見出し画像

『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem』(2023年)★★★☆。

IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia
公開日:2023年8月2日(水)(北米)
公開日:2023年9月22日(金)(日本)

見る気にならなければ、見ない理由はいくらでも並べられる。が、見たら驚かされる。23年の隠れた良作。

先入観

絵作りは『スパイダーバース』の後追いや二番煎じと言う者もいるだろう。「ニンジャタートルズはいろんなシリーズ作りすぎ」と、ニコロデオンの節操のなさをなじる者もいていい。どれも先入観としては当たっている。

そんな先入観をしっかり裏切ってみせるのが、セス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグだ。本作の脚本とプロデュースを出がけた2名といえば、『スーパーバッド』の頃から10代らしいバカバカしさを生き生きと描いてきたタッグチーム。

定番コメディ俳優としてだけでなく、ホンを書けるのがローゲンとそのバディの真価。『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021)で共同監督を務めたジェフ・ロウも加わり、ストーリーの骨格形成に携わっている。単独で監督にクレジットされているのも心強い。先入観とは裏腹に、実は鉄板の布陣だ。

特徴

作品の強みは、原題である「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」の「ティーンエイジ」と「ミュータント」の部分に改めて焦点を絞った上で、新鮮なリブートを実現している点。

案外、これまではニンジャやカメであることに重点を置きすぎて、主役たちにティーンエイジャーらしい振る舞いをさせてこなかったんだな、と気付かされる部分もある。

おかげで、実写版でマイケル・ベイがハズしたのはそこだった、という再確認にもなった。いや、悪くはなかったけれど…大真面目に亀を忍者にしなくても…という。

今作はノリと若さと未熟さと、10代ならではの疎外感や孤独感の演出が十八番の作り手が、10代でワチャワチャで多感だけどいかんせん亀の突然変異種で、親父が中国系移民なネズミという…どう考えてもモテなさそうな(というより人権を認めてくれなさそうな)4人組を、どこまでも根アカに描く成長譚だ。

若い。とびきり瑞々しい。そのバカバカしさが良い。

脚色とスタイル

オリジナル・シリーズの設定に加えられた改変も新鮮で、受け入れやすい。

お師匠であり父親代わりのスプリンター先生(なんとジャッキー・チェンが声を担当)の立ち位置や出自、エイプリル・オニール(今作では上り調子のアイオウ・エディバリーがCV)の年齢設定、名悪役コンビのビバップ(セス・ローゲン本人登場)とロックスタディ(ジョン・シナ)との関係も微調整されている。ミュータント同士が常に対立している不思議にも、良い理屈をつけてくれているし、違和感がない。終盤でのタートルズの環境の変化にも、今後への期待が持てた。よく原作を理解しつつも、自由な脚色だ。

絵作りについても、一見するよりもよほど手の込んだ仕様。だから注目して見るといい。絵本、ストリートアート、グラフィティ的な筆使いを活かしたデザイン、スタイル、ルック。ライティングや特殊効果にも、それらのテーマ性への一貫性と遊び心が見られる。

『スパイダーバース』とも共通項はあるが、アクション時もコマ打ちをさらに荒くしているカットが多いのは特徴的。アニメーションにストップモーション的な味わいを与えている。

計算で成立してしまうCGアニメーションに、手作りの不完全さを残そうとする努力のあとがそこここに見えるのが、良い。

ということで

高尚な芸術作品とは決して言えないフランチャイズものだし、コーポレート臭の抜けない商売ありきなプロダクションではある。でも、ど真ん中の売れ線からあえて外れて、捻りやクセを加えることを恐れていない。とかく時間とお金がかかりがちなアニメーション映画としては、珍しく遊び心の方が先行している。

こういうものこそ続編があって然るべきだろう。という声にもしっかり応える配給元。2作目は制作がすでに進行中で、2026年秋公開予定。

全世界1.8億ドル(24年4月の為替で273億円ほど)を記録したヒット作も、日本国内では1億円以下の興行だったため劇場公開は怪しそうだが…。

ノスタルジアに甘んじない、気骨のあるシリーズ・リブート作品だ。

(鑑賞日:2024年3月18日 @機内)

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?