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セッション定番曲その36:Smells Like Teen Spirit by Nirvana

ロックセッションでの定番曲。ちゃんとやろうとすると意外と難しいけど、ちゃんとやり過ぎると本来の主旨とは違ってしまうという罠が。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:傍流が主流になってしまう矛盾

華やかでキラキラしていた1980年代カルチャー。ロックも同様にどんどん派手なステージ衣装、派手な髪形、派手な装飾音、空虚な歌詞、そんなのが主流になっていました。ロックを取り巻く環境が「巨大ビジネス」化していった訳です。予算を掛けて制作して、予算を掛けてミュージックビジオを作って、予算を掛けて宣伝して、予算を掛けて大規模なツアーをして、という調子。

歴史は繰り返すもの。ロックも何度も同じサイクルを繰り返しています。若者の反抗心を叩きつけるものだった初期のロックンロールが徐々に洗練されてしまいポップス化、その状況を粗野なビートルズが叩き壊し、でもビートルズも徐々に洗練されていき、それをハードロックがぶち壊し、それも徐々に洗練されていき、パンクロックが反抗心を取り戻そうと叫び声をあげて、でも売れたバンドは徐々にポップス化、奇抜なファッションだけを取り入れた売れっ子達は上記のように「巨大ビジネス」に取り込まれていく・・・

そのサイクルの中で1980年代末に現れたのがオルタナティブ/グランジという動き。素朴で暗い歌詞、爆音で掻き鳴らすパワーコード、吐き捨てるような聴き取りにくい歌、ボロボロのジーンズ、仲間内でしか聴かれない(流通しない)曲。まさに「傍流」として存在していた連中だった訳ですが、嗅覚の鋭い「巨大ビジネス」がそれを見逃す筈もなく、制作に際して少しだけプロデュースを加えて「新しい波」として売り出して、その波に乗った若者に支持されるようになり「傍流という名の主流=売れ筋」になってしまった訳です。履き続けていて穴が空いたジーンズではなく、最初から穴あき加工されたジーンズってなんか嫌だなぁ。

Nirvanaというバンド、「Smells Like Teen Spirit」という曲はまさにそういう矛盾の真っ只中にあったもの。

ポイント2:何について歌っているか

Kurt Cobainはこの歌詞を「数分で書いたゴミ」と語っているようですが、様々な習作の中のメモから直感と語呂でひねり出したものと思われます。一種の「アンセム」という深読みする人も多いですが、言葉そのものよりも音も含めた「雰囲気」を感じ取るのが大事な曲かもしれません。

I'm worse at what I do best
And for this gift, I feel blessed
一生懸命にやろうとすることに限って才能が無い
まぁ、そういう才能ってことかな、ラッキー!

というように自己否定、周りの世の中に対する不満や拒否が繰り返し歌われています。吐き出すような歌い方で。

そういう拗ねた気持ちをリアルに抱いていた若者、浮かれた世の中の主流にノレない人達がそういう呟きに共感してしまったことが事実で、実はそういう人達が沢山いたことが明らかになって、この曲は大ヒットしました。

「アンセム」と言いつつ「自分はゴミみたいな奴」と声を揃えて歌う、そういう快感。

最後は「A denial, a denial」を繰り返し叫んで、あらゆるものへの否定/拒絶の意思を示す。

ポイント3:イントロ

ロックはイントロが命。この曲も入り口でぐっと心を掴みます。
Bostonというバンドの大ヒット曲のギターリフを参考にしたというパワーコードでのリフ、世界一有名なドラムの入りは1970年代のディスコ音楽での典型的なパターンをパクったとか。

その後も基本的には同じギターのパターンが続きます。音量の上げ下げはあるもののコード進行は基本的にずっと同じ。一昨日ギターを手にした初心者でも弾けそうな気がしてしまうのが、パンクロックからの流れを汲んでいまうすね。楽器屋さんで試奏する時についこのイントロを弾いてしまいますが、微妙な空気になるので要注意。

ライブだとかなり速いテンポでギターを掻き鳴らしていましたね。

ポイント4:Load up on guns

Load up on guns, bring your friends
It's fun to lose and to pretend
「guns」と複数形になっていることから、何丁もの銃に弾を籠めて、仲間を集めよう、と呼びかけていることが分かります。敵対するグループとの抗争なのか?ただ、この歌い手にそういうある意味「前向け」な行動力はあまり感じません。ただ虚勢を張っているだけなのかという感じもします。

後付けですが、この曲もKurt Cobainの死(自殺)と切り離しては考えられません。歌詞の冒頭に出てくる「Load up on guns」に死の匂いが漂っています。「傍流だったはずなのに主流になってしまった」「拒絶していたはずなのに、受け入れられて支持されてしまった」という矛盾の中でロックスターになり、それを消化/昇華出来ないまま、ドラッグの混沌の中で発作的に選んだ死。安らかに眠っているのだろうか?

