知ってる!環境のこと(第58話)

⁂データや内容は、当時のものですので、ご理解ください。
 
こんにちは、いかがお過ごしでしょうか?今年も煙害の季節が去りつつありますが、今回のテーマは、「パーピヤック(Wet Forest)」です。瑞々しい森と訳せばよいでしょうか?これは、煙害の主要な原因の1つになっている焼畑や山火事を防止し、山と共に生き、持続可能な農業を推進するため、王室のパイロットプロジェクトとして行われた、総合的な森林再生法です。このプロジェクトが、一定の成果を得たことから、現在注目を集めており、タイの森林局局長も、煙害防止対策の行動計画の1つとして、「瑞々しい森」づくりを採用することを表明しています。
 
パーピヤック(瑞々しい森)とは
 一度発生すると、深刻な損害をもたらす山火事を防止するため、長年森林の再生に取り組んできたプミポン国王が、その英知を結集させた総合的な森林再生法で、人間と森との共生を目指しています。その核となるのが、植樹活動を通した、保水力が高く、一年中緑が枯れることのない森の再生です。
ただ森は、様々な要素から成り立っており、単に植林をすれば、元の姿に回復するものではありません。そこにある自然のメカニズムを理解し、効果的な植林を行わなければ、返って自然を破壊しかねません。森は多くの生命をはぐぐむゆりかごであり、私達人間も森から多くの恩恵を得ています。その森を単に山火事の被害から守るのではなく、森と共に生きる人々の経済的利益を確保しながら、森を再生していくというのがコンセプトです。
 
3種類の木と4つの恵み
プミポン国王の植樹理論で、国王は、植樹する際、必ず自らが利用できる木を植えるように提唱しています。3種類の木とは、自分たちの家を建てたり、家具を作ったりできる建築資材となる木、人間は勿論、森の動物たちが食べることの出来る果樹、薪や燃料として利用できる木の3種類のことで、4つの恵みとは、3種類の木がもたらしてくれる恩恵の他に、本来、木がもたらしてくれる効果、CO2の吸収や土壌流出防止、保湿、動植物の住処の形成などを表しています。
 また、実際植樹する際には、これらの効果がより早く得られ、地域の生態系のバランスを壊さないために、国王は、なるべく本来自生していた地元種の木を選ぶようにアドバイスしています。更には、地元種を選ぶことで、木々の成長も早くなるのです。
 
パーピヤックの作り方
山に送水網を整備する
灌漑用水と雨水を効率よく利用し、山に水路を整備します。山に水の線をかくことで、山を細分化し、山火事の拡大を阻止/コントロールし、被害を最小限に抑える体制を整えます。
 
植樹
 成長の早い地元種の木々を水路の両脇から保水地域を拡大するように植えていきます。水の線を面にしていくのです。この際、3種類の木と4つの恵みをもたらしてくれる木々以外に、ハーブ等を植えることで、山から「薬」も手に入るようになります。
 
ファーイ(チェックダム): 普通は堰のことを意味しますが、ここでは、竹や石などその土地にある自然の素材を使って、灌漑というよりはむしろ、周辺の土地の保水を目的に、山の水源地に作られる水の流れを遅らせる施設のこと。
乾期には枯れてしまうような小川に、一定の間隔で小規模な堰をつくり、その両側に成長が早い地元種の植物を植え、保水地域を拡大します。線と面をさらに強化するイメージです。堰にたまる土砂は、山の表土が堆積したもので、栄養価が高く、肥料として使用します。
 
自然の水タンク、バナナの帯をつくる
森と森との間には、保水力の高いバナナを2mくらいの幅で植えていきます。果樹として食用になることは勿論、山火事の際、燃焼域が拡大しないよう防火帯の役目を果たしてくれます。更に、実のなった後のバナナの茎は、たくさんの栄養と水分を含んでいるため、土壌改良剤として使われる他、家畜の餌にも使用されてきました。最近では、バナナの繊維を利用して生地を織ったり、紙を作ることもできます。 
 
 タイでは1960年から約30年の間に、木材の大量伐採により、森林面積が半分になってしまいました。最近では、休閑期を設けない焼畑農業で、飼料用のトウモロコシなどが大量に生産され、森林面積の減少はますます顕著です。このような土地は、保水力に欠け、常に水不足の状態である他、雨季には、大量の雨で表土とともに栄養分も流されてしまいます。また、休閑期を設けないため、土壌の回復が追いつかず、不足する栄養分を補うためにも焼畑を繰り返す他ありません。近年深刻化する煙害対策で、焼畑を禁止すれば、貧弱な土壌ゆえ、農業もできず、彼らは生きる糧を失うことになります。
 
 このような状況を打開するため、単なる煙害対策ではなく、森の住民たちの持続可能な生活実現をも視野に入れたのが、「瑞々しい森」のプロジェクトです。1985年からチェックダムを作り、現在、1,000ヘクタールあまりの地域に45以上のチェックダムがあるインドのグジャラート州のラジ・サマディヤラの村々は、過去3年間雨がまったく降らなくても、豊富な飲み水と灌漑用の水が確保でき、生活に困ることなはかったというう事例もあります。森の再生は1人では出来ませんから、コミュニティーの再生・強化にも繋がり、今後の展開が大いに期待されます。

CHAOちゃ~お ちょっとディープな北タイ情報誌
(毎月2回10・25日発行)2009年4月25日第145号掲載

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