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ポートレートじゃない part 1

待ち合わせ場所は駅で言えば青山一丁目と赤坂見附のちょうど真ん中ぐらいだ。1Fに自動車メーカーのショールームがある。JAPAN MOBILITY SHOW 2023の出演を終えてまもないありささんと待ち合わせるにはふさわしい場所ではないかと思った。ここは246の標識の通りならそれぞれの駅まで750m、700mということだから、若干赤坂見附のほうが近い。見附へのルートはゆるやかな坂道で、青山一丁目ならフラットだ。坂道と言っても見附からくれば上り坂だがここから見附へ行くのであれば下りになる。だから今夜は見附へ行くことにした。

信号待ちの時間や歩いている最中にどんな会話をしたかというと、一つは僕の赤坂見附にまつわる恥ずかしいエピソード。
高校の頃、いつもは学校のある界隈でしか遊ばなかった恋人と初めてデートらしいデートをしたのが赤坂見附だったことを話した。当時はマニュアル雑誌に毒されていて、事前にコースを組み立てて一人でデートのリハーサルをしたことなんかを笑いながら告白した。
ありささんはそんなみっともない話をする僕に「でもそれはとっても素敵ですよ」というようなことを言って、やっぱり笑いながらだけど褒めてくれる。何十年も前の自分が、多少救われた気がした。

その時のデートコースで前半のメインに組んだのが一ツ木通りにある「しろたえ」という西洋菓子のお店だった。今は平日でも行列のできる人気店だが、あの頃はまだそんなには知られていなかったと思う。
この際だからありささんにも味わってもらおうかと思ったが、すでに営業時間は過ぎていた。あの頃の僕と比べて今の僕は、すべてが行き当たりばったりだ。

なので僕とありささんは、まだギムレットには早すぎるけれどメトロに乗って銀座へ移動することにした。
よくこういう写真はデートポトレだとか彼女感で撮ってるとか、ややネガティブな意味で言われたりするのだけれど、そのへんのことは写真を観る人の自由だからどうでもいいとして、「僕たち」ではなく「僕とありささん」と表現するのは、カメラマンとモデルは二人ではなくて「一人と、もう一人」だと、いつも思うからだ。

写真を撮るのに物理的な距離感を縮めなければ撮ることができないというのは、たしかにそういうタイプの写真があることはわかるし否定はしないけれど、果たして本当にそうなのだろうかとも思う。写真には距離感とか関係性が写るというが、今の僕はそういうことには興味がない。撮った写真がどう見えるかについても、実はあまり興味がないのだ。
僕が僕の写真に写ってくれる人に提示する距離感は、あくまで「一人と、もう一人」だ。けっして「ふたり」にはならないし、なる必要などない。

そんなこんなで、銀座に着いた。
ここからバーまで歩いて5分ほどだ。

写ってくれる人 鎌田ありさ/Arisa Kamata


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