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[連載8]アペリチッタの弟子たち~問診評①~年齢・性別・名前/湿疹三角

毎晩夢にでてくるようになった魔法使いアペリチッタの書いた本、という体裁で語られるこの連載は、ことば、こころ、からだ、よのなか、などに関するエッセーになっています。

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「問診評」
 
1 年齢、性別、名前
 
 クリニックに初診でかかる患者さんには、問診票に記入をしてもらう。
 一般に、問診票で重要視されるのは、年齢と性別である。
 名前は隠される。個人情報保護の観点からの理由だけではない。
 病気と最も関連性が深い情報は、名前ではないからである。
 年齢と性別を知ることは、それだけで病気の可能性をしぼる参考になる。
若い年齢では、悪性腫瘍よりも感染症の割合が高い。その逆も然り。女性では、女性ホルモンに関係する問題、妊娠や生理を考慮にいれねばなるまい。高齢者女性では、骨粗鬆症もこれと関係する。
 これでは、おおざっぱすぎるが、年齢と性別から、とにかくいろいろな類推がある。
 もちろん、何事も例外があることを知っての上のことである。
 このことは医療の基本である。
 だから、医療従事者間で、患者医療情報のやりとりをする時、伝達の冒頭にこの重要な、年齢と性別を伝えない看護師や介護士と接すると、「プロでないな」と感じる。医者同士では、そういう違和感はゼロではないにしろ、ずっと少ない。
 一方、このように名前が隠された時点で、性格は捨象され、この時点ですでに個人のドラマは消えているのである。
 その後の診断、治療の過程でも、この最初の手続きの影響は続いていく。
 
 一方、アンケート調査でも、名前は隠され、年齢と性別のみ記される。だが、このときは多数のサンプルを集め、統計を使って新たな情報を得ることが目的になる。
 問診票のように、その1枚に書かれたわずかなヒントをもとに、既にある知識を動員して、その人の病気の診断をすすめていく出発点になるのとは、ずいぶん異なる。
 
 では、評論を書くときはどうだろう?
 わずかなヒントをもとに、既にある知識を動員して、その評論をすすめていくところは、アンケート調査でなく、問診票に近いことは間違いない。
 だが、そこには、名前どころか、年齢や性別も、みえない。
 新たな方法論を持ち込む必要がある、とぼくは感じていた。
 その方法論について、まだぼくは、定式化ができていない。
 だが、この評論を書いていくことが、その方法を探っていくことだと、感じながら書いている。
 
