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3月5日 曇りのち雨 渋谷へ

 今日は用事があり、久しぶりに渋谷に行った。狭い空に覆いかぶさる鈍色の雲の下、マスクを付けて人々の群れを眺めていると、空に広がる雨雲のような閉塞感が心に広がる気がした。
 渋谷に出向くのは一年以上ぶりだ。久しぶりに東京の象徴たる繁華街を歩いて思った。汚い。くすんだアスファルトにへばり付く、黒々とした汚れ。そこら中に散らばる紙くずや煙草の吸殻。生ぬるいビル風でカラカラと転がる、ストロングゼロの空き缶。建物の外壁も色あせて灰色まじりになっており、壁を伝う排水チューブなどは黒ずんでいる。
 視界には色、色、色、色の嵐。耳には音、音、音の洪水。鼻をつく誰かのきつい香水の匂い。なんて騒々しいのだろうか。なんて、色々書き綴っているけど、別に渋谷を貶めているわけではない。僕はこういった汚れも好きと言えば好きなのだ。ただ、この街に長く居ると、ちょっと五感の消化不良のような、心が胸焼けがするような感覚に陥る。
 なんだか田舎に行きたくなってしまった。最低限の、調和のとれた色を感じ、静寂を聞きながら温泉に入って、自然の香りを胸いっぱいに吸い込みたい。

 夜は映画。昨年見逃した『異端の鳥』を見た。素晴らしかった。読み進めている日影丈吉は、2巻目に突入。『粉屋の猫』という短編が印象に残った。フランスの農村で遭遇する悪夢的な出来事を描いていて、傑作短編『猫の泉』と共通するモチーフが見られる。ただ、『粉屋の猫』は宗教というテーマを内包していて、個人的にはこちらの方が好みだ。

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