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文藝評論 : ジッド「狭き門」

私はあの世界に、美しく清らかな世界に、何を想い、何を感じたのか。

ジッドの言葉は魔法のような不思議さを持ち合わせている。ひとつの形式と言ってもいいだろう。美しく、したたかで、時に激しく、情熱で溢れる。私は彼の息遣いに、白い花を見た。

この深い信仰心で成り立つ愛の物語は、正直私には難解な部分が多くあった。されど、共感を産んだ部分があり、それは、「目の前の現実との葛藤」である。なぜ人は進展を求めるのか。今のままではいけないのか。進むよりも今が最も幸せであると分かっていながら。

なかなか今では、ファンタジーとも捉えられてしまうる程、実直すぎる愛の物語であるが、その身は、人間の普遍的な愚かさ、誘惑との葛藤を映し出した、永久的な物語である。

秀逸なのは、この物語の形式だ。まず主人公ジェロームの一人称の視点で物語を進める。そこでは、アリサの不可解とも言える態度、情緒の不安定さに、読者はジェロームとともに悩まされることとなる。そしてあっけもなく、アリサは亡くなる。そして最後に、アリサの日記を通して、この物語の筋が補完される。非人間的とまで思われたアリサの、この上なく人間的な本当の姿に、人々は真実の物語を見出す。

正直、この本は難しかった。いつかまた読み返した時に、もっと立派な文章を書きたい。ジッドの美しい世界に誘われて、美しい評論文を書きたい。

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