 10年前、ぼくは、外科医として勤務していた病院を退職して開業した。自分の専門性を生かす仕事を、と思ったわけではない。今から思えば、それは単なる「エスケープ」で、何か今までと違うことをやりたかったのだけど、医者以外に生計をたてるすべがなかった、というのが実情だった。
 ただ、少なくとも、20年続けてきた外科の仕事をやめ、開業すると決めたとき、もう心残りはなかった。やることは、やった。もう心残りはない。外科医としての勤務医の生活を、もうやめとうと思った細かい理由をもしあげろというなら、これから、自分に待っている、大病院の管理者としての仕事に興味が持てなかったこと、ここ数年、時代の流れで、やらざるをえなくなりやってきた『腹腔鏡手術』に、どうしても情熱を持てなかったことが、あげられるかもしれない。『腹腔鏡手術』はなくてもいい手術、という思いが、どうしても心の中から消えなかったのだ。
 限りが見えてきた自分の人生。これからは、もっと自分のやりたいことをやろう、もっと余裕のある時間をすごそう。そういう思いが、一番の理由だった。50歳を目前に控えたときのことだ。
 だが、外科の仕事を始める前に、外科の仕事とは何か、よくわかっていなかったと同様、開業する前には、開業とはどういうものなのか、実は、ぼくにはよくわかっていなかった。
 なかなか、集まってこない患者。風邪や、95%は不合格のコメントがはいる健康診断で『異常』とされた、高血圧や高コレステロール血症の患者への対応。
 ちなみに、少し調べれば、(高血圧と違い)高コレステロール血症が健康を損なうという証拠は、まだないことがすぐにわかる。つまり、今の社会においては、官民が共謀して「高コレステロール血症は健康に悪い」というウソを、真実としている。この、ウソとわからなくなってしまったウソは、国のお墨付の『健康診断』や、メディアでの広告で、疑いなく正しいことされている。
 ただ、国が戦争に突入していくような、致命的なウソでなくてよかった、ともいえるが。
 また女性ホルモンがなくなることで、いわゆる「更年期」からはじまる、特に女性に多い骨粗鬆症という病気をなおすといわれている薬について。実は、今あるそれらの薬では、骨折は減らない。確かに、検査所見が改善することはデータで確かめられている。だが、それと同時に、今あるいずれの骨粗鬆症の薬も、骨折を予防しないということもデータでは確認されている。
 でも、ウソがウソであることを声高に言っても虚しいだけだ。ぼくが心を砕いたのは、ウソと知ってしまったことを、どう、自分の良心と折り合いをつけておこなうか?というところだった。だした答えは、偉い人がそう言っている、とか、みんながそう言っている、ではなくて、現状を説明して、現在、研究が進行中であると話すことだった。
 とにもかくにも、外科の看板を掲げているといえども、開業するとなると、手術などの機会はなく、あらたに内科の勉強?が必要だった。
勤務医の外科医は、ほとんど、高血圧や高コレステロール血症や糖尿病の薬の名前を知らない。正直、それらは、病気の中にはいらない、という感じだったもの。
 実際、入院して手術となると、高血圧や糖尿病の飲み薬はすべてやめていた。必要なときは、短期で注射薬を用いる。
 なので、ぼくの場合、開業後は、まず、のみ薬の名前を、一から覚えることから、スタートした。
 そして、外来での患者応対のスキルについても少し勉強した。「コーチング」「アンガーマネージメント」についての本は、多少なりとも役にたった。
 患者が「ずっと、調子が悪いんです」というとき、この「ずっと」は、1日のときもあれば、1週間のときもあれば、1カ月、1年のときもある。でも「正確に言ってくれないと困ります」と患者を怒るかわりに、めんどうくさがらず、いちいち聞きださなければならない。
 「体がえらいんです」といわれて、「元気をだす薬は世の中にはありません」と怒らず、「あの白い薬がほしいんです」と言われて「薬の色はほとんど白です」とむっとして言い返さないようにするには、素手の心では荷が重い。
 コーチングの勉強で身に付けた「おうむがえし」や、アンガーマネージメントで培った「深呼吸」や「1から10までカウントする」ことにはしばしば助けられた。
 ちなみに、漢方薬は、「元気をだす薬はありません」と、陳腐な事実を言うかわりに、「効果は全員にはありませんが、もしかすると効果があるかも」と、提示するのに、役に立つ。
 これらは、ぼくにとって、確かに新しいことだったかもしれない。
 そして、内科開業医の主な仕事が、予防接種をすることと、冬季のインフルエンザの診療の二つであることがわかるのに、3年ほどかかった。一方、実際に開業医が診療に使う知識や技術は、医師になって3年ほどの期間で、だれもが習得しているレベルで十分対応できるものだった。
 正直なところ、これら、クリニックの診療は必ずしも楽しいものとはいえなかった。
 これらは、もちろん、無意識に開業前からわかっていたことだった。それが、しっかりと意識できるようになっただけのことなのだが。
 でも、開いたクリニックをつぶすわけにはいかない。
 たとえ、外科医として磨いてきた手術の技術は生かせなくても、外科医として培ってきたものの見方を生かした、診療はこころがけよう。
 それが、心の支えのひとつになった。
 それは、たとえば、にきびの治療だ。
 ホルモンや皮膚の性質、ビタミンなどはおそらく、にきびの原因に関係する。でも、それは、未だ、実際の治療につながるまでの具体性や現実性を、もちあわせてはいない。それゆえ、今の医療現場での、にきび治療の基本は、それを、毛包の感染症としてとらえることだ。
 ぼくは、外科医として腹腔内の感染についてずっととりくんできたように、目に見えない小さな毛包の感染についてとりくむことができることを知った。
 
