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プロレス本に新風を吹き込んだ「燃えろ新日本プロレス」と「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」


 「新しいマーケットを作る」というサンマーク出版の黒川さんのnoteを拝読して、自分も似たような経験をしたのを思い出しました。

(記事が削除されたようなので、リンクも削除しました)

 2010年頃、私はメインの仕事を雑誌から書籍編集にシフトしようと考えて、企画を立てては売り込みをしていました。
 その中で「プロレス本」の企画が生まれて、出版社のOKは出たものの、意外なところからストップが掛かりました。編集者いわく「取次(日販、東販)から『プロレス本は暴露もの以外は売れない』と言われた」という理由でNGになったのです。

 当時、編集者に企画を出す時、必ず「類書の提示」を求められました。「こういう似た系統の本がこれだけ売れているから、この本もきっと売れますよ」という形でのプレゼンを求められるのです。
 そんなバカな、と呆れましたが、この「類書の提示」こそ、ヒット本の後追い企画がバンバン出る理由でしょう。ヒットの前例があれば、取次の評価も高くなる。

 つまりは、ヒット本のパクり企画は通っても「過去に例のない、画期的な本」の企画は通らない、ということになります。

 ただ、そんな閉塞感に満ちた状況だって、ヒット本が一つ出るとたちまち吹っ飛びます。
 2011年2月に刊行がスタートしたDVDマガジン「燃えろ!新日本プロレス」(集英社)が大ヒットしました。これが本当にありがたかった。従来の「プロレスものは暴露本しか売れない」は消え去り「昭和プロレスなら売れる」ということになりました。

 事実、なかなか通らなかったプロレス本の企画が「燃えろ!新日本プロレス」のヒットを機に出版が決まりました。
  足を向けて眠れないとはこのことです。


 その余勢を駆って、私は昭和プロレスのストーリーを「週刊大衆」に連載するようになり、連載をまとめたものが当時、売れていたコンビニムック本として出版されると、こちらも重版を重ねるヒットになりました。

 ただ、この時も「プロレス本の売れ筋は昭和プロレス」でした。猪木さんを筆頭に、長州・藤波、三銃士、四天王、ハンセン・ブロディ・ホーガンら人気外国人レスラー等々「地上波で人気だった往年のスターレスラー」たちが表紙を飾った書籍が次々と世に出ていきました。

 この流れを打ち破ったのが2014年の「棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか」(草思社)です。こちらも版を重ね、文庫化もされて、作家の西加奈子さんやオードリー若林正恭さんたちが絶賛してくれてヒット本となりました。
 担当編集者によれば、取次や大型書店の人は誰もが「棚橋本」の存在を知っていたそうです。



 これ以降、新日本プロレスを中心に現役レスラーたちの本が次々と出版されるようになります。
 あまり知られていなかったことだと思いますが、棚橋弘至選手は新日本プロレスのみならず、プロレス本のトレンドをも変えたのです。




 

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