見出し画像

僕と彼の男二人暮らし~家事・家計編~

仕事を終えて夕食の材料を買うために早歩きでスーパーへ向かっている途中、アイフォンを右手にワードを変えては検索を何度も繰り返していた。

「蒸し器 ない」 「蒸し器 代用」 「フライパン 蒸せる?」

思いつく限りの組み合わせで試してみたが、どの検索結果もイマイチしっくりこない。

家にココットのような耐熱皿は無かった気がするし、鍋の中にザルを逆さ向きに入れる方法なんてサイズ的に大丈夫だろうか。
そもそも家にあるザルは耐熱なのか? と悩む。(ステンレス製なのでそうだろうが)

それでも、どうしても今夜は棒棒鶏が食べたい。
そして、ちゃんと蒸し鶏から作りたい。
今までは蒸し器がなかったので、蒸し鶏というよりかは茹で鶏だったのだが、今日はちゃんと作りたい。

ということで、スーパーの前に100均に寄ることに決めた。
そこで蒸し皿を買うのが一番確実である。
今のままだと、ハシゴするぶん20分は晩飯が遅くなってしまいそうなので早歩きから小走りへと歩調を速めて店へと向かう。
大丈夫、体力には自信がある。

真冬にも関わらずじんわりと汗をかいてしまったが、その甲斐あってか予定時刻通りに晩飯支度ができそうだ。

家に着いたらまず乾燥機に積まれた食器類を棚に戻し、朝食分の食器を洗い終えてから調理にとりかかる。
使った調理器具は片づけながら、パートナーの帰宅時間に間に合わせて夕食の手配が出来た時には我ながら、「俺って要領良いのかも」なんて自分に酔いしれたりもする。

とは言え、残念ながら僕の作る料理は絶妙に美味しくない。(不味い訳では無い筈)
彼も「美味しい」とも「美味しくない」とも言わず、渋い顔で箸を口に運んでることがほとんどだ。

2年近く、ほぼ毎日料理を続けてこの程度だというのはそもそものセンスの問題な気もするが、それまでは味付けといえば塩コショウ一択だった頃の自分を思い返すと、ちゃんと日進月歩で成長はしてるのだろう。
料理をしている間は無心になれるので、良い気分転換にもなっている。

彼も「おいしい」とは言わないが、「作ってくれてありがとう」とはちゃんと言ってくる。
「ご飯食べたあと、そうやってデブデブしくダラダラしてるから太るんだぞ」と聞いたことのない形容詞で軽口を叩いてくることもあるが食器洗いをしてくれるので水に流しておこう。

週末は二人で部屋掃除をするのが暗黙の了解的なルールとしてある。
自堕落な一人暮らしが長く、衛生観念を失いかけていた僕と違って、ちょっと潔癖気味の彼は毎週カーペットをひっぺ返してまで掃除をしないと気が済まない。

正直面倒くさいのだが、これが誰かと暮らすということなのだろう。と思って僕も黙ってトイレ掃除や風呂掃除に勤しんでいる。
潔癖が故に水回りは触れたくないらしいので、おのずとその辺はこちら担当となってしまった。

こんな感じで、同棲を始めてからなんとなく二人の生活スタイルが形成されていった。
役割が明文化されている訳では無いので、責任を押し付けあうこともなく、今のところは互いの善意と感謝と思いやりでそれなりに上手く毎日が回っている。

家賃も生活費も綺麗にきっちり折半スタイルで、二人ともその為にわざわざ2枚目の楽天カードを作った。
そうして月に一度精算タイムがやってきて、自分達の関係は完璧に50:50なものであると思い出させてくれる。

こうして日常がルーティーン化されていき、それが生きる上でのリズムとしてメリハリを与えてくれている今の暮らしは割と心地よい。

その分、これから変容していく二人のライフスタイルを僕は受け入れられるのだろうか、と不安にも思うのだ。

どちらかが大黒柱とかいう訳でもなく、別れるのに紙切れ1枚すらいらない関係の僕らは、死ぬまで自分自身の経済力で生き抜かないといけないという前提を忘れることはない。

そんな中、個人がよりよい暮らしを求めていく上で仕事を変えたり、役職がついて忙しくなったり、職場が変わったりすることもあるだろう。

仕事に限らずとも相手が何かにチャレンジしたいと思った時、そしてそれが今の生活から大きく離れていることである時のことを想像する。
僕はそれをちゃんと応援してあげられるのだろうか。
「家庭」に責任がなく、思いやりだけで維持しているこの治安を、そうして二人のライフスタイルが変わっても維持できるのかと。

それでもやっぱり、変えていくしかないのだろう。
人は生きているうちは変わっていく生き物なのだから。
そうして、新しい日常のリズムをまた作り上げていく強さを持たないといけないのだ。

もし僕が仕事を変えて、晩御飯を作ることが出来なくなったら、また別の出来ることを見つければ良いのである。
外食続きの日々になってしまったとしても、王将でメニュー表の棒棒鶏を見つけては、「あの頃は仕事終わりで100均に寄れるくらい、ぬるっとした毎日を過ごしてたな」とか、「美味しくはなかったけど毎日頑張って作ってくれてたな」って、二人の話のネタに出来たらいい。

そうして、ちゃんと「今」を更新し続けられる二人でいられたらいい。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?