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⑧「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」第4章 ある視点 1 疾患あるいは病態には、それぞれが持つ時間がある。

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 前章で、簡単に「風邪」について話をしてきたが、そこで何気なく使った、いくつかの「考え方」が、「風邪」に限らず、他の疾患に対しても応用できる、広がりのある「考え方」であることをこの第4章でしめせたらと思う。
 
 それは例えば、
①  風邪は1週間ほどでなおっていく
➡疾患あるいは病態には、それぞれが持つ時間がある。
②  風邪ウイルスは体外から体内へと侵入する
➡解剖学の本に書いていない人間の体の構造のとらえ方。
③  風邪による炎症で傷んだ細胞が再生する、あるいは再生しない。
➡臓器予備能、あるいは閾値、と言う考え
 
 
1 疾患あるいは病態には、それぞれが持つ時間がある。 
 
 風邪は、人間の体の中で様々な免疫機構が順番に働いていき、1週間くらいでなおっていく、と前章で示した。

 では、皮膚の場合はどうだろう。
 咽頭や喉頭での炎症と違って、皮膚の炎症がなおっていくのにはもう少し時間がかかる。その背景には、正常な状態で、表面の表皮が2~3週間で、もう少し深い真皮が6~12か月で、新しい細胞といれかわる、という時間間隔が影響している。

 皮膚の炎症が発生し治癒するまでの流れを示すのに、下記のような「湿疹三角」という図がある。



 
「湿疹」=皮膚の炎症である。
 紅班、丘疹、水庖、膿庖といったものは、炎症の状態をしめす。炎症の様々な表現形態である。つまり、今の炎症の強弱はどの程度か?炎症が治癒するまでの時間軸上で今、どこに位置するか?を判断する参考になる。
皮膚を観察するということは、その観察で、原因を特定することではない。   炎症の程度(強弱)を把握し、投与する薬剤の強弱の程度を加減するということだ。
 実は、限られた場合をのぞいて、皮膚の炎症をおこす原因と、皮膚の炎症の状態(表現形態)は1対1ではない。
 皮膚の炎症の原因は様々だ。
 その多くは、皮膚の外部からの刺激による。寒さ、暑さ、乾燥。こすれたり、圧力がずっとかかったりすること。もちろん、ウイルスや細菌、花粉やほこりなどのアレルギー物質も、外部から皮膚を刺激する。
 もちろん、皮膚は、体が弱っていれば、傷つきやすい。体調が悪いと、皮膚は傷みやすい。
 まれに、自分で自分の皮膚をわざと傷める(自己免疫疾患)などもあるが。
 さらに、生まれ持った、皮膚の強さは、個人個人違う。
 たとえば、アトピー肌と言われる皮膚は、皮膚が一般の人より弱い状態だ。同じ外部からの刺激でも、皮膚が全然平気な人もいるのに、皮膚が弱いので同じ刺激でも皮膚が傷んでしまう。
 もちろん、もともと皮膚が強い人でも、特定の場所が、炎症をおこしはなおりをくりかえしているうちに、弱くなっていってしまう、ということもありうるだろう。
 だが、残念なことは「弱い皮膚を強くする薬」はまだない。
 あるのは、「炎症」をおこしたときに、その火事を消す薬があるだけだ。
だから、皮膚の弱い人は、普通の人よりも、回数多く、薬を使って「炎症」をおさめなければならない。
 残念ながら、今の医学では(もちろん民間療法でも)、「弱い皮膚を強くする薬」は未だみつかっていない。
 このことを認めないと、昔のような「アトピー難民」になったり「医療不信」になったりする。つまり、簡単のようで、「弱い皮膚を強くする薬」は、今のところない、と認めることは、意外にむずかしいのだ。
 ぼくが思うに、実際問題、もし、可能性があるとすれば、皮膚そのものをいれかえる「iPS細胞」療法の進歩を待つということにでもなろうか?
 
       *
 
 例えば、手術後の傷が治癒していく時間。
 抗がん剤で腫瘍が消えていったり、あるいは薬が効かずに腫瘍が増殖していったりする時間。
 緩和医療で人の命が失われていく時間。
 
 スピードは疾患によって違う。
 そして、すべてに例外はある。
(男女、年齢でなりやすい病気があるように)
 
 それらは、勤務医のときに、学んだものだ。
 一般の人と医療者の理解の違いの大きなものは、一般の人は、身近な時間経過でしか病態を考えられないが、医療者はその病態の最後を知っているので、それぞれの疾患あるいは病態の固有の時間を把握している、というところにある。それが「専門家」という意味でもある。
 その当時は「クリニカルパス」と言う言葉でひとくくりにし、めんどうな書類のひとつ、と思うこともあった。
 だが、その元の考え方は、いろいろなところで有効なのである(わざわざ、「パス」という文書にするまでの必然性はないが)。
 開業医になって、勤務医のころは外科の疾患しか知らなかったぼくは、その理解を応用して、対象を少しずつ広げた。
 
 皮膚の炎症が強くなり、それが薬で治まっていく時間。
 パーキンソン病や、認知症が、進行していく時間。
 老人の症状が、重症であっても、表に出にくいという感触。
人が命を失うまでの時間。例えば、3.3.3の法則。 

などなど  

人は「待つ」ということが、苦手だ。
その苦手なことができるのは、このようなことを知り、自分の心を制御するしかない。  
             


第①話へのリンク:①「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」                      第1章 コロナウイルスパンデミックは、今まで隠れていた現実を、いろいろ垣間見せ、あぶり|kojikoji (note.com)    

第⑨話へのリンク:⑨「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」第4章 ある視点          2 解剖学の本に書いていない人間の体の構造のとらえ方。 |kojikoji (note.com)


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