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NASAの歴史3:スペースシャトル計画と挫折

前回、人類最大の偉業といえる「アポロ計画」に触れ、それ以降で象徴的な「スペースシャトル」について触れたいと思います。
※タイトル画像Credit:NASA - Kennedy Space Center Photo Archive (image link)

最後に触れたとおり、一旦目標達成すると予算緊縮に苦しみます。

改めてですが、NASAへの予算獲得は「軍事」によるところが大きく、もっといえば当時のソ連との軍拡競争が背景でした。

その緊張関係が1970年代になってくると薄れていきます。いくつか複合的な要因はありますが、丸めるとソ連をはじめとする共産主義体制の綻びが出てきて、アメリカもニクソン大統領の時代になると停滞していた経済を回復する必要があったため、軍縮の道を歩みます。

このような緊張緩和が進んだ時期を、「デタント」と呼びます。

という政治的な思惑の中で、ポストアポロ計画は予算面で難航します。
参考までに、GDP比率で見た軍事予算ですが、1960年代は8%で、それが2000年代になると約4%程度に下がっています。

この数字はピンとこないかもしれませんが、日本では1%超えると結構ザワザワします。1つだけ記事を引用しておきます。

そういった背景を受けて、アポロ計画進行中に粛々と進めていたのが、宇宙船を再利用してお手軽に宇宙に行ける「スペースシャトル計画」です。

1972年、当時のニクソン大統領が初めてその計画に触れて、当時は年に50機以上を(つまり週に1回!)打ち上げ、1ミッションあたりのコスト低下をアピールしました。

NASA主導ですが、その作業を担う主契約企業は、アポロ司令・機械船の製作を担当したノースアメリカン社です。
参考までに、固体燃料ブースターはモートン・チオコール、外部燃料タンクはマーティン・マリエッタ、シャトルメインエンジンはロケットダインがそれぞれ担当します。
ただ、上記企業が選ばれるまでに、当時航空産業が不況だったこともあり、企業間の競争は激しく、NASAもバランスに苦慮したといわれています。

売りにしていた「再利用」についても、当初は「完全再利用」案だったのですが、国からのコスト圧縮の要請で、結果としては部分的なものになります。
具体的には、下図の通り、飛行機状の宇宙船(オービター)のみが再利用されます。
現代の生活に例えると、リサイクルさせたほうがが使い捨てよりも費用が掛かるイメージに近いかもしれません。

出所:Wiki「スペースシャトル」


その幻の完全再利用型を、後世にイーロン・マスク率いるスペースXが実現したのはご存じのとおりです。

そんなコストプレッシャーにさらされたスペースシャトルの実績(やはり目的からすると頻度とコストが成功の尺度ですね)はどうだったのか?

結論から書くと、1981年から2011年までの30年間に計135回打上げられました。当初ニクソンが掲げた年50回目標に対する達成率は1%未満です。(ちなみに、1980年代後半での目標はその半分程度)
そして、細かくは開示されてませんが、少なくとも当初期待値よりは大幅にコストもかかっています。

表面的には、計画に悪い影響を及ぼしたのは、二回の悲劇的な事故によるものです。

1回目は、1986年に打ち上げられたチャレンジャー号で、打上げ直後に空中分解し、7名の宇宙飛行士が犠牲となりました。
事故の原因は、ロケットブースターの接合部を担う「O(オー)リング」とよばれるゴム製の部品の機能不全でした。
実はこの「Oリング」に問題点があることは、製造メーカーから指摘されていたのですが、意思疎通がうまくされなかったといわれています。

事故後数年間は打ち上げを中止して改善に努めますが、2003年にコロンビア号が再度事故に見舞われることになります。
今度は打ち上げ時は問題なかったのですが、地球への帰還で大気圏に再突入した後、空中分解してしまい、チャレンジャー号事故のときと同様、7名の尊い宇宙飛行士の命が犠牲になりました。
事故の原因は、外部燃料タンク付近の断熱材の破片が宇宙船の左翼を直撃したことでした。
実はこのリスクも以前からNASA内部で指摘されていたものの、抜本的な対策をとらず、改めてNASAの意思疎通体制に指摘が入ることになります。

事故の翌年の2004年に、当時のレーガン大統領はスペースシャトル計画を終了するよう命令を下し、2011年の飛行を持ってその幕を閉じます。

話を分かりやすくするために、問題点に絞って書きましたが、NASAのプロジェクト管理体制に問題が出たのは、従来の安全保障による性能重視から、経済的なコスト重視になったことも遠因にあると考えられます。

このあたりの組織体質の変容は、民間の企業でも起こりがちでとても示唆に富みます。
下記の書籍が参考になったので、関心を持った方にお勧めしておきます。


今までは、米国の威信を示す「アポロ計画」「スペースシャトル計画」について紹介しましたが、冒頭に触れた米ソ緊張緩和もあり、宇宙開発でも国際的なプロジェクトが始動します。

次回はその象徴的な計画にあたる「ISS(国際宇宙ステーション)」についてNASAの視点で触れてみたいと思います。

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