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家猫軒、本日も営業中につき~ねこの日ショートショート

「こちら、本日のスペシャルでございます」
とばかりにコックさんが差し出したのは、ある意味夏の終わりの風物詩、路上のミンミン蝉だった。
朝採れほやほやで活きの良い蝉は、コックさんが咥えた口を離した途端、バタバタ悲鳴を上げて飛んで行った。
「ありがとう、ごちそうさま」
一応合掌して礼を述べる。コックさんは長い尻尾でお辞儀をし、満足げにニャアと鳴いた。

家猫が飼い主に獲物を持ち帰る事はままあるが、我が家のコックさんにとって、それは腕によりをかけたご馳走なのだった。
白い毛皮の、頭だけ帽子をかぶった模様があるからコックさん。道端でお腹を空かせていた痩せっぽちの子猫は、今や料理人らしい貫禄の大猫となり、日々の食卓を、時にギョッとさせつつ味わい深くしてくれる。

多種多彩なコックさんの『料理』に、同じメニューが並ぶ事は決してない。しかし自分は毎日同じネコ缶でご機嫌な、極めて注文の少ない料理店なのだ。