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米国有識者が見る素粒子物理学のランドスケープ

米国に、P5(Particle Physics Project Prioritization Panel)という委員会があります。

直訳すると「素粒子物理学プロジェクト優先順位決定委員会」で、有識者が構成メンバーです。

説明がいらないそのままの役割で、過去を見ると大体10年の一度の頻度で報告書が公表されます。

その最新報告書が2023年末に公開されたので、簡単にその内容と補足をしてみたいと思います。下記が原文です。

以下、要約です。

素粒子物理学は、宇宙の最小の構成要素とその相互作用を研究する分野です。現在のパラダイムには未解明な問題があり、次の10年は3つのテーマで研究を進める必要があります。
1. 量子の世界を解読する
・ニュートリノの謎を解明する
・ヒッグスボソンの秘密を明らかにする

2.隠されたものを照らし出す
・ダークマターの正体を突き止める
・宇宙の進化を駆動するものを理解する

3.物理学の新しいパラダイムを探る
・新粒子の直接的証拠を探す
・新現象の量子的痕跡を追求する

主な提言は以下の通りです。

・現在進行中のプロジェクトを完了させ、最大限の科学的成果を可能にする
・宇宙のほぼすべての基本的構成要素とその相互作用を研究する主要プロジェクトを構築する
・小・中・大規模プロジェクトのバランスを改善し、新たな科学の機会を開く
・理論・計算・技術面で20年ビジョンに不可欠なリソースの開発を支援する
・人材育成、参加の拡大、倫理的な研究遂行への取り組みに投資する

また、2030年代後半に米国の加速器のプログラムについて検討するパネルの招集も提言しています。

十分な予算が確保されれば、科学を加速し、既存の投資を活用し、米国の科学的リーダーシップを強化するための、さらなる発見への道が開かれるでしょう。

by Claude3

何となくですが、素粒子物理の分野で何が注目されているかが分かりますね。以下に補足しておきます。

・ニュートリノの謎を解明する

→現状見つかっている3種類の関係性や、質量の起源が不明。また、他にもまだあるのではないか?これらが見つかると、反物質が現在自然に存在しない説明がつくかもしれない。関連する過去投稿を載せておきます。

・ヒッグスボソンの秘密を明らかにする

→ヒッグス粒子と言い換えたほうが分かりやすいと思います。2012年にその存在が検証されましたが、なぜその質量なのか?そもそも単一の素粒子なのか?までは分かっていません。これが分かると、宇宙の構造がよりクリアに予測できます。

また、興味深かったのが、余剰次元理論の間接的検証にもなりえるようです。余剰次元とは我々の宇宙が空間3次元+時間1次元だけでなく、微小な次元が実はある、という刺激的な仮説です。

マルチバース(多元)宇宙論と混同しがちですが、あくまで単一宇宙内に高次元があるという話です。過去に少し触れたので興味ある方はそちらを。

・ダークマターの正体を突き止める
・宇宙の進化を駆動するものを理解する

→このあたりは、過去投稿で触れたので気になる方はそちらへ。

・新粒子の直接的証拠を探す
・新現象の量子的痕跡を追求する


→現状の理論では説明つかない実験結果が話題になっています。個人的はこの流れを一番注目しています。過去の紹介投稿を。

ざっくりいうと、
素粒子の1つミュー粒子が既存理論に従わない挙動を見せている、
ということで、今後日本で追認検証が行われる予定です。

他の不可思議な現象も本文では報告されていますが、ちょっと込み入った記述(正しく理解しているかが疑問)なので割愛します。興味のある方は原文を参照ください。

世界では、Belle II、Mu2e、COMETといったプロジェクトが進行していますが、今後こういった謎を解明するにはさらなる高エネルギー加速器が必要なようです。

なかなかスケールが大きな話ですが、またどこかで今回割愛したものも含めて紹介してみたいと思います。

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