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筑波大ハンドボールコーチが同大学の蹴球部にコーチングを学びに行った話

はじめに

「筑波ハンド部の夏休みは長い」

今年の夏も筑波大学男子ハンドボール部は7月10日から24日まで長期期間のオフを設けた。去年はコロナの関係で春の期間に休まざるを得なかったため夏季のオフを取ることが出来なかった。

おそらくここまで長いオフを取るチームはあまりないのではないか。特にこのご時世は選手をフリーにして世の中に解き放つことは一定のリスクがある。通常の場合でもトレーニング不足によってコンディションが大幅に下がってしまう可能性がある。

しかし、秋季リーグへのエネルギーを蓄えるため、その期間に学生として、また一人の人間として将来について考えたり、ときには何気ない時間を過ごす目的もある。

この期間、例年なら選手たちは帰省し地元の友達と楽しい時間を過ごしたりするのだろうが、今年はそんな訳には行かない選手も多くいる。

私自身、地元がつくば市であるため、毎年この長期オフの使い道には困っていた。

学群時代の1,2,3年生では自主練習に明け暮れ肩を壊し、4年では卒業論文執筆のためデータ集めをせっせと行っていた。去年は言うまでもなく家に引きこもっていたわけだが、今年はなんとまあプロダクティブな2週間にすることが出来た。

修士課程のカリキュラムの中に「コーチングインターンシップ」というものがある。その趣旨はこうだ。夏休みのこの期間、規定で5日以上75分を1コマとして10コマを実習期間とし、コーチングの新しい視点を手に入れる。

私はその実習先として、筑波大学の蹴球部を選んだ。

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筑波大学の蹴球部は部員約200人、トップチームに始まり5つの所属がある大所帯。以前、蹴球部の小井土監督に蹴球部の運営について話を聞かせていただいたことがある。

200人近い部員全員にそれぞれ役割があり、チームが一つの集団となって理念や目標に向かって進んでいく姿が衝撃的だった。

ヨーロッパ発祥の球技系種目として、世界的にも、日本国内にも進んでいるサッカーから学ぶことは多い。きっとハンドボールのコーチングに役立つ経験が出来る。そう思い、約2週間の実習をお願いした。

ここから先のメインはトップチームの話になる。そのほかトップサブ、B1,B2のトレーニングを見学した。

掲げる目標とそれに見合った取り組み

「意識が高い」「意識が低い」こんな言葉がある。

「チームの意識が低い」ことはさほど大きな問題だとは思っていない。それが大きな問題になるとすれば、「勝とうとしている(目標が高い)チームなのに、意識が低い」ことである。

筑波ハンド部監督の藤本先生曰く、いつ何時も、競技スポーツ「やる」「やらない」を選択することが出来て、気楽にただ純粋にスポーツを楽しみたいと思うことはそれ自体素晴らしいこと。咎められることは一切ないが、残念ながら勝とうとしているチームにその選手の居場所はない。

蹴球部に話を戻すと、必ずと言って良いほどトレーニングの30分前には学年関係なく選手たちがピッチに集まり始め、コートサイドで各々が事前のトレーニングを行っている。

大会後に1週間の休みが設けられたときも、トレーニングが再開される1、2日前にはピッチに姿を見せてフィジカルコンディショニングを行っている。

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勝つことを目標としているチームにとって当然かもしれない。ただ、それだけのことを当たり前のようにやり遂げるチームがいくつあるだろうか。

黙々と準備する姿勢は大学生のチームとしては基準が高いと思わざるを得なかった。

どのチームもインカレ優勝掲げる、ある程度選手が揃うチームはそんな可能性を周囲も自分たちも感じながらプレーするから。ただ掲げる目標に見合った自分への、仲間への、チームへの向き合い方が出来ているチームってどれくらいあるのか。

筑波のハンドボール部はどうだろうか、もし選手の間に「意識の差」があるとするならば、コーチとして既にプロフェッショナルな意識を持つ選手と連携しながらアクションを起こしていかなければいけないと思う。

スタンダードを高めるのは選手であり、コーチ。でも、1年で高まるほど簡単なものでもないというのが正直なところ。文化として醸成していくためには長い年月をかけて選手の意識に働きかける必要があると感じた。

コーチ陣のプロフェッショナル意識

蹴球部の監督である小井土先生はトレーニングプランを事前に作成し、トレーニング前に3,4人のアシスタントコーチ、学生トレーナー、キャプテン、コートキャプテン(?)とミーティングを行う。

この日のトレーニングをどんな目的で行うのか、目的に沿ったメニューの意図はどんなところにあるか共有することでトレーニングの質をより一層高める。

ヘッドコーチが一人でガミガミ言っても効果はあまりなく、コーチの意図を理解したコーチや選手がいることで、プレー中のコーチングが可能になる。

僕自身の失敗談を交えるとすれば、前日に数時間かけて考えたメニューを意図を理解しているのは自分だけ。選手が全く思った通りに動いてくれずに、指摘すべきところ、タイミングがどんどん過ぎていく。

