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⑦「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」                      第3章 なぜ、あなたは風邪のときに病院に行くのか? 

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第3章 なぜ、あなたは風邪のときに病院に行くのか? 


自院、駐車場にて。(コメント)細かいことだが、パンデミックの最中、検査陽性者の保健所への報告が遅れ、保健所から患者への連絡が、さらに遅れるという事態が起きていた時期があった。検査の数を(収入をあげるため)増やすことを優先して、保健所への連絡を後回しにしたクリニックも少なくなかった。その場合、検査数を抑えるべきなのに。「希望者全員に検査を」と言う口実で、不誠実な対応となっていた、ことに反省の弁はなかった。

「発熱外来」というものは、コロナパンデミックが始まる以前は、聞きなじみのある言葉ではなかった。
 しかも、コロナパンデミックでの「発熱外来」は、いわば「コロナ感染外来」に他ならず、マスク(これは、ぼくは、もともと普段の外来でも、1年中つけてた)に加えて、フェイスシールドやガウン、手袋を装着し、別室あるいは駐車場の車内で、(時に喉をライトでみることはあるが、時にはそれもなしで)ウイルス検査の検体を鼻やのどからとる、といういびつなものだった。
 ぼくは、その熱が、コロナからのものでなく、他の原因によるものがまぎれこんでいることを常におそれていた。時に、車のドアをあげさせて、お腹を触診したり、体の傷をみせてもらうことも、あった。

 そう。
 熱の原因は(コロナをふくむ)風邪=上気道感染、だけではない。
 熱は、その体内がなんらかの理由で体外からの異物にさらされたときに、その防御反応=戦い、の結果としてでるのだ。
 その「戦いの現場」はどこか?
 上気道?皮膚?腸管内?(外部=注、からは遮断されているはずの)腹腔内?肺内?脳内?もしかしたら、なんらかの原因で自己の組織が変化して非自己になったこと、が原因(自己免疫疾患)?

 (注)実は、体外/体内の区別も少し理解がいる。一見、体内にある腸管内部は、体外である(外とつながっている。あるいはすい臓から腸管内にでる膵液は「外」分泌という。逆は内分泌。ところで、腸管の外、お腹の中は腹腔というが、そこには臓器その外はどうなっているだろう?真空だろうか?外部とはつながっていないのか?
 少なくとも、言えること。この、体の内と外の境界、それは目に見える皮膚や、目に見えない喉や気管や消化管の粘膜、だったりするが、そこは当然のごとく普段から痛んだり治ったりを繰り返している場所で、「戦いの現場」になる場所なのだ。

 その「戦いの現場」をみつけるのは、時に、問診や、触診/聴診/視診等だけでは難しいこともある。そういう場合、直接的には見えないないものを見えるようにする、採血やCTなどの諸検査が、役に立つかもしれない。
 「戦いの現場」がわかりにくくなる理由の一つは、発熱がおこる場所は局所的なのに、それが全身に影響を及ぼすことが少なくないからだ。それは、例えれば、火事で燃えている家は一軒だけなのに、そこで発生した煙や火の粉が風にのって現場以外の場所に広がり影響を与える、ようなものだ。
 つまり、例えば風邪の時、炎症(火事)がおきているのは喉とその周囲だ。だが、現場で喉が痛くなったり、現場近くに炎症がひろがり、咳、鼻水がでるだけでない。その影響で、遠くに影響、すなわち関節が痛くなったり頭痛がおきたり気持ちが悪くなったりする。この時、血液にのって遠くの臓器に行き、影響を与える火事の煙や火の粉に相当するものを、(炎症性)サイトカインと呼んだりする。

 初期の局所の戦闘(火事の鎮圧、あるいは炎症の鎮静)に、体が敗れると大変なことになる。今度は、炎症性サイトカインではなく、ウイルスそのものが血液にのって全身の臓器に広がる。脳、肝臓、腎臓、心臓など。つまりいわゆる「敗血症」。生命維持のために、最終決戦の開始だ。

 ちなみに、このような炎症反応がおきたとき、熱は1日に1回くらいしか出ないことが多い。これはなぜか?これについては、どの教科書や専門家も説明していないが、ぼくの仮説はこうだ。戦いで、体内の白血球などの兵隊が、体から減って戦えなくなると、熱は下がる。体の中で、免疫を担う兵隊が再生産され数が増えるまでには、一定の時間がかかる。増えると、攻撃再開。なので、1日に熱は1回くらいしか出ないことが多い、のだ、と。

