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[まちあるき話]濃密な辻

 「辻」という文字は、2つの世界が交差する境界を意味する言葉として、作られたという。そこは、地域の人が集まるのに都合の良い場所であるとともに、人や事、いろんな物が交流する場所である。

 路面電車「神の木」駅から歩くと、住宅地の中、アチコチから道が集まり、すこし広がった所に「六道の辻、閻魔地蔵堂」がある。「閻魔地蔵縁起」によると、こちらの御本尊は難波(なにわ)の浜におられたが、住吉(すみのえ)の大神のもとに祭るようにとのお告げにより、はるばる運ばれ、この地にとどまり、住吉大社の神宮寺の一宇としてまつられたという。 今は住宅地の風景に溶け込み、お堂という表現がぴったりの建物が建っている。そーっと引き戸を開けると、お参りの方がいる。お堂の中は外観とは違い、力強く濃密な空気が漂っている。御本尊は石の座像、閻魔大王のお姿をしておられ、いつしか閻魔地蔵と呼ばれたという。厨子に隠れて、拝観できるのはお顔だけだが、何かが違う閻魔さんだ。

 地蔵菩薩は地獄に落ちた者を救済してくれる仏。閻魔大王は前世の善悪を裁き、つぎに行くべき世界を決める。道教の十王思想との習合等により、地蔵さんと閻魔さんを同一視する説があるが、それを表現した稀有な仏さんのようだ。つまり地蔵さんと閻魔さんは、オセロゲームのチップの白と黒のように、実は表裏一体の関係なのだ。
 狭いお堂で立ち尽くし見続けていると、ひっきりなしにお参りの方が現れる。地域の人々に暖かく守られている事がよくわかる。

 しばらくすると奥からネコがやって来た。このネコは「閻魔地蔵尊」を象徴するかのように白黒まだらだ。奥にも回るよう案内された気がしたので、本堂の後ろに回るとさらに濃密な空間。ここの壁を撫でながらお願いごとをすると霊験あらたかであるという。

 お堂の外には「六道の辻」。閻魔さんが決める、行きめぐる六つの世界である地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上への道の分れ口だ。今ここは道が1本増えて、七道の辻になっている。外観の写真を撮っていると、さっきの白黒まだらのネコが出てきたが、輪廻する六つの世界から解放される七つ目の道がどれかは、教えてくれなかった。

月刊誌「大阪人」/2010年5月号 掲載
住吉みてあるき
イラストレーション&文⚫︎中田弘司

発行:大阪都市工学情報センター





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