選手たちのフォロワーシップがあるとトレーニングの質はぐんと上がる。そしてコーチはあまりすることがなくなっていくのである。

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小井土先生のトレーニングプランを一眼見て、プロの仕事だと感じた。

テーマをもとに作成されるプランは序盤から終盤にかけて繋がりがある。漫画でいう伏線回収のそれ。その伏線に気付くことが出来れば、その後複雑化していくトレーニングをより簡単に攻略していくためのヒントになるが、序盤で躓けば、終盤までなんのトレーニングをしているかわけがわからなくなる。

トレーニング自体は通常トレーニングで90分以内。その短時間にどれだけ選手を滞りなく動かし続け、頭を働かせ続けられるか。選手たちもウォーミングアップから100%でファイトし続ける。そんなトレーニングを目の当たりにして、コーチとして背筋が伸びる思いだった。

サッカーのゲームは45分の前後半で合計90分。しかし、実際にボールを蹴ったり追いかけたりしている時間は60分もないそうだ。ならばトレーニングの時間もそれくらい短時間に凝縮すべきだろう、という考え方があるらしい。

ハンドボールならどうだろうか。

しかい短時間でのトレーニングが良いと、わかっていても体現するためには詳細な戦術理解がないと必ず時間はオーバーする。

ルーティンでやってるトレーニングに意図はあるか?

ハンドボールでのGKトレーニング(ウォーミングアップ)でよく見る、コートプレーヤーが一列に並んでシュートをコースに投げていくあれ。

ハンドボーラーならなに一つ疑うことをせず、ほぼ毎日繰り返している内容だと思う。どんな意図がそこにあるのだろうか。

蹴球部でのGKトレーニングでは、わかっているコースに飛んでくるボールをセーブする練習はGKだけで行っていた。その空いた時間にコートプレーヤーはパス回しのトレーニングなど有意義に時間を使えていた。

ハンドボールではコートプレーヤーを交えてこんなGKトレーニングをしていると。彼らに伝えてみた。すると、

「それ意味ありますか?せっかくコートプレーヤーがシュート打つなら本気でうちに来るのを止めたいですよね。僕たちはそれまでの時間でアップは終わらせて合流してるんで。」

当たり前だと思っていたことがぶち壊れた瞬間だった。

もちろん、ハンドボールとサッカーは違うし、習慣化されてるトレーニングをいきなり変えることは選手にとって混乱を生むかもしれない。しかし、その場に止まっていることよりも新しいことに挑戦すべきだとそのとき思った。

今はGKコーチと、GK3人を相談しながら、トレーニングが始まってから35分後にシュートが取れるように自分たちで時間を使うように要望してみた。

コースに強いボールを投げるとGKのスロー技術も高まって一石二鳥だ。

加えて、今まで通りコートプレーヤーと一緒に行うGKトレーニングも交えながら本人たちにとって一番良い方法を模索していくつもりだ。

トレーニングの前半を短くすると当然、出来ることが増える。

筑波大のハンドボール部の普段のトレーニング案はこんな感じ。

5分フリー

アップゲーム(15分)

対人パス、対人スキル(10分)

GKトレーニング、シュートトレーニング(20分)

個人技術戦術、グループ戦術(20〜25分)

実践的なトレーニング(ミニゲーム含む)(20〜25分) 
トータル110分~120分

みてもらうとわかるが戦術的な練習に入るまでおよそ50分かかっている。そこから戦術練習、ゲームを入れていると全体のトレーニング時間は2時間を超えてくる。

トレーニングセッション毎の目的を意識すればするほど、その日に行うトレーニングの時間も、内容の内訳や強度なんかも変えていかなければならないと感じる。

それらを変えずにトレーニングしていると、何ヶ月トレーニングしてもチームは変化していかない。勝てない相手にはずっと勝てないチームが出来上がる。

一度うまく行ったトレーニングの内容や、形式を模して行いたくなる気持ちは重々わかるが、同じトレーニングを思考停止で行い続けるチームの弱点はそんなところにあるのではないだろうか。

さいごに

とは言いつつ、蹴球部にインターンシップをしにいかなければ私自身その辺のことに気が付けてなかったかもしれない。

当たり前だと思っていたことを疑うことが出来て、新しいことにチャレンジして、そんなトライアンドエラーを繰り返しながら少しでも良いコーチングができるようになりたいと思った今年の夏オフ期間だった。

選手とのコミュニケーションを密に取りながら、秋リーグ、そしてインカレに向けて成長して行けたらと思う。

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筑波大学蹴球部への感謝の気持ち

お世話になった筑波大学蹴球部、小井土先生はじめ選手の皆さん改めてありがとうございました。この秋のリーグ戦もチームで戦い抜いて、チーム筑波の素晴らしい取り組みを全国に知らしめましょう!


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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本日もお疲れ様でした!

筑波大男子ハンドボール部 森永 浩壽


2022年の今、フルタイムで働きながら日本リーグ参入を目指すハンドボールチーム"富山ドリームス"の選手として活動しています。ここでのサポートは自身の競技力の向上(主に食費です...)と、富山県内の地域との交流に使わせていただきます。