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無冠の女王「呉健雄(チェンシュン・ウー )」氏の業績

以前にAIがノーベル賞受賞候補を選定する、というエイプリルフールネタを振りまきました。

そこで、過去の不公平な例示として「呉建雄(Chien-Shiung Wu:チェンシュン・ウー )」を挙げました。

この方の業績について紹介したいと思います。(タイトル画像はWikiより)

パリティ保存則を破る

パリティというのはざっくりいえば鏡像関係(左右反転)を指します。

突然ですが、世の中はたった4つの力しかありません。力が弱い順に並べてみます。わかりにくい力は補足しておきます。

重力
強い力:原子核を結び付ける力
電磁気力
弱い力:原子核が崩壊するときに発生する力

もう少し簡単かつ深く知りたい方は、下記サイトがおすすめです。(これに限らず子供向けは素晴らしい内容が多いです)

どの力でも、パリティは保存されるという予想が1927年に提出されました。(当時の大物ユージン・ウィグナーによる)

その後に「強い力」と「電磁気力」で、この予想が実験で検証されました。

ただし、弱い力に関係する原子核崩壊現象を見る限り、どうもその予想に反するような実験結果が出てきました。

そこで登場するのが、李政道(ヂョンダオ・リー)氏と楊振寧(ヂェンニン・ヤン。こちらは強い力と電磁気力の対称化に貢献したヤン-ミルズ理論でも有名)氏です。
彼らは、
「弱い力についてはパリティ保存がくずれているのではないか?」
と1956年に予想します。

当時はパリティ保存則は物理学の常識的な扱いだったので、相当ハレーションを起こしたようです。

で、李の大学時代の同僚でもあり、原子核崩壊の実験では名が知られていた呉健雄(チェンシュン・ウー )に実験してほしいとのオファーが届いた次第です。

ただ、そのまま言われたことをやったわけではなく、そこからは呉健雄の工夫と努力の結晶です。(もちろん所属機関の協力はいわずもがな)

呉氏はコバルト60という原子で見事にパリティ保存則が破れていることを実験で証明しました。Wikiにその実験詳細が説明されているので関心がある方はぜひ。

ざっくりいえば、この原子核を超冷却して磁場を与えたときの放射線で強度に偏りがあった(パリティが保存されていたら偏らないはず)ことを観測した、というわけです。

この実験手法は、従来漠然としていた「左右」という概念を実験で明確に定義することを可能にしました。

この左右概念をどう見破るのかは、当時流行だった地球外生命体探査計画の名前から「オズマ問題」と名付けられ、空間についてはこれで解決です。
唐突感がありますが、ある日宇宙人に遭遇したときに、かれらが「左か右」かが分からないのよね、というくだりのようです。

そしてこの実験は今でも重要な意味をもっており、たとえばニュートリノの左右非対称にも発展し、それによって反物質の謎も解決できるかもしれません。
このあたりは込み入った話になるので過去投稿に委ねます。(右巻き・左巻きの表現のあたりです)

そして実験後に追認検証がほかのグループでも認められ、なんと1957年(ノーベル賞は数十年ぐらい歴史的評価を見て判断するケースが多い)にきっかけとなった二人の科学者に贈られます。

そしてそこに呉氏の名前がなかった、というのが未だに問題視されています。

ただ、呉氏はその後米国(国籍はこちら)で、大学で名誉博士号(女性として史上初)や物理学会会長となったり評価はされています。

近年でも、日本の数物研究所でこの方の名前の制度も新設されています。

呉氏は、この物理学の常識を変えた偉大な実験を行ったあとも、素晴らしい業績を残していますが、まずはここまでにしておきます。

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