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ポートレートじゃない part 2


初めてここへ来たのは確か写真家の赤城耕一さんと、担当編集者として初めてお会いした日ではなかったかと記憶している。連れて来てもらったのだと思う。ライカM5を下げた赤城さんがこの店でメーカーズマークをあおった。その様子がかっこよくて、僕のこの店でのメーカーズマーク率は高い。

水曜の夜、店の一番奥まったところにある太宰席が空いていた。傍らに林忠彦が撮った太宰治の写真が飾られている。
赤城さんに倣ってメーカーズマークを飲む僕の隣でありささんはと言うと、スーパードライだ。
すべての人間関係はコントラストで成り立っている。ありささんとのコントラストはとてもすっきりした喉越しで心地よい。

すごく聞きたいことが僕にはあった。ありささんが数日前まで出演していたJapan Mobility Show 2023の話だ。ありささんはスマホを取り出して、いろんな写真を見せてくれた。マツダのブースに立つありささんはでこ出しのヘアスタイルで大人っぽく、それもまたとても素敵だ。

ひと通りの話を聞いたあと、楽しくなって外へ出た。少しのあいだ写真を撮った。いい酔い醒ましになるから。
撮ったあとバーに入るのではない。
バーに入ったあと撮るのだ。
それが順序で、その順序が肝心だ。
そうすれば、酔いを醒ましてさよならを言える。

考えてみれば夕食の時間をとっくに過ぎている。食べる前にバーへ行ってしまった。相変わらずアホだ。これだから昔っから女性にモテない。モテるはずがない。いくらなんでも、おなかが空いているのではないか。水を向けるとありささんが言った。
「この先に手羽先のお店があるんですよ」
えっ。酔いが醒めたのにまた酔うの?笑

手羽先は手羽先だから好きなんだよ。

全般笑って、一瞬泣いたりして、そうやって時間が過ぎていく。
ありささんは、表現に関する思いをいっぱい話してくれた。彼女は本物だと、そう強く感じた。

そして僕は、写真なんて撮らなくてもいいんだけどやっぱり撮ってる。撮らなくていいんだけどやっぱり撮っちゃってるというところに、僕は僕で写真の意味や価値を見出している。

またきっと、撮りましょう。

こうやって、何かのついでに。

写ってくれる人 鎌田ありさ/Arisa Kamata

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