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20. 大橋歩 くまさんのおようふく帖 イオBOOKS

自分の本棚を眺めると、女性作家が極端に少ないように感じる。作家という位置付けだと、すぐに目に入るのは須賀敦子と藤本和子くらいで、他は何人か一冊ずつある程度だ。ブローティガンの訳書を藤本さんの本として良いのかはわからないけれど。これが音楽だと、荒井由実、キャロル・キングなど割と思い当たるが、総じてシンガーソングライターということに気がつく。それは男性アーティストでも同じことで、自分で詞も曲も書いて、自分で歌う人が好きで、音楽に限らず本でも同じことが言えるのだと思う。
自分で書いていない作家なんていないのではないかと自分でも思うけれど、何というか、本全体をプロデュースしているというべきか、コントロール下に置いているというべきか、とにかくその人自身がその本をつくり出している雰囲気がある作家が好きなのだろう。それはもちろん編集者と二人三脚という場合もある。
そういう意味で、持っている著作は少ないけれど好きなのが、大橋歩さんと林央子さんで、大橋さんのことを初めどこで知ったのかもう思い出せないけれど、それはArneを知ったのと同時であるに違いなく、自分の認識としては、イラストレーターとしての大橋さんというよりも、雑誌を発行する人として知る方が早かった。それは林央子さんも同じで、花椿の元編集者やファッション関係の書き手であることは後で知り、here and thereの発行者としてまずは認識した。
アルネがまだ発行されていた時期を過ごせたことは自分にとっては大きく、様々な関心を広く深くすることができ、また、その関心同士の繋がりというか、まさしくセンスと呼んで良いようなものを学んだ気がしている。それは松浦弥太郎さんが編集長だったときの暮しの手帖からも同じで、こっちに関心を持ちつつそっちにも関心を持つ、というようなアンテナの張り方を知ることができる雑誌だった。ただ、そのうちにそういったことが表面上で真似されるなかでステレオタイプ化し、自身も周りから求められるからだろうが、繰り返す中で新鮮さが失われていくのを見て、保っていくことの難しさを知るのだがそれは先の話で、やはりそれらの雑誌をめくると新しさや当時の気分を思い出すことができる。それはここ最近のrelaxの振り返りにも感じたことだった。
アルネには度々、松浦さんもしくはカウブックスが登場していて、カウブックスがやっていた移動古本屋、トラベリングカウブックスについて行くという楽しい特集もあった。そういった繋がりなのか、カウブックスで何度か開催されたリトルプレスフェアという、アーティストが少部数制作した本や紙物の作品を展示・販売する企画があり、そこで購入したのがこの作品だ。いつのことだったのか思い返すと裏表紙に2010とあって、調べたところちょうどその前の年に三重県立美術館で大橋歩展が開催され、それにも行っている。展示のなかでもアルネのつくり方が詳しく紹介されていたことや、その図録がとても良かったこと、美術館の周りを紹介したアルネの特別号が出てそれを片手に町を散策したことなどを懐かしく思い出す。
この「くまさんのおようふく帖」は、色々な柄の布やニットなど、服の端切れが紙の間に挟んであり、くまの頭をイラストで描き、体は紙をくり抜いて服を着ているようにしてある、手の平サイズの工作のような作品で、イラストや描き文字は大橋さんそのものの可愛らしいものになっている。
出版される本も、こういった一点ものの作品のようにできればいいのにと思う。シンガーソングライターの歌のように。けれど、多くの人や事を介するうちに、多くのものが損なわれてしまうのだろう。損なわれないための強さのようなものに、男女差はあるのだろうか。そのような強さを持つ女性作家の本をもっと知りたいと思う。

#本 #古本 #大橋歩 #林央子 #松浦弥太郎 #COWBOOKS

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