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セッション定番曲その68:Love For Sale

ジャズセッションの定番曲。どういう内容の曲なのでしょうか?それを踏まえた上でどういう風に演奏し、歌えばよいのでしょうか?
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:For Sale

「売り出し中」・・・一体何を売っているのでしょうか?
それは「Love」?

平たく言えば「夜の女」達が売るものといえば「」。
ミュージカルの中でナイトクラブで働く娼婦達が「さあ、若くてスレていない私の身体はどう?」と売り込むシーンで歌われていました。

米国には連邦法としての売春禁止法は無く、各州法で規制していますが、この曲が書かれた1930年代にはどんな状況だったのでしょう。狂乱の「1920年代」が終わり、大恐慌が始まっていた訳で、浮かれている場合じゃなかったはずですが、1933年には禁酒法が廃止になり、ようやく夜のお店で酒が飲めるように。米国って基本的には性的モラルには厳しい国で、特に外国人娼婦も多かった為、人種差別とも結びついて糾弾運動が起こったようです。そうなると露骨な「売春宿」は廃れて、ナイトクラブなどに場所を移していった、と。

景気が悪くて先行きが見えない時代だからこそ、明るく「Love For Sale」と歌おうという狙いだったのでしょうか。Cole Porterは基本的にとてもロマンティックな曲を書く人なんですが、本人はゲイなので娼婦は単なる遊び相手(お友達)だったはずです。

ポイント2:Love For Sale

という訳で、この曲を歌う人は「私はいかが?試してごらんよ」と大声で観客に向かって呼び掛けているということになります。どうせなら明るく堂々と歌いましょう。

Love that's fresh and still unspoiled
Love that's only slightly soiled
「unspoiled」は「(魅力が)損なわれていない」
「only slightly soiled」は「ちょっとだけしか土(汚れ)がついていない」
まだピチピチで生もの、穢れが無い若いLove(身体)だよ~ と。

「unspoiled」と「soiled」は韻を踏んでいます。
Love that's only slightly soiled」は「L」音が連続して出てくるので頑張りましょう。弱くなると「R」音に聴こえてしまうので、頑張れ舌。

ポイント3:A trip to paradise

Who's prepared to pay the price
For a trip to paradise?
極楽への旅行に連れて行ってあげるよ、お金の用意はいい?

こうまで言い切るからには凄いテクニックなんでしょうね。
ウィンクとかしながら歌いましょう。
心が揺れちゃいますね。

prepared to pay the price」「a trip to paradise」
は「p」音が連続して出てきます。強い破裂音なので、頑張って出しましょう。

ポイント4:放送禁止

ここまで見てきたように過激な内容の曲なので、「良識的な人達」の抗議で当時のラジオでは放送禁止になってしまったようです。ミュージカルの中の酒場のシーンという背景を抜きにしてしまうと、露骨過ぎる歌詞ですからね。

ただ、聴けないとなるとどうしても聴きたいという変な人達は必ず出てくるもので、逆に話題になった、ミュージカルを観たいという人が増えた、という話も。人間って(男って)しょうもない生き物ですね・・・。

ポイント5:詩人たちに何が分かる

Let the poets pipe of love
In their childish way
I know every type of love
Better far than they
詩人たちは愛を言葉で語るけど、それは全然分かっていないやり方
私はそんな連中よりも全然「色々な種類のLove」を知っているよ

言葉ではなく実践で、頭はなく身体で、と。
頭でっかちな人達に対する挑発ですね。
「pipe of love」と「type of love」で韻を踏んでいます。
「way」と「they」も同様。

If you want the thrill of love
I've been through the mill of love
Old love, new love
Every love but true love

答えを知りたいのなら、自分で試してみなさいよ
私には百戦錬磨の経験があるのよ

あれれ、最初は「若くてウブな私」とか言っていたのに、化けの皮が剥がれましたね。まあ、その方が安心して身を委ねられるというものですが。
「thrill of love」と「mill of love」で韻を踏んでいます。

「Old love, new love Every love but true love」ここも「L」音だらけですね。

*「pipe of love」って一体何でしょうね。
知っている方、教えてください。

ポイント6:ヴァース(Verse)

あまり歌われることはありませんが、このヴァース、実はなかなか良いメロディです。内容もネタバレではなく、本歌への導入部として「夜も更けたし、そろそろ開店準備。さぁ、お仕事の始まり・・・」と暗示的なもの。

こういうヴァースならインテンポで歌って本歌にスムースに入っていってもいいですね。

ポイント7:構成

AABA構成で、各16小節、全部で64小節と長めの曲です。
歌詞/メロディの歯切れが良くて弛緩する箇所が無いので、ミドル~アップテンポのスイングで演奏するとあっという間ですね。

コール・ポーターの定番でメジャーのパートとマイナーのポートが交互に出てきて、気分が上下する感じがうまく表現されいます。

ポイント8:色々な演奏、歌唱を聴いてみよう

Charlie Parker


マイルス、トランペットは少し抑えた感じの演奏で陰鬱な感じもします。
キャノンボールのサックス以降は熱い演奏。


Chet Baker、1986年録音。歌心を大事にした演奏かな。


Dexter Gordon、ラテンアレンジで、明るく賑やかなナイトクラブの感じ
Love For Sale

Oscar Peterson、1959年録音。
Love For Sale

Billie Holiday、こんな陰鬱な歌声で「Loveを買ってくれる」人はいるのだろうか・・・


Ella Fitzgerald、ヴァースから歌っています。

Anita O'Day、こういうテンポのアニタはいいですね~


Tony Bennett, Lady Gaga、お爺ちゃんと孫娘(ナイトクラブのオーナーと踊り子)
Tony Bennett, Lady Gaga - Love For Sale

Cyrille Aimée、現代のスキャット番長


Lisa Ekdahl、可憐な女性のイメージで「売れっ子」なんだろうなぁ、と
Love for Sale

Jane Birkin、1975年録音。何だかか細い声で身体も弱そうで、大丈夫かな、と。フュージョン風。
Love For Sale

ファンクアレンジ
Carujazz - Love for Sale (funk version)

ちなみに私は時々セカンドラインでやってみています。
セカンド・ライン - Wikipedia

■歌詞

(Verse)
When the only sound in the empty street
Is the heavy tread of the heavy feet
That belong to a lonesome cop
I open shop

When the moon so long has been gazing down
On the wayward ways of this wayward town
That her smile becomes a smirk
I go to work

(Chorus)
Love for sale
Appetizing young love for sale
Love that's fresh and still unspoiled
Love that's only slightly soiled
Love for sale

Who will buy?
Who would like to sample my supply?
Who's prepared to pay the price
For a trip to paradise?
Love for sale

Let the poets pipe of love
In their childish way
I know every type of love
Better far than they

If you want the thrill of love
I've been through the mill of love
Old love, new love
Every love but true love

Love for sale
Appetizing young love for sale
If you want to buy my wares
Follow me and climb the stairs
Love for sale.



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