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41. BRUTUS 2003 6/1号、2004 7/1号 マガジンハウス

人は初めて会ったときの印象を大きく更新することはないという。だから中学高校大学の友人はいつまでも学生で、新入社員で入ってきた後輩はいつまでも新入社員で、生まれてきた子どもはいつまでも赤ん坊のままだ。また逆に、誰かにとっての自分の印象もそうなのだろう。
本にまつわる印象もその通りで、後に違った立場になったとしても、出会ったときの印象と変わらないでいることがある。それで懐かしく出してきたのがこの二冊のBRUTUSで、貼ったままになっているDORAMAの値段シールでさえ、懐かしい。

植草甚一さんから始まったといっていいような古本の趣味は、音楽、特に曽我部恵一さんを経由したこともあり、下北沢周辺から始まった。大学生当時、幡ヶ谷に住んでいたこともあり、下北沢をはじめ、渋谷にも新宿にもアクセスが良かったことは、自分の大学生生活を豊かにしてくれたものだった。下北沢では植草さんの日記にも出てくる幻遊社と白樺書院によく行ったが、同じくらい通ったのがDORAMAだった。南口の通りにあった店舗は単行本と文庫本がメインで、裏通りの店舗は雑誌がメインだったと覚えている。
古本に興味を持つということは、何かしら本にまつわる興味から始まるはずで、自分の場合もまずは、東京の出版文化に触れることから始まった。大きく影響を受けたのが新宿のルミネに二店舗あった青山ブックセンターと、渋谷の今はH&Mの場所にあったブックファーストで、そこではじめて本や雑誌といったものに意識的に触れたような気がする。そのなかでも雑誌への開眼は大きく、それはそのうちにマガジンハウスの雑誌群にも傾いていくことになる。時を同じくして古本屋へも通い始めていたが、最初の頃はガロ系の絶版漫画と外国文学が目的だったため、DORAMAのような雑誌を多く置いてある店でやっとバックナンバーという存在に気が付き、それからはせっせと自分の興味に合わせて集めていった。
そんな自分にあつらえ向きだったのがこのBRUTUSの本屋とブックハンティングの号で、めくるページごとに読み込んだ記憶がよみがえってくる。なかでも夢中になったのが、松浦弥太郎・小林節正両氏によるカウブックスの湯布院の旅館のための選書と、松浦さんのアメリカへの買い付け旅で、どちらも自分にとって、その後のブックガイドとなるほどだった。細かい級数で詰め込まれた文字には、松浦さんの自分のやっていることへ対する楽しさや嬉しさ、そして自信や自負が満ち溢れているようだった。
松浦さんは今では生き方指南といった本ばかり出す印象になってしまったが、自分のなかではこういった2000年代前半の印象が土台としてある。ただ覚えているのは、サンマーク出版からの「軽くなる生き方」とPHPからの「今日もていねいに」が続いて出てどちらもヒットしたことで、それがその後の方向性を決めてしまったのだろうと思う。それは、それまでの著書でこだわってきた装丁ではなく、単なるソフトカバーで出したものが売れてしまったことも含め。
そういった売れるものへの迎合は、出版、こと雑誌というビジネスモデルにおいては仕方のないことで、休廃刊や、方向性の転換も止むを得ないものなのだろう。そういった面において、マガジンハウスでも、relaxは休刊し、ku:nelは全く違う雑誌へと変化した。一方そのなかでBRUTUSがそれほど変わらない存在で続いているのは驚くべきことで、細かい級数で細かい情報を詰め込むような性格といった印象は変わらないでいる。挙げた二つの号は通巻525号と550号で、現時点の最新号は972号となっている。間もなく1000号を目前とするところだが、文藝春秋が今年100周年で、文芸誌新潮がこの間1400号だったことを思うと、変化しながらも続いていくことを願う。

自分の働く会社も事業構造から大きく変えようとしている。好きなことで働きたいとまでは思わないが、気に入った仕事をしながら働きたいという想いからは、年を追うごとに離れていっている気がする。そろそろ潮時なのかも知れないと思うけれど、入社した頃の会社の印象が自分のなかにあり、まだどこかしらで古き良き会社という面は残っている気がして、もう少し様子を見てみようかとも思う。
ところで、先に挙げた「軽くなる生き方」のカバー写真は、岡本仁さんによるポラロイド写真だったはずだが、松浦さんやマガジンハウスの雑誌が変化していっているのに対し、岡本さんは二十年前からスタンスがほぼ変わっていないように思える。それは片岡義男さんもそうだし、存命だったころの大瀧詠一さんも安西水丸さんもそうだった。時代に合わせ変わっていくことも必要なのだろうが、変わらないでいることはそれよりも大切だと思うのは、もう時代遅れなのだろうか。

#本  #古本 #BRUTUS #松浦弥太郎 #岡本仁 

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