柱
エネルギーがない。
だから今年の電気代は高い。
彼だったか彼女だったか忘れたが、誰かがそう言っていた。
昼夜問わず無駄に垂れ流しているテレビでも同じようなことを言っていた気がする。
もちろん垂れ流しているので、きちんと情報として脳には入っていない。
記憶されていない。
だから電気代の請求額を見て驚くことになったのだ。
まあ驚いたところで何もできないのだが。
来てしまった請求は払うしかないのだ。
懐はかなり痛いが。
なーあ、聞いてるぅ俺の話?
……うん、聞いてなかったな
おい!
そこは嘘でも聞いてるって言えよ!
嘘はいけないだろ、嘘は
だよなあと手のひらを返して、ため息とともにこちらへもたれかかってくる。
重いし可愛いくないし、なんなら気持ちが悪いのでそっと左に十センチほどずれる。
ぬあ!
この悲しみに暮れている友人が寄り掛かっているというのに、お前は容赦なくずれるのか!
ひどいぞ!
……うるさいな
こちらも軽くため息を吐き、悲しみに暮れているという友人に目をくれてやる。
わざとらしく目を潤ませてこちらを見つめるのは、こいつの常套手段である。
……金なら貸さんぞ
まだ何も言ってない!
そういう顔をしていた
うう~……だって今月の電気代おかしいんだもん!
あんなに使ってないって絶対!
去年より三千円以上かかってる!
ぜっっったいにおかしい!
……まぁ、再エネ賦課金?
とかも上乗せされてるらしいからな
なにそれ!
俺も知らん
知らないなら何でそんな言葉が出てくるんだよ!
テレビから流れてきたとか適当にあしらって、欠伸をひとつ。
つーかさ、なんでこんなに電気代かかるわけ?
エネルギー不足だって言ってたぞ
どこかの誰かが、と心の中で付け足す。
エネルギー不足ぅ?
じゃあ原発とか火力とか天然ガスとか風力とかもっと稼働させればいいじゃん!
原発は無理だろ反対派が多いし、火力とか天然ガスに関してはCO2出すからさらに無理だな
じゃあふ
風力とかに関しては自然次第だからな
あと電気ってのは貯蔵が難しい
んんん……あ
今のあ、からとてつもなく嫌な感じを読み取って、部屋から出ようとしたのだが右腕をしっかりと掴まれていて叶わなかった。
なあ、俺、いいこと考えついちゃった
聞きたくない言うな口を閉じてその考えはお前の中にだけ留めておけ外に出すな
ヒトってさ、一人消すだけで凄いエネルギーが出るっていうじゃん
どこから聞いたんだそんなこと、と頭の中で呆れる。
それってつまりヒトはエネルギーとして使える可能性があるってことだよな
止めろ言うな
先に続く言葉がなんとなく想像ができたので止めたが、意味はないだろう。
なあ、ヒトをエネルギー源として投入出来たらさ
エネルギー不足って解決できるんじゃないか?
こいつは時折、悪魔のような笑みを浮かべる。
そしてこの笑みをしたあと、こいつのアイデアは現実のものになる。
最悪なジンクスだ。
左の耳裏に嫌な汗が浮かび上がるのを感じながら、俺はこいつから目を離すことができなかった。
数年後、エネルギー不足は解決した。
友人の言っていた悪魔のようなアイデアのおかげで、俺達はぬくぬくと過ごすことができている。
これはきっとヒトが消えない限りは、今後も変わらないだろう。
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