、何から話したらよいかわからない、そんな様子だった。けれど何かを断ち切るように信二郎が口を開いた。

「さっきも言ったようにそのテープの中で歌っている男を私は知っている。間違いない、あいつだ。いや、正確には知っていた、が正しい」

カズマサとナナミは次に続く言葉を待ったが、信二郎から次の言葉は発せられなかった。

「この人はだれなんですか?」

カズマサの問いに信二

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ヒトノモノ その2


 隣から覗かれていると思うと、どうしても思考が鈍ってしまう。シャーペンが止まる。早く、この問題を解かなくてはいけない。三角比の基本的な公式をすでに覚えたはずだ。それにもかかわらず、問題に対してどの公式を使えばよいのやら見当がつかない。

 気まずい。ただ、秒針の音だけがする。焦ったところで、何の解決にもならなかった。
「分からないの?」
先生はそうやって、軽く馬鹿にするように僕を見た。
「公式

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暗い海に触れて⑦

「何、言ってるんですか…?」
いきなり何を変なこと言っているのかと拍子抜けしてしまった。僕のお父さんは実家に戻ればいるし、今更何を言っているのだろう。
「…いや、すまない忘れてくれ」
そう言い放った前田さんはこちらに背中を向けゆっくり歩き始めた。寂しそうな背中を僕は見送ることしかできなかった。実の父親という言葉に疑問はもちろん湧いたが、頭の中にいろんな光景が彷徨っていて思考回路がパンクしそうで、こ

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暗い海に触れて⑤

「え?何ですか...それ」
ドアにかけていた手が緩むと同時に前田さんの目を見る。聞きなれない言葉に慎重に耳を傾ける。
「君のように幻覚が見え、その存在と会話したり接することができる人間が他にも複数人いる。そんな人達を研究してる施設があるんだが、僕はそこの社員の一人だ」
「幻覚…」
まるで僕のことを監視でもしていたかのような言葉に恐怖心が宿る。動揺を隠せていない仕草が表に出る、パジャマ姿の胸元を軽く

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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)㉒

カズマサはまだどこか上の空の様子で、遠くの一点をぼんやりと見つめていた。

「ねぇ、ねぇってば」

 ナナミが立ちあがってカズマサの肩をゆすろうかと動作を始めた瞬間、ようやく我に返ったカズマサが反応した。
「え、あ、はい」
 自分と現実とのチューニングを合わせるみたいに、少しずつ自分を取り戻すカズマサ。
「すみません、すみません」
「大丈夫?カズマサ君。いったいどうしちゃったの」
「いや、その」

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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)㉑

「ミルクや砂糖は入れる?」

 それはカズマサたちに投げかけられた言葉だった。その言葉で我に帰った二人は、ソファに向き直り、「はい、お願いします!」とユニゾンで答えた。二人は目を合わせ、顔を火照らせる。

「冷たい方が良かったかしら?」
「いえ、大丈夫です」再びユニゾンする二人。
女性はその様子を見て、優しく微笑み、砂糖を一つずつカップに入れ、そこにミルクを注ぎ入れた。
「ゆっくりしていってね。私

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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)⑳

信二郎が門の扉に手をかける。固く閉ざされた扉は、いかなる侵入者も拒否しようとふさぎ込んでいるように見える。しかし、信二郎がポケットからキーケースを取り出し、その中から選んだ鍵を鍵穴に入れ軽く回すと、門はすぐさま服従したかのようにゆっくりと開き、王の帰還を受け入れたようだった。

 芝生を真っ二つに割るように敷かれた石畳を通り、住居に向かう。庭の植物は明らかに人の手が入念に入れられ、確かな場所に確か

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幸せ殺人者 another story②

転校生の足元ちゃんは周りからとても興味を持たれていた。彼女が転校してきた日のお昼休み

「ねえ、どこから来たの?」

去年隣のクラスにいた、川田ふみちゃんが足元ちゃんにそう聞いたのが聞こえた。ふみちゃんはよく変な顔をしてクラスのみんなを笑わせる係だった。きっと今年もそうだろう。ふみちゃんと1度も話したことの無い私でも彼女のことは知っていた。彼女はそれくらい有名な子だった。

「隣町から来たよ。」

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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)⑲

ショップバッグを提げた信二郎がナナミに再び近づく。

「諸君、私は自分の欲しいものを手に入れた。早速帰って聴こうと思う」「待て、待て」ナナミが怒りを込めた口調で返した。

「あなたのそういう所、理解してるつもりだったけどさ。」ため息も混じる。

「今回は引き下がれないわ、私たちにも聴かせなさい、そのバート…」

「ヤンシュ」カズマサが付け加える。

 一瞬眉をしかめた信二郎だったが、すぐに元の表情

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