ドラッガー風エクササイズでお互いの期待を理解する(#20)
この記事の初出は、Software Design 2023年11月号です。
各自の力をより発揮するために
チームの皆で楽しく開発するために必要な要素は色々ありますが、その1つにお互いのことを理解し合うことがあります。
メンバーがお互いに、どんな価値観を持ち、どんな期待をしているかを理解していれば、それを考慮したタスクの割り当てやコミュニケーションを行えて、各自の力をより発揮しながら楽しく開発できると思います。
今回はお互いの理解を深めるための施策として、ドラッカー風エクササイズを紹介します。
ドラッカー風エクササイズとは
「アジャイルサムライ」の著者 Jonathan Rasmusson が提唱したチームビルディングのための手法です。
チームメンバー同士で以下の4つの質問に答え、ワークショップ形式で発表し合います。
自分は何が得意なのか?
自分はどうやってチームの成果に貢献するつもりか?
自分が大切に思う価値は何か?
チームメンバーは自分にどんな成果を期待してると思うか?
そうすることで、お互いの強みや価値感や期待を知り、信頼関係を築き、チームの成長を促します(詳細はこちら)。
筆者のチームでの実施方法
GMOペパボさんが公開している「ドラッカー風エクササイズ・ペパボエディション(詳細はこちら)」というやり方をベースに実施しました。
ペパボエディションが通常のやリ方と異なる点は「期待をすり合わせる」 ことを第一の目的として、メンバーが答える質問を変更していることです。
特に大きな変更点は「他のチームメンバーに期待することは何か?」という質問の回答を、自分以外のチームメンバー全員に対して書くことです。
自分が期待されていると思っていることと、実際に他のメンバーが自分に期待していることの両方が場に現れることで、期待をすり合わせることができます。
筆者のチームでは、ペパボエディションで行われている3つの質問に加えて「自分が大切に思う価値は何か?」を加えました。
各自の価値観を表明することは、自己開示と相互理解を行うために重要だと判断したためです。
また、各質問に対する回答の書き方は、一番重要な事を一文で書くようにしました。
「⾃分が⼤切に思う価値は何か?」などの質問に対して「⾃由、誠実さ」のように単語を複数書くやり方もあるようですが、その書き方の場合その単語を選択した背景まで伝わらない可能性があるからです。
だから「成長しつつチームメンバーと楽しく仕事をすること」のような文で書くようにしました。
さらに、「他のチームメンバーに期待することは何か?」の質問を少し変更し「控えめな期待ではなく、その人に対して自分が考え得る最大限の期待を書く」ようにしました。
これは、実施時点ですでにお互いのことをそこそこ理解している状態だったため、各自が今後成長する方向性が明確になったりモチベーションが上がったりするなど、期待をすり合わせる以上の効果を狙えると判断したためです。
例えば、控えめな期待なら「チーム内で技術で一番頼れる存在となること」と書くところを最大限の期待を書くとなれば「社内でXXXの技術でトップレベルとなりカンファレンスでも発表する」と書いたりします。
まとめると、次の4つの質問に対して、一番重要な事を一文で書く方法で実施しました。
自分は何が得意なのか?
自分が大切に思う価値は何か?
チームメンバーは自分にどんな成果を期待していると思うか?
他のチームメンバーに期待することは何か?(最大限の期待を書く)
タイムテーブル
次のタイムテーブルで実施しました。
やり方と目的の説明:10分
記入タイム:25分
発表タイム:45分
全体の振り返り:5分
7人で実施して合計85分でした。
以降にタイムテーブルの項目ごとの実施内容の詳細を説明します。
やり方と目的の説明
ドラッカー風エクササイズのやり方をチームメンバーに説明しました。
ここでは、やり方だけでなく、やる目的も説明することが大切です。
これをやることで、お互いの強みや価値感や期待を理解できるため、信頼関係が強くなり、各時の成長モチベーションも上がりそうなので、やってみようということを話しました。
記入タイム
全員リモートワークだったため Miro というオンラインホワイトボードを用いて実施しました。
表形式の枠を作って、列名に質問内容を、各行に各自が質問の回答を書きました。
「他のチームメンバーに期待することは何か?」の質問には、その行のメンバーに対して他メンバーが記入する形式です。
具体的な記入例として、当時の筆者の回答と、メンバーの回答例を図に示します。
各質問ごとに、メンバーがどんな内容を書いたのか、例を紹介します。
1.自分は何が得意なのか?
責任をもって行動し、疑問点を整理し、しっかり課題を解消してタスクを完了させること
苦手なことでも目標に対して死ぬ気で頑張れること
2.自分が大切に思う価値は何か?
技術を吸収し続けて技術のスペシャリストであり続けること
自分の持つ知見を積極的に発信し、効率的に成長すること
3.チームメンバーは自分にどんな成果を期待していると思うか?
チームをよりよくするための提案や旗振り役
デザイン面で知見を出したり活躍すること
4.他のチームメンバーに期待することは何か?(最大限の期待)
チーム全体の成長をブーストさせるような存在
UXデザインのスキルを持つエンジニアになって、自身の成長を社内外に発信し続ける
発表タイム
メンバーごとに質問の回答を発表していきます。
発表者が自分のこと(先述の質問1~3)を発表した後に、他のメンバーがそのメンバーへの期待(質問4)を発表します。
発表内容に対して「どうしてその点を期待したのか」や「どうしてその点を大切に思っているのか」など、各自の期待や価値観の理由を掘り下げるための質問や、「そんな所が期待されてたとは」などの感想を皆から自由にしてもらいます。
7人で実施して45分でした(一人当たり6~7分)。
「他のチームメンバーに期待することは何か?」の質問は、人数が増えるほど記入する時間と発表する時間が長くなるため、その点にはご注意ください。
全体の振り返り
最後に参加者全員に、自分の価値観を言語化したり他のメンバーからの期待を知ることで、自分自身がどう感じたのか話してもらいました。
その時のある若手メンバーの言葉が印象的です。
「今までは、まだまだ設計もできないこんな自分がUXデザインがやりたいなんて言っていいんだろうかと思っていました。でも、ドラッカー風エクササイズを実施して、UXデザインのできる人材になることを先輩たちが期待してくれていることが分かり、自分の目指したい姿として掲げていいんだと思いました。」
他にもメンバーから実施して良かった旨の意見が多く挙がりました。
自分が思っていた期待値以上に期待されていると分かった
新しい技術のキャッチアップに強みがあることを他メンバーの期待で分かったため、今後も頑張ろうと思った
思い通りの期待値だったため、期待されている自分の強みをより発揮したい
自分の頑張りたい方向性に対してすごく評価してもらっていたことが分かり、とても嬉しかった
まとめ
ドラッカー風エクササイズは、自分が目指す方向性が分かったり、成長するためのモチベーションが上がったりなど、良い効果が多くあるため、ぜひ試すことをお勧めします。
連載「ハピネスチームビルディング」の次回の記事はこちら↓
前回の記事はこちら↓
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