 
2 湿疹三角
 
 胸の動悸が高鳴る。
 これは、感動や希望が人の近くにあることを示す。つまり、好ましいことを意味する。
 ところが、医療で「胸の動悸が高まる」のは、不整脈など、好ましくない病気の可能性を指す。
 このように、様々な、一般用語と医療用語の差異が存在する。
 ここでは、「炎症」という医療用語を中心に考えていきたい。
 
 「炎症」とはある体の部位、あるいは、もっと広範囲にある臓器が痛むことである。
 「炎症」のイメージは、火事で、家が炎焼している状態がわかりやすい。
 火事の時に、火の粉や煙が家からたちのぼり遠くへとんでいくでしょう?
 だから、例えば、喉が火事になったとき、喉から遠いところ、頭や胃、腰や膝などの関節へ、そういう「火の粉や煙」が血液中に溶け込んで飛んで行って、影響をおよぼし、痛みを引き起こすんだよ。
 だから、喉の火事の原因が、インフルエンザウイルスでも、他のウイルスや細菌でも、頭痛や腹痛や関節痛はおこる。
 火事の場所が喉でなく、お腹のときも、頭痛や関節痛はやはりおこりうる。
 ちなみに、この「火の粉や煙」のことをサイトカインという。
 ところで、風邪の時、一度熱がさがっても、また熱がでるのはなぜか?考えたことがある?
 この発熱も、実はこの「火の粉や煙」(サイトカイン)が全身にまわったときにおこる。細かくいうと、このサイトカインは、火事を消そうと現場に大量にやってきた消防団の「白血球」から放出される。
 1日中、この消防団は働けない。炎を消すための水(あるいは消防団員)は、使うと一度なくなってしまう。だから補充しないといけない。その補充する期間に、一度熱が下がる。そして、また新たな水(あるいはあらたな消防団員)の補充がおわり、また放水をはじめると、熱が出はじめるというわけだ。
 ちなみに、鎮痛解熱剤というのは、火事で燃えている住宅に水をかけるのではなく、「火の粉や煙」(サイトカイン)をおさえるだけだ。だから、鎮痛解熱剤では、火事はおさまらない(炎症を鎮めない)。一時的に、熱や痛みを「隠す」だけだ。だから、鎮痛解熱剤が体内から消えると、また熱がでる。元の家は、燃え続けているからだ。
 でも、一時的に「火の粉や煙」(サイトカイン)がでるのを抑えると、その間だけでも体が楽になる。そうすると、ぐったりした子供が少し元気になって、一時的でも水分や食べ物を自分でとれるようになる。これは、体にとってのぞましいこともある。
 
 体の場所で、炎症をおこしやすい場所と、おこしにくい場所がある。
 炎症を起こしやすい場所は、体の外と内の境界にある臓器だ。
 一番わかりやすいのは、目でみえる皮膚だ。
 皮膚は、たえず、外部の刺激にさらされている。
 つまり、傷んではなおり、なおっては傷むをくりかえす。
「先生、私の皮膚、良くなっては悪くなるをくりかえし、ちっともなおらないんです」
という、訴えは多いが、それは、そもそもの考えが間違っているのだ。つまり、外部と接している皮膚は、もともとの性質として「良い悪いをくりかえす」そういう場所に元来位置しているのだ。
 「くりかえす」ということは、外部と接しているから、それはやむを得ないことであり、元来、それが皮膚がもつ機能なのだ。
 皮膚の炎症を「湿疹」という。
皮 膚科の教科書には、「湿疹三角」という以下のような、図が書かれている。 