この冒頭部を歌う時には、いかに「」を籠めて表現するかが説得力に繋がると思います。歌い終わったら死んでもいい、くらいの覚悟で。

ポイント5:Hello

「Hello」って教科書の1ページ目で学ぶ、ただの挨拶だと思われがちですが、実は「意図的に相手に呼び掛ける」際の言葉として使われる場合があります。

例えば目の前にいて明らかに自分の姿が見えている相手に対して「Hello, 俺のこと見えてる?」「こっちを向けよ」とか。これを繰り返すことで、「相手は自分を無視している」あるいは「自分はそれまで相手を無視していた」雰囲気になります。

この「Hello, hello, hello, how low」に感情を籠めて歌えるか、大事なポイントです。

ポイント6:I feel stupid and contagious

I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
contagious」は聞き慣れない言葉ですが、Covid-19の記事で有名になりましたね。感染性がある、という意味です。つまり「バカは感染する(病気)」だと。だから「安易な気持ちで俺に近づくな、俺の言葉を聞くな、感染しちゃうぞ」と。

ポイント7:A mulatto, an albino, A mosquito, my libido

A mulatto, an albino
A mosquito, my libido
韻を踏んだ言葉遊びみたいな箇所ですが、「虐げられがちなもの」を並べたような気がします。

「mulatto」は北南米に多い、白人(ヨーロッパ系)と黒人(アフリカ系)の混血の人を指します。実際にはもっと複雑に入り混じっている混血の人も多く、見かけ上は白人に見えても黒人の血が混じっている場合もあり、社会的立場は複雑で、葛藤を抱えている場合も。
ムラート - Wikipedia

「albino」は「先天性白皮症」のことで肌や髪、虹彩などに色素が薄く、肌は白くなります。ジョニー・ウィンターとエドガー・ウィンターの兄弟もこれでしたね。
アルビノ - Wikipedia

わざわざこういう言葉をサビに選んだのは単なる遊び心だけではない、意図があるはずです。どちらも自分の責任ではないのに、差別され、虐げられ、片隅に追いやられるてしまう存在。
その後に「蚊」と「俺の性衝動」を並べているのは・・・

この4つの単語はハッキリと聞こえるように発音しましょう。発音に複数の種類がある場合があるので、好きな方で。
mulattoの発音記号と読み方: 英語の発音

ポイント8:どこまでちゃんとやるか

以前この曲をテクニシャン揃いのホストメンバーと一緒にやった(歌った)ことがあるのですが、ギターソロもろくにない曲でも流石にみんな上手くて、原曲のイメージも再現しながら、アンサンブルも素晴らしく、ヌケの良い出音のバランスも完璧。という感じだったのですが、終わってからみんな「んん?何か少し違うかも」と顔を見合わせました。

「もしかして『ちゃんと』やる曲、じゃないのかも」「もっと滅茶苦茶に暴れていいのかも」「マイルスが言ったように『初めてギターを持ったヤツみたいに弾く』のが大事かも」と・・・

カラオケではない、ジャムセッションの生演奏では普通は「音のバランス」「リズム感覚の共有」「即興ならではのスリル」を大事にするのですが、この曲に関してはそこを無視してでも「デカい音を出せる喜び」「ヒリヒリするような焦燥感」が大事なのかもしれません。歪んでコード感が聴こえなくても、声が裏返っても、歌詞が聴き取れなくても、ハウリングしてもいいじゃないか。「イメージの共有」にも色々な種類があるということですね。何度やっても「初めて演奏するつもり、初めて歌うつもり」でやろう。高校の文化祭を思い出して。その為の贈り物のような曲。


ポイント9:無限にあるカバー

Tori Amosがバラードで


ジャズに
"Smells Like Teen Spirit" 1940s Swing Cover by Robyn Adele Anderson

オーケストラアレンジ
Smells Like Teen Spirit ('60s Orchestral Cover) ft. Alisan Porter

Robert Glasper Experiment


学園祭
高校生バンド Smells Like Teen Spirit
こういうこと。

■歌詞

Load up on guns, bring your friends
It's fun to lose and to pretend
She's over-bored and self-assured
Oh no, I know a dirty word

Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello

With the lights out, it's less dangerous
Here we are now, entertain us
I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
A mulatto, an albino
A mosquito, my libido

Yeah, hey, yay

I'm worse at what I do best
And for this gift, I feel blessed
Our little group has always been
And always will until the end

Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello

With the lights out, it's less dangerous
Here we are now, entertain us
I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
A mulatto, an albino
A mosquito, my libido

Yeah, hey, yay

And I forget just why I taste
Oh yeah, I guess it makes me smile
I found it hard, it's hard to find
Oh well, whatever, never mind

Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello, how low
Hello, hello, hello

With the lights out, it's less dangerous
Here we are now, entertain us
I feel stupid and contagious
Here we are now, entertain us
A mulatto, an albino
A mosquito, my libido

A denial, a denial
A denial, a denial
A denial, a denial
A denial, a denial
A denial



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