              *

 さて、ここからは、発熱の原因のひとつ、「風邪」=上気道感染、についての話を中心にすすめていこう。
 幸いなことに、コロナ感染をふくめ、多くの風邪は、重症化せずに、入院なしに1週間程度でなおっていく。
 入院が必要かどうか?は実は誰でもわかるようなことで、ある程度の入院症例数を経験して(みて)さえいればそう難しいことではない。ただ、少なからぬ一般人(あるいは、入院症例を見る機会はないが、本やWEBで知識を得る機会のある人)は、熱がでて体がつらくなると、これは入院が必要なのではないか?と思う。こんなつらい状態なのに、なぜ、入院させてくれないんだろう?
 その状態を冷静に評価して、これは入院必要ないよ、と判断するのは確かに医者の仕事のひとつだ。

 入院は必要なくても、仕事や学校にいけないくらいねこんでしまう人もいれば、解熱剤を服用しながらなんとかいつものように仕事をしてしまう人もいて、その「症状の重さ」は千差万別だ。
 風邪薬は、熱や咳を一時的に(薬や体の中にはいってから、肝臓や腎臓から体外にでていく=代謝される、までの数時間)隠してくれるが、コロナのようなウイルスそのものを壊すわけではない。ウイルス排除は、自分の免疫が行う。それに要する時間は、教科書的には約1週間ほど。ウイルスが感染したすぐは、補体系や単球、によるウイルスへの攻撃。そしてそこにマクロファージも加わり、戦いつつリンパ球系に情報伝達をおこなう。そしてキラーT細胞、あるいはB細胞からの(ミサイル)抗体により、ウイルスは破壊され壊滅する。リンパ球の出動前までには、(ワクチンによる事前学習がない場合)3~5日間かかる。もちろん、持病があったり体質的に免疫力が落ちている場合、ワクチン接種してあったりかつて罹患したことがあったりすることでリンパ球の記憶が既にある場合、など個人の治癒のスピードは千差万別だ。
 ただ、コロナのデルタ株はともかく、コロナのオミクオン株の多くは、抗ウイルス剤がなくても、1週間ほどで自分で治せる。そう意味では、インフルエンザもそうだ。
 だが、普通の(名のない)風邪と違って、コロナのオミクロン株やインフルエンザは、体の弱い人(持病のある人、あるいは高齢者)が死亡したり、子供が脳炎を発症したりすることがありうる。だから、ワクチンがつくられ、薬が開発される。要するに、名のある風邪は、(ほとんど全員、ではなくても、まれに)このような事例があるから、名前がつけられ、遺伝子・タンパク質情報が分析され、研究されるというわけだ。

 コロナのパンデミックのとき(あるいは普段から)、ウイルスに対するワクチンの是非、抗ウイルス剤の是非、について多くの議論がある。
 医者の中でさえ、ワクチンは(危険だから?)推奨しない、抗ウイルス剤は(不要だから?)投与しない、と真剣に思い、(ネットで議論しているだけでなく、あるいはネットの議論には興味なくても)普段外来で実践している人達は一定数いる。今ではずいぶん減ったが、熱を下げるとウイルスが死なないから?解熱剤をださない、という開業医は今でも実際にいる。

 ぼくの立場も、ここで言っておこう。
 ウイルスに対するワクチンは効果のあるものはうつべきだ。しかし、コロナに対する今のワクチンのように7回うっても効果があいまいなものは、今後の改良がいる。
 抗ウイルス効果のある薬も、今後、さらに効果を高める研究をつづけていくべきだ。今の薬剤では入院した人を治すのに十分とはいえない。
 外来での経口抗ウイルス剤は、早くなおし働きたいという忙しい現代人むけの、なくてもいい薬剤かもしれない。
 熱が上がるのは、「戦いの結果」であって、熱によってウイルスを殺しているわけではない。熱を下げるのは、つらいから、だけでなく(特に子供の場合)状態を一時的によくして水分や食事摂取の機会を増やすためだ。こわいのは、ウイルスと言うより、脱水なのだから。

 
第①話へのリンク:①「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」                      第1章 コロナウイルスパンデミックは、今まで隠れていた現実を、いろいろ垣間見せ、あぶり|kojikoji (note.com)

第⑧話ヘのリンク:⑧「コロナウイルスのパンデミックをふりかえって~ある地方開業医の視点~」第4章 ある視点 1 疾患あるいは病態には、それぞれが持つ時間がある|kojikoji (note.com)



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