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自分の感情くらい、自由にさせてよ ジョージ・ソーンダーズ『スパイダーヘッドからの逃走』

ジョージ・ソーンダーズの『スパイダーヘッドからの逃走』ついて。

ジョージ・ソーンダーズは、1958年生まれのアメリカ人作家です。ウクライナとロシアの関係そのままが描かれている!と評判の寓話『短くて恐ろしいフィルの時代』や、2017年にブッカー賞を受賞した『リンカーンとさまよえる霊魂たち』など、話題作を次々に発表している世界中が注目している作家です。

今回取り上げる『スパイダーヘッドからの逃走』は、今年(2022年)にnetflixで公開された『スパーダーヘッド』の原作です。映画もとても面白いのですが、原作も素晴らしい作品です。因みにこの短編は、『十二月の十日』という短編集に収められております。(他の短編も無茶苦茶面白いです!)

『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(河出書房新社)

感情を操作する薬が投与される治験を実施している特殊な刑務所“スパイダーヘッド”を舞台に、一人の囚人がこの実験に疑問を持ち始める。。。!というのが大まかな粗筋です。囚人たちは、目の前にいる人に恋心を抱いてしまう薬であったり、言語能力がアップする薬、最悪な気分になる薬、従順になる薬など様々な薬の実験モルモットにされております。

こういう話を読むと、感情を薬でコントロールできる時代なのか。。。と少し怖くなりますが、自分ではどうしようものない“感情”から自由になれる!と考えるのか、自分の“感情”は自分だけのものなので薬によってコントロールされない自由が大事!と考えるのか、難しいところですね。

音楽でも、“楽しい音楽”や、“悲しい音楽”、“泣ける音楽”など、どれくらい人間の“感情”に訴えられるか!という点で評価されることは少なくないように思います。
ただ多くの場合は、その音楽が使われている映画のシーンの雰囲気や、自分が初めてその音楽を聴いた時に持っていた感情などがセットになっていることが多いんじゃないかなーと考えています。
僕の場合は、バーバーの『弦楽のためのアダージョ』は、映画『プラトーン』とセットになっているので、「あぁー。(泣)トム・ベレンジャー嫌いやー。」と言ったような気分になりますし、フランクの『ピアノ五重奏曲』など、浪人4年目が決定した時によく聴いていたので、「芸大なんか嫌い!」という感情が今でも蘇ってきます。作曲家には申し訳ない気持ちでいっぱいですが。。。

絶対音楽(音楽は構成された音であって、感情や心象風景などの何かを表しているわけではない!という考え方のもとに書かれた音楽)こそ音楽である!という考え方の人から見ると、とんでもない音楽の聴き方かもしれませんが、溢れ出てくる感情は自分ではなかなかコントロールは難しいですね。
ただ、この音楽を聴いた時に現れる“感情”はとても繊細で大事なものだと思います。ですので、か弱い小動物を抱っこする時のように大切にしているのですが、皆さんはどうなんでしょう??

因みに僕にとって一番ハッピーかつ恥ずかしい気分にになれる曲はこれです。自作の“intermezzo”(間奏曲)という絶対音楽としてシステマティックに書いたピアノ曲なのですが、奥さんのために作曲して、これがきっかけで付き合い始めました。何度聴いても恥ずかしい気分になりながらニヤつきますねー。よければお聴きください。

II. Intermezzo for Piano solo (2008)
from 『piano suite』

Performed by Naruhiko Kawaguchi
作曲:高橋宏治
演奏:川口成彦

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