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6月20日 ミントの秘密【今日のものがたり】

 俺は趣味でマンガを描いている。
 そして、クラスメイトの入沢(いりさわ)に今、読んでもらったところだ。

「加茂(かも)くん、すっごい細かいこと言ってもいい?」
「いいぞ」
 入沢が原稿の3枚目を俺に見せてくる。このシーンは確か……
「このコマ、デザートの上にミントが乗っているでしょ」
「おう、乗せた」
 入沢が指し示していたミントから指を左に滑らしていく。
「でも、次のコマでなくなっているのはどうして?」
「おわっ、確かになくなってるな」

 俺は指摘を受けた2つのコマを見比べる。確かにミントがなくなっていた。こ、こんなわかりやすいコマなのに……。

「デザートの上のミントって、そのまま食べるか、食べずにとって避けるか、というのが二大行動だと思うんだけど」
「おう」
「でも、そのどちらの描写もなかったし──」
 入沢が原稿をめくっていく。
「このミントが乗ったデザートを食べた青年は読み進めていってもミントが苦手だなというあきらかな描写もなかったし、苦手だというイメージもわかなかったから、これはただの描き忘れかなって思ったんだけど」

 入沢はとんとんと机の上で優しく整えてから原稿を俺に返してきた。受け取ってから俺は頭を下げる。

「まったくもってご指摘の通りです」
「よかったー。唯一のもやもやが晴れたよ」
「唯一?」
「うん。お話自体は続きが読みたいなって思うくらいおもしろかったし、絵も丁寧に描いているのがわかったから、そのミントだけがひっかかって」
「入沢に読んでもらってなかったらミントのことは気づかなかったかも」
「本当に細かくてごめん。でも私、ミントが好きで。好きなものって見過ごせないでしょ」

 ……言われてみれば確かに。本屋でコミックの表紙見て気になる構図だったりすると見過ごせないもんな。

「デザートの上に乗っているミントって、スペアミントなことが多いんだけど、加茂くんはちゃんとペパーミントとの描きわけができてるなって思って、そこは嬉しかったんだよね」
「スペアミントとペパーミント……」
「葉の形が違うからね。ほら、別のコマでミントティー描いたでしょ。そのグラスの中の葉はペパーミントだったから」

 こ、細かい……。家に帰ったらその2つの葉っぱを調べ直さないと……。今回たまたま参考にして描いたのがうまいことマッチしていただけ……ということは……すまん、秘密にさせてくれ。

 それにしても入沢はいつも俺が気づかない部分を指摘してくれるからありがたい。この細かさが好きで、描いたマンガを読んでもらっているといっても過言ではない。

 次作へのモチベーションも高まったし、ここはスペアミントが乗ったデザートと、ペパーミントティーを入沢にごちそうしよう。
 秘密に対しての贖罪の意味も少し含めつつ……。

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