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12月29日 福を招くのは【今日のものがたり】

 出会いというものは突然だ。
 この一年、私は両親の経営するパン屋さんを手伝ったことが縁で素敵な人たちと出会うことができた。

 魔法使いのアーリンさん。
 吸血鬼のドリスコルさん。

 その二人は今、目の前にいる。

「ア、アーリン様ッ」
「だから、“様”はやめてよ」
「いえ。命の恩人ですから“様”をつけさせて下さい」
「いや」
「そんなぁ」

 このやりとりをもう何度も聞いている。だからこれが、アーリンさんにとって本当は嫌なことではなくて、心では嬉しいと思っていること。そして、嫌だと言われているドリスコルさんも、アーリンさんと会えて話ができていることに安堵しているということもわかっている。

 ドリスコルさんはアーリンさんが作った魔道具によって生き延びることができた。ドリスコルさんは吸血鬼の主食である“血”がものすごく苦手で、飲み込むのに苦労していたのだ。
 そんなとき魔道具に出会い、口にしたら……これまでにないほどの力がわいてきたのだと教えてもらった。苦手な血と同じような色だったのにどうして口にできたのか。とてもおいしそうだと思ったらしい。ドリスコルさんって見た目はクールそうなんだけど、そういうお茶目なところもあるのよね。

 アーリンさんも、助けられたということは良かったと思っているのだけど、魔道具の効果がイメージしていたものとは違っていたようで、その部分での戸惑いがあるのだと聞いた。

「ふたりで協力し合えば、より強力な魔道具ができるんじゃない?」

 私の何気ない一言がふたりの中に眠る何かを目覚めさせたようだった。

「エレン! ありがとう! そうよ、そうよね、とても素敵な案だわ」
「ありがとうございます、エレンさん。私はアーリン様のためならすべてを賭けられます。アーリン様の魔道具はもっともっと世に出るべきですから」
「だから、“様”はやめてよ」
「いえ。私はいつだってアーリン様とお呼びいたします」

 人との出会いは福を招く。その福が大きく温かく広がっていったら……きっと、世界はもっと輝くんじゃないかな。
 ……なんて、壮大なことを思えてしまえるほど、目の前の二人が持つ可能性に私が一番期待している。

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