小売、アパレルの抱える五つの課題

僕の会社は、コロナの影響もあってほぼ毎日テレワークになっている。
幸いなことに、売り上げに影響もなく、潤沢に仕事はある。

ただ、家と喫茶店の往復が半年以上続いているので、生活になんというかハリがない。
晩酌しつつ、メルカリや海外サイトで洋服を見るくらいしか楽しみがない、というのが現状だ。

アパレル業界は以前から待遇が悪い、先行きが暗いと言われ続けているけれど、メルカリをはじめとしたP2Pプラットフォーム(かっこよく言ってるけど、ただのフリマ)が出てきてからその流れが一気に加速してきたんじゃないかと思う。
具体的な財務分析、マーケット分析は行っていないから真偽は保証できないが、一個人として実際の服屋で服を買うことが極端に減ったのも、この流れの証左かもしれない。
みなさんもどうだろうか、ネットで服を買うことが多くなってはいないだろうか。

例えば、いわゆるフリマアプリ・サービスだけでも、僕の知る限りこんなにある。

・メルカリ
・ラクマ(旧フリル)
・Depop
・Ebay
・Grailed
・Stock X
・Vestiaire Collective

これに、新品を扱う小売サイト・サービスが追加される。

・ZOZOTOWN
・Ssense
・Farfetch
・End.
・Lyst
・Matchsfashion

書けば書くだけキリがないが、世界中、大小合わせるととんでもない数だ。
これだけのプレーヤーが群雄割拠する戦国時代、いや、物量とロジスティクスにものを言わせた「総力戦」の相様となっている。

アパレルだけじゃなく、小売の本質というのは、「卸(メーカー)から仕入れて、消費者に売り、利鞘を稼ぐ」ことにあると僕は思う。
つまり、「安さ」「届く速さ」が絶対的な正義であり、これ以上でもこれ以下でもない。
(一方、フリマアプリのようなサービスでは「真贋の鑑定」も一つの売り文句とはなるが)
そうなってくると、「安いならこっちの方がいいやー」ということで、価格優位なサービスから買うことになるだろう。
いわゆる「勝者総取り」の状態となるわけで、それはAmazonやウォルマート等々を見ればわかるはず。

話を戻して、上記のサイトを見るとフリマアプリ等はもちろんのこと、新品を扱うリセラーサービスもかなり大胆なセールを行っている。
僕はSsenseやFarfetchを利用するが、70%割引なんてざらにあるし、なんなら年中そういったセールがされている。
(ZOZOTOWNも頑張ってはいるが、ここまでの大幅な割引はされていないように見える)

一方、実店舗のセールにおいては、だいたい30%、よくて50%が関の山だったりする。
価格では完全にネットに軍配が上がっている。

ここからは僕の仮説だが、店舗が価格に「手入れ」できないのは、各店舗が独立採算制で数字に対するノルマが存在し、かつ、販売員という「人件費」がクリティカルに影響していることが原因ではないだろうか。
服の値段に、原価に加えて人件費も乗っかっているならば、どうあがいても価格は下げられない。

さっき紹介したサービス、小売サイトが安く売ることができるのは、なにより人件費がかからないことと、多少利益が薄くなってもペイできるほど取り扱い点数が多いことにある。
それがやはり、「総力戦」の意味するところで、物量が多くなればなるほど自軍に有利になるのだと思う。
例えば、海外のSsenseやFarfetch等は全世界を相手に商売をしており、日本国内でしか戦えないZOZOTOWNとは比べ物にならない。
物理的に制約のある店舗型ビジネスなどもってのほかだろう。

ここまでは、いわゆる小売業界一般の抱える構造的な課題だが、さらに、アパレル業界が抱える課題について考えたい。
ここからはさらに仮説の仮説になるけど、アパレルは「商品開発」の工数が多く、かつ商品のライフサイクルが低いという問題があるのではないだろうか。

僕は昔パタンナー(洋服の型紙、つまり設計図ね)の養成学校に半年だけ通ったことがある。
早々にドロップアウトした理由として、この令和時代にいまだに紙とペンでパターンを引いていることに疑問を感じたからだ。
ミリ単位以下の精度を要求する仕事なのに、定規で線を引くのはあまりにナンセンスに感じてしまったのだ。
CAD使えよ!CAD!って何度もペンを折りそうになった。
頑張って紙に書いて、シーチング(布)に写して、修正して、また写して…この繰り返しを通して、ようやく一着の服ができる。
それだけでなく、デザイン、生地の調達、加工、縫いつけ、もろもろの作業も待っている。

そんな途方もない苦労があるのに、商品として市場に出回るのは半年だけ、いわゆるSS、AWの期間だけになるのだ。
これだけの工数とコストをペイできる商品は、いったい市場のうちの何割なのだろうか。
しかも、これらの作業は高度にアート的で、職人気質の技術、悪く言えば極めて「属人的」なものになっており、安易に外注・デジタル化ができないものだろう。

さらに、根本的に洋服には「付加価値」がない。
失礼な言い方だが、どこまでいってもただの「布」でしかない。
そんな布切れに僕は月数万円使ってしまうから、妻よ、ごめん、としか言いようがないが…ともかく、アパレルの価値を支えるのは「デザイン」や「ブランド」といった極めて不確かな概念になってしまう。
もうかるのは本当にごく一部のデザイナー、ヴァージル・アブローやルーク・メイヤーくらい、といったものだ。

ここまでとりとめなく書いてきたが、アパレル業界の課題はまとめると以下のようになる。
①価格競争の激化(フリマ、ネット通販の台頭)
②生産工数の煩雑さ、非効率
③技術の属人化
④製品自体の低付加価値性
⑤販売期間が短く、各製品のLTVが低い
ここまであけすけに書くつもりはなかったが、僕の思うアパレル業界というのは、これらの「五重苦」を抱えていることになる。
こうなると、ブランディング、マーケティングといった「戦術」の話ではなく、もっと高次の「戦略」、いや、政治レベルの介入が必要になりそうだ。

この時点で相当長くなってしまったので、これらの5つの課題に対して、どうあるべきかは別途考えたいと思う。


ああもう読んでくれただけで嬉しいです。 最後まで見てくださってありがとうございました!