9-号外_バラ

「授業・研修の設計」3本(2017年9-10月のnote記事より)

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今回は、2017年9-10月のnote記事から、「授業・研修の設計」についての記事3本をまとめてお届けします。

01 新しい知識を仕入れるという視点から見ると「講師の話を聞く」という方法は効率の良い方法ではない。
02 50年前に提唱されたPSI(個別化教授システム)が現代の教育を改革する。
03 学習ビデオは前置きなしに単刀直入に内容を伝えるもので数分の長さのものが最適。

01 新しい知識を仕入れるという視点から見ると「講師の話を聞く」という方法は効率の良い方法ではない。

前回はグループワークのやり方として、単に話した内容を発表してもらうだけでなく、講師がその発表内容をコンパクトに板書して、コメントとまとめをするといいということを書きました。

さて、ここしばらくはグループワークの方法について書いてきました。グループワークの効用は次のようにまとめられます。

・他人に伝えるために、自分の考えをまとめて、表現すること自体が学習である。
・他人の考えを聞き、自分の考えと比較し、統合していくこと自体が学習である。
・自分が学ぶためには、自分の立場や状況と近い他人から学ぶのが効率の高い方法である(ヴィゴツキーの "発達の最近接領域" 理論)。

以上のような理由で、私の授業や研修ではグループワークを一定の割合で組み入れているのです。そうすると必然的に、私が話したり説明したりする時間は、グループワークで取られた時間の分だけ短くなっていきます。そのため「もっと講師の話が聞きたかった」などの感想を事後アンケートでいただくこともよくあります。

それは私にとってうれしいことです。もし十分な時間があって、「話せ」と注文されれば、いくらでも話すでしょう。実際、自分の話が止まらなくなることもしばしばあります。そういう時は、時間の調整に苦労します。

「もっと講師の話を聞きたい」という要望は、自分にとって新しい知識を仕入れたいという願望にほかなりません。それは素晴らしいことです。私たちは常に、自分の知らなかったことと新しい考え方を知りたいと思っています。それは自分の成長と生き延びのために必要なことなのです。

しかし、新しい知識を仕入れるという視点から見ると、「講師の話を聞く」という方法は効率の良い方法とはいえません。「効率」とは、得られた知識量を時間で割ったものです。面白くて新しい話をしてくれる講師の話を聞くのは、とても楽しい時間です。しかし、得られた知識量を時間で割ったものを効率とすると、講師の話をリアルタイムで聞くことはあまり効率がいいものではないのです。

もちろん、目の前の講師がその場で話をしてくれるという「体験」が大切なのだという意見は否定されるものではありません。しかし、新しい知識を仕入れるという観点では、効率はよくありません。

その理由は、講師の話は「巻き戻し」ができないからです。自分が聞き逃したからといって「そこをもう一度説明してください」と要求するわけにはいきません。そうすると、理解が100%ではなくなります。さらに、講師の話のスピードが自分の理解のスピードに合っていないことがよくあります。話が速すぎて理解がついていけなかったら、理解が不十分になります。また、すでに自分が知っていることなら、その話は退屈になります。

では、新しい知識を自分にあったスピードで、しかも完全に理解するためにはどういう方法があるのでしょうか。実は、これは1960年代にすでに提唱されていました。「個別化教授システム」(PSI, Personalized System of Instruction)という方法です。次回からこの方法について説明していきましょう。

02 50年前に提唱されたPSI(個別化教授システム)が現代の教育を改革する。

前回は、新しい知識を仕入れるという視点からは「講師の話を聞く」という方法はあまり効率の良い方法ではないことを書きました。もちろんその話が最先端の情報であれば、話を聞く以外の方法はありません。しかし、そうでない場合は、話のスピードが自分に最適なものでない限り、効率は落ちてしまいます。

新しい知識を自分にあったスピードで、しかも完全に理解する方法があれば良いのです。実は、これは1960年代にすでに提唱されていました。「個別化教授システム」(PSI, Personalized System of Instruction)という方法です。

PSIの教え方の特徴は次の4点にまとめられます。

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