 「湿疹」=皮膚の炎症である。
 紅班、丘疹、水庖、膿庖といったものは、炎症の状態をしめす。炎症の様々な表現形態である。つまり、今の炎症の強弱はどの程度か?炎症が治癒するまでの時間軸上で今、どこに位置するか?を判断する参考になる。
 皮膚を観察するということは、(実は、みなさんのもつイメージとは違って)その観察で、原因を特定することではない。観察の一番の目的は、炎症の程度(強弱)を把握し、投与する薬剤の強弱の程度を加減するということだ。
 実は、限られた場合をのぞいて、皮膚の炎症をおこす原因と、皮膚の炎症の状態(表現形態)は1対1ではない。
 皮膚の炎症の原因は様々だ。
 その多くは、皮膚の外部からの刺激による。寒さ、暑さ、乾燥。こすれたり、圧力がずっとかかったりすること。もちろん、ウイルスや細菌、花粉や  ほこりなどのアレルギー物質も、 外部から皮膚を刺激する。
 もちろん、皮膚は、体が弱っていれば、傷つきやすい。体調が悪いと、皮膚は傷みやすい。
 まれに、自分で自分の皮膚をわざと傷める(自己免疫疾患)などもあるが。
 そして生まれ持った、皮膚の強さは、個人個人違う。
 たとえば、アトピー肌と言われる皮膚は、皮膚が一般の人より弱い状態だ。同じ外部からの刺激でも、皮膚が全然平気な人もいるのに、皮膚が弱いので同じ刺激でも皮膚が傷んでしまう。
 もちろん、もともと皮膚が強い人でも、特定の場所が、炎症をおこしはなおりをくりかえしているうちに、弱くなっていってしまう、ということもありうるだろう。
 そして、残念なことは「弱い皮膚を強くする薬」はまだない。
 あるのは、「炎症」をおこしたときに、その火事を消す薬があるだけだ。
だから、皮膚の弱い人は、普通の人よりも、回数多く、薬を使って「炎症」をおさめなければならない。
 残念ながら、今の医学では(もちろん民間療法でも)、「弱い皮膚を強くする薬」は未だみつかっていない。
 このことを認めないと、昔のような「アトピー難民」になったり「医療不信」になったりする。つまり、簡単のようで、「弱い皮膚を強くする薬」は、今のところない、と認めることは、意外にむずかしいのだ。
 ぼくが思うに、実際問題、もし、可能性があるとすれば、皮膚そのものをいれかえる「iPS細胞」療法の進歩を待つということにでもなろうか?
 ちなみに、「iPS細胞」療法の新しさは、昔からある「細胞移植」あるいは「細胞をつかった診断や薬剤テスト」の枠組みで、その細胞を入手しやすくしたことにある。細胞が入手しやすくなった、という前進はあったものの、他の課題はまだ残されていることにかわりはない。
 
 同じような理屈が、胃の内部表面の「炎症」にもあてはまる。
 しかし、胃の内部表面の場合は、目にみえない分、皮膚の場合よりわかりにくい。
 胃の内部というのは、体の中にあるようで、実は体の外にある。食べ物は、「吸収」されて、はじめて体の中にはいる。食べたものがそのままある胃の内部とは、体の外で、胃の内部表面は、皮膚のように、体の内と外の境界線である。胃の内部表面は、食べ物という、外部の刺激にさらされて、皮膚のように、傷んでは治る、をくりかえすのだ。
 だから、「胃炎」というのは、皮膚でいえば「湿疹」のようなものだ。
胃の内部表面は皮膚とちがって、目に見えない分、ピンとこないが、皮膚のように傷んでは治るをくりかえすし、個人によって、外部の刺激に対して、強い表面、弱い表面、様々だ。
 ここでも、体質、という生まれながらの性質の影響は大きい。あるいは、乳児のときに、ピロリ菌に感染する人のなかで(全員ではないが)胃の内部表面が傷みやすい人もいる。
 ちなみに、今の60歳以上では、ピロリ菌感染率は70―80%だが、今の10歳以下の感染率は10%以下だ。人の一生の中で、胃がピロリ菌に感染するのは、胃酸の少ない乳児期だけだ。今の60歳以上の人は、乳児期に、親が「口かみ」でやわらかくした離乳食をたべ、親の口の中にいたピロリ菌に感染した。今の10歳以下の人の離乳食は、「口かみ」でなく、缶詰である。よって、ピロリ菌の感染が激減した。
 なお、胃がんは、ピロリ菌をもつ人のごく一部の胃から発生する。今は、まだ胃がんは、日本人の国民病だが、今の10歳以下の日本人が大人になったとき、胃がんは激減する。おそらく、今後も、胃がんに対して有効な抗がん剤は開発されることはいだろうが、開発される前に、このような理由で、日本から胃がんはなくなるのだ。
 話は少しそれたが、胃でも、皮膚のとき「弱い皮膚を強くする薬」がなかったように、「弱い胃を強くする薬」はない。
あるのは、胃でおきた「炎症」を鎮める薬だけだ。
 なので、胃がうまれつき弱い人は、「炎症」をおこす回数が多いので、薬を使う回数もふえる。
 このピロリ菌の除菌は、「弱い胃が強くする」ことのできる、数少ない方法だ。たとえ、ピロリ菌除菌によって、「鋼鉄の胃」が手にはいるわけではないが、「弱い胃を強くする薬」はない現状、もしかしたら胃そのものを強くできるかもしれないという点で画期的だ。
 
