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小説

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小話まとめ。 短編読み切りです。 色んなれんあいとか堂々巡りの思考
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記事一覧

或る夏の群青

※BLです

きみがいるから、楽しいんだ。

夏休みが目前に迫る学校の帰り道。夕暮れが辺りを包んで、みんながみんなオレンジ色に見える。昼間よりずっと涼しい風が吹き抜けて、汗ばんだ首筋を冷やした。

「待ってなくてもよかったのに」
「なんで?」
「せっかく半日になったのに、これじゃあいつもと同じだ」

俺の隣を歩きながら、ゆきちゃんはだるそうにそう言った。静かな風がゆきちゃんの前髪を揺らして、眼鏡の

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黒に解ける

※自殺志願者の話



限りなく白に近いグレイ、冷たい空気、宙に染みる深い息。

ここから飛び降りれば死ねる、終わる、総てが、失くなる。

手を伸ばせば届くのではないかと思ってしまう程に近い空、限りなく白に近い、グレイ。

高い高い都心のビルの、一番高い屋上で。

フェンスを乗り越えた先に立つ、自分の鼓動が鼓膜に響く、静寂。

遥か下に見える街の喧騒は聴こえない、聴こえるのはただ、狂った様に打

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登場人物紹介1 保健医と女生徒

佐伯 梨花
(さえき りか)

高校3年生。
身体があまり丈夫ではなく、保健室のドアを叩くことが多い。
保健室の先生である葉介に想いを寄せていて、次第に仮病を使ってまで会いに行くようになる。
恋人同士になってからは、少し控えるようになった。
大人しく冷静で優秀な生徒だが、恋愛沙汰になると我を忘れるのが玉に瑕。
友達は多くも少なくもなく、あまり踏み込んだ事は話さない主義。
両親が離婚していて母親とふ

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白と紫煙と恋

先生はずるい。

「まーたサボりか」

保健室の扉を開いた私の顔を見るなり、先生はそう言って、煙草を灰皿に押し付けた。

なんだか今日は不機嫌そうだ。珍しく真面目に書類を書いているみたいだから、疲れているのかもしれない。

「単位足らなくなるぞ」

「…退屈、なんです」

「阿呆か。学生は勉強が仕事だろ、早く戻れよ」

なんて言いながらも、先生は空いたベッドに座った私を追い返したりはしない。いつも

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きみを想うこと

※BLです。メンヘラです。

ずっと一緒にいるって言ってよ。

「だいちゃん」
「んー」
「だいちゃん」
「なーに」
「...なんでもない」
「そー」

黒髪、眼鏡、いつも変わらない穏やかな表情、笑顔も、少し悲しそうな顔も、全部、全部。
いつか、どこかへ行ってしまいそうなのだ。

「なに読んでるの」
「片瀬んとこで買ったやつ」
「新刊?」
「うん」
「面白い?」
「面白いよ」

びっしりと文字が詰

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