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『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』嗜好品の重要文化財

『Guilermo Del Toro’s Pinocchio』(2022)★★★・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

技術的にも演出的にも高い精度に心打たれつつも、ギレルモ・デル・トロらしい、のしかかるような物語の薄暗さにはやはり項垂れる。それでも、その暗鬱とした2時間の中で輝くのは冒頭の涙ぐましいミュージカル・シーンと、ビタースイートな締めくくりだろう。独自のストーリー展開にもハイライトはあるが、頭とお尻が鑑賞の意義を感じさせてくれる。特に後半からの重暗さを受け入れれば、『パンズ・ラビリンス』の頃から変わらぬ、一筋縄ではいかない魅力を享受できる。

実制作のShadow Machineは、カートゥーン・ネットワークの深夜枠「Adult Swim」で人気の「ロボットチキン」など、ストップモーションにも手慣れたスタジオ。AppleTV+で今年配信開始した「ストレンジ・プラネット」ほか2Dアニメーションのシリーズでも名を連ねており、活発なアニメーション・スタジオの雄。

そこにパペットと特殊効果の老舗、Jim Henson Companyが加わり、プロダクションに適したチームと体制が組まれている。手法やスタイルを作品に合わせて臨む海外のアニメーション・スタジオは、そうして各作品に独自性を引き出す点が強い。

Netflixによる資金とギレルモ・デル・トロのディレクションで実現する異伝「ピノッキオ」の特徴は、時代を戦時下に据え、ゼペット翁の心の傷を深め、レモニー・クリケットを旅を終えた作家とし、ピノキオに死の概念を与え、そして誘拐犯の標的を「動く松の木人形」に絞ったこと。子供たちの集団をロバに変えて労働させるプレジャー・アイランドの代わりに、「ダンボ」やデル・トロの前作「ナイトメア・アリー」の構図に近いサーカス団とその団長が悪の根城となり悪役となる。ファシスト・ムッソリーニを登場させて集団心理の恐怖を持ち込んだり、戦時下の父子関係のもつれも別軸で展開する点が、その他のデル・トロ作品とも共通する、トレードマーク的な話法だ。

映像として見慣れてくるとつい忘れてしまうが、ストップモーションの質が何よりのご褒美であることは間違いない。トラックショットやドリーを使った回り込みなど、手間を考えると気が遠くなるようなマネーショット(=見せカット)がそこここに溢れている。撮影の恐ろしいスケール感と技術的革新の中身については、Netflix内にあるドキュメンタリーで触りだけでも見ておくと、きっと感謝の念が増すだろう。

映画館などで2時間をコミットした方が楽しめる類の作品だが、自宅で気軽に鑑賞できることも贅沢な、嗜好品のような一本。

(鑑賞日:2023年10月15日@Netflix)

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