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ぼくらがPUBLIC DESIGN LAB.に取り組む理由

2014年に、公共におけるサービスデザインの可能性を探究する【PUBLIC DESIGN LAB.(PUB. LAB.)】というチームを、同僚である小山田那由他さんと一緒に立ち上げ、以来、いくつもの調査研究やプロジェクトを実践してきた。当時と比べると、サービスデザインに対する世間の注目度はかなり高まってきている。現在、サービスデザインは、行政のDX推進において、公共サービスの体験を利用者視点で改善し、それに伴う業務改革(BPR)を実現するためのアプローチとして、その重要性が認識され始めている。コロナ禍の情勢を受け、デジタル庁新設の動きなどもあり、今後もこの流れはさらに加速するだろう。これはもちろんとても喜ばしいことだが、あえて今、公共におけるサービスデザインの意味を、もう少し大きな視座で問い直したい。

行政の歴史の変遷をみると、行政府が中央集権的に公共財を管理する、いわゆる「大きな政府」から、公共サービスを市場の競争原理に任せて最適化する「小さな政府」への移行を経て、現在「Networked Governance」と呼ばれる第3のモデルが提唱されている(このあたりの概念は、若林恵編著『NEXT GENERATION GOVERNMENT』で丁寧に説明されている)。その明確な定義はまだ定まってないが、行政、市民、企業などさまざまなプレイヤーがネットワーク化され、それぞれの資産を有効活用しながら、一つの視点からは複雑すぎて手に負えない「厄介な問題」に取り組んでいくことだと解釈した。

サービスデザインの意味は、このネットワークを十全に機能させることにある。さまざまなアクター(ユーザーもその一部)が持っている資産を組み合わせて価値を共創することが、まさにサービスデザインそのものだ。これからのサービスデザインは、顧客体験を改善するための単なるツールボックスにとどまらず、次世代の「あたらしい公共」をつくるために欠かせないアーキテクチャをつくることにつながるとぼくらは考えている。突き詰めると、ぼくらやみんなにとっての「公共」という意味を、次世代のために問い直すことにもつながっていくはずだ。アフターコロナに向けて社会が大きく変わろうとしている今こそ、サービスデザイン思考で「あたらしい公共」を提案していく活動体として、【PUBLIC DESIGN LAB.】をリブートしたいと思う。

「あたらしい公共」について考える中で、ある一つのイメージが思い浮かんだ。それは映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で、営業時間が終わった後も映画を観たくて群がる群衆のリクエストに応えて、映写技師のアルフレードが、粋なはからいとして映写室から広場の壁に映画を写すシーンだ。観衆が立っているのは公共の広場で、映写機は映画館のもので、映画が写っている壁は誰かの家だが、あの風景はまぎれもなくパブリックだ。そして、この風景を実現したのは、「映写機の鏡の角度をいつもと少し変える」というほんの些細なソリューションだった。「あたらしい公共」をデザインするというのは、案外こういうことなのかもしれない。いつも使っている鏡を少し傾けていつもと違う風景を映し出すこと──。【PUBLIC DESIGN LAB.】は、こういう小さな可能性を敏感に感じ取り、丹念につないでいく活動体でありたいと思う。

PUBLIC DESIGN LAB. :https://pub-lab.jp/


Photo by Gabriel Garcia Marengo on Unsplash

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