 皮膚、胃についで、「外との境界線」にあるものの例として、最後にとりあげたいのは、「心」である。
 「心」は、たえず、外部からの刺激にさらされている。
 だから、元来、傷んではなおり、なおっては傷むものなのだ。それは、その位置関係からして、当然のことなのだ。
 そして、皮膚でアトピー肌の人がそうなように、胃でピロリ菌感染者がそうなように、他の人なら平気な外部からのちょっとした刺激でさえも「傷んでしまう」、外部からの刺激に弱い「心」をもつ人がいる。
最近、耳にする機会の増えた「HSP」という人たちはそういう人だろう(注1)。
 そして、皮膚のとき「弱い皮膚を強くする薬」がなかったように、胃のときに「弱い胃を強くする薬」はなかったように、「弱い心を強くする薬」はないのだろうか?
 
 その前に。
 心は、皮膚や胃のように、外部との境界線にあり、外部の刺激により、元来「傷ついてはなおり、なおっては傷つく」ものであることは一緒であるとしても。
 皮膚の「炎症」を鎮める薬があったように、あるいは、胃でおきた「炎症」を鎮める薬があったように、心の「炎症」を鎮める薬は、そもそもあるのか?という問題がある。
 睡眠薬や向精神薬は、弱い心を強くする薬ではないどころか、心の「炎症」を鎮める薬でさえない。
 鎮痛解熱剤が白血球からのサイトカイン放出を減らして、一時的に痛みや熱を隠すように、
 睡眠薬や向精神薬は頭(心)を眠らせてあるいはぼんやりさせて、一時的に外部からの刺激を「感じない」ように隠しているだけだ。
 心の「炎症」を抑える薬はないので、「時間をかける」という炎症の発端と終焉の自然経過を待つしかないのだろうか?この時間を短縮するような抗ウイルス剤のようなものはないのだろうか?
 だが、風邪ウイルスを殺す薬が開発されてないし、開発の機運もないように、このような薬の開発は不要なもの、ということもできよう。
 
 最後に、前回だした、「湿疹三角」の図にもどろう。
 この三角形の左側に上下にのびる縦軸、下側に右にのびる横軸のラインをひいてみよう。
 縦軸は、炎症の強さ。
 横軸は、時間経過。
 この新しい横線を、少し下のほうでひくと、アトピー肌、つまり、炎症の起こしやすい弱い肌を持った人の「湿疹三角」ができる。
 つまり、同じ刺激でも、普通の人より、炎症がおきやすいことを図は示す。つまり、炎症をおこす「域値」が低いのだ。
 そして、同じ図を、「心」で書いてみよう。
 炎症をおこしやすい、「域値」が低いのはHSPの人の図だ。
 
 でも、本当は注目すべきは、この横軸が、人それぞれの性質により上下に移動しうることではない。
 本当に大事なのは、いずれの場合でも、「横軸は時間軸である」ということだ(注2)。
 つまり、「炎症」がおさまっていくには、一定の時間がかかる、ということだ。
 この、「時間がかかる」ことを知ることで、人はもう少し、「炎症」について冷静に対応できないだろうか。
 皮膚も、胃も心も、傷つくのは速いが、治るまでは遅い。
 治るまで、時間がかかるのだ。
 だが、そのことを知識として知っていても、待つことは難しいようだ。

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