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34. 子どもと昔話 2005年秋25号 小澤昔ばなし研究所

奥の細道を読んで、和歌に惹かれて読み始めたのだったが、同じく関心を持ったのが、それほどまでに芭蕉を魅了した、源義経やその時代についてだった。後鳥羽院が承久の乱を起こしたのは記憶の彼方にあったが、いつどんな流れであったのかは全く知らないも同然で、和歌=平安時代と思い込んでいた自分にとっては、義経より後鳥羽院が後だということは何となく飲み込めず、それで和歌を取り巻く時代の流れを把握したいと思い、少しずつ関連する本を読み始めた。
まったく予備知識のないことについて何から読み始めれば良いかは難しいが、手に取りたいと考えていたのは中公文庫の「日本の歴史」だった。これは自分だけの感覚かも知れないが、信じられる本には序列があり、最高峰にはみすず書房がある。それから順不同で、岩波文庫、講談社学術文庫、ちくま学芸文庫などがあり、そこに中公文庫も存在している。ただ、最近の中公文庫にそれほど威厳はなく、信じるに足るのは背が肌色で統一されていた時代の中公文庫で、そのラインナップに「日本の歴史」や「世界の歴史」があったような覚えがあった。
そういう意味で「日本の歴史 鎌倉幕府」は手に取ろうと思っていたけれど、ふとSNSで流れてきた朝日文庫からの新刊、永井路子「源頼朝の世界」が目に止まり、買って読むに至った。この本は1979年に中央公論社から出て中公文庫にもなり、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にあわせて朝日文庫から復刊されたもので、中公文庫になった際は肌色の背だったかも知れず、そのような信頼感により、読んでみようと思った。
「源頼朝の世界」はこのような題名ではあるが、源頼朝だけではなく、鎌倉時代を生きた様々な登場人物をそれぞれ中心に立てて章立てされていて、そのなかの後白河法皇の章を読んだところ、後白河が平清盛を始め誰を頼りにしてきたかの経緯がよくわかるように書かれていて、すっかり鎌倉時代黎明の時期に面白さを感じることになった。
永井路子においては、頼朝や北条義時を上に置いていて、芭蕉が心酔する木曽義仲や義経はかなり下で、ああいった最期になったのもやむを得ないような描き方をされていた。芭蕉の時代では、後に描かれた義経像を持って接していたからこその傾倒なのだろう。だからこそ、菅田将暉演じる義経は大河ドラマでどのように描かれるのか楽しみになる。また義時の話が中心になるということは、承久の乱はクライマックスなはずなので、後鳥羽院の描かれ方もとても楽しみなものがある。

奥の細道を読んだのが去年の9月ごろで、それから11月くらいまでは和歌ばかり読む時期が続き、12月に入ってから「源頼朝の世界」や「日本の歴史 鎌倉幕府」を読み始めた。つまり理解が深まったころにちょうど「鎌倉殿の13人」が始まり、伊豆時代の頼朝の置かれ方や、最初の蜂起の始まり方については、知った顔で観ることができた。出来過ぎなほどのタイミングの良さだが、こういったことはたしかにある気がする。
それは例えば小沢健二のことで、リアルタイムでもテレビを通じて知ってはいたが、きちんと出会ったのは大学生のときだった。そのころの音楽の聴き方は、気になるアーティストがいると、律儀にファーストアルバムから順番に探して買うというもので、しかもそれが中古盤だったので、興味を辿るのにずいぶんと時間がかかった。それでもその分、一枚一枚を何度も聴いていて、そうやって聴いた好きなアーティストやアルバムは、サブスクリクションがある今より、深く自分のなかに染み込んでいるような気がする。なかには買って一回しか聴かないものも多くあったけれど。
そうやってフリッパーズ・ギターのファーストアルバムから聴き始めたところすぐにハマり、そして小山田派よりは小沢派になった。フリッパーズの三枚を聴き終えてから聴いた「犬は吠えるがキャラバンは進む」は、当時を振り返る記事などでは、犬キャラを受け付けないフリッパーズからのファンもいたとよく書いてあったが、自分としてはフリッパーズよりも好きになるほどだった。
それから順番に「Eclectic」まで聴き終わったのが2003年の秋か冬で、ちょうどその頃、かつての曲の歌詞だけのクリエイティブによる「刹那」の雑誌広告が出回り始めて、それからしばらくたってリリースされた。その自分との連続性にとても驚いたものだった。それから二年後、2006年に「毎日の環境学」が突然という感じでリリースされ、それと同時に、小澤昔ばなし研究所からの雑誌、子どもと昔話での「うさぎ!」の存在を知った。渋谷パルコのリブロに買いに行き、そのとき既に二話まで出ていたため、一話が掲載されている号と合わせて二冊買ったことを覚えている。まだSNSという単語もない時のことだった。
そんなことを暮しの手帖社から出た小澤俊夫「昔話の扉をひらこう」での親子三人の鼎談を読み、小沢健二という人の変わらなさを感じながら、なつかしく思い出していた。
それでもあらためて時系列を整理していると、「Eclectic」が出たのは2002年で、それを2003年に聴いているから、ほとんどリアルタイムだったと思うと少し驚くような気持ちになる。そういえば、その当時の公式のサイトでは「Eclectic」のプロモーション用の日記を読むことができた。それから二十年、小沢健二も自分もインターネットも音楽の聴き方も、ずいぶんと遠いところに来てしまったようだ。

#本  #古本 #松尾芭蕉 #永井路子 #小沢健二 #小澤俊夫

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