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作家になる方法

何でもやってみよう→出版しました

フリーランス生活も五年目、毎月転職活動みたいな不安定さにもなんとなく慣れてしまったそんな折に、本の出版をしてみました。案外できちゃうもんですね。
「本を出したい」と考えている人の礎になればと思って、ここに小さなトライの記録を残しておくことにします。

本を出版する方法

作家になるには、最低限「本の書き手」であることが必要です。必要十分条件はかなり意見が別れると思いますが、少なくとも「本を書かない作家」は存在しないので。
では、本の書き手になるためのルートには、どのようなものがあるのでしょうか。

・出版社への原稿持ち込みや、新人文学賞を受賞しての作家デビュー
・成功ノウハウ本や自分語り系体験記
・SNSや同人誌、投稿サイトなどで話題になって商業デビュー

ルートはまだまだありそうですが……「書籍の形状になって商業流通のルートに乗り、書き手が知らない人、書き手を知らない人が買える状態になること」を「本を出す」、その本を書いた人を「本の書き手」の定義としてみます。

「本の書き手」ってどういうひと?

人間が言葉を得て爆発的に進化した歴史から見るに、「言葉で伝達する」という行為はヒトという種族にとって、原始レベルの快感なのかもしれません。そのくらい、人間は頭の中にある自分の考えを言語化し、アウトプットすることに根源的な欲を持っているように思います。

商業出版の専業作家

身も蓋もなく言うと「大手版元に乞われて文章を書き、原稿料と印税をもらう専業作家」みたいなイメージでしょうか。おそらく、多くの作家志望者が夢見る「白馬の王子様ルート」。

自費出版ビジネスに乗る

ぜ~んぶ書き手の持ち出しで出版するアレ。かつて多くの小金持ちを餌食にしたアレです。
書店に並ぶ体裁の本であれば、1000部刷って300万円くらいとかでしたっけ?もう少しリーズナブルなプランでは、小さな絵本を80万円くらいでつくるサービスもあったはずです。すごく売れれば重版がかかるかもしれません(売れません)

同人誌、ZINE

ただただ自分の好きにつくったものを自分の思う通りの場所で配布する、「同好の士にむけた本」が同人誌。同人誌と聞くと、どうしても「二次創作、パロディ、エロ」みたいな印象が強くなる(実際たくさんお金が動くので目立つ)のですが、書籍として流通ルートに乗せ、書店で販売するということをそもそも想定していない個人的な印刷物は、すべて同人誌となります。
定義的には同じものだけれど、もう少しアートやクリエイティブ寄りなのがZINE(ジン)。流通ルートに乗せるための書籍フォーマットを表現上のノイズとして潔くオミットする場合もあって、あれはあれで興味深い分野。

オンデマンド出版

注文が入ったら印刷するタイプの書籍。自費出版よりずっと安く(金銭負担ゼロも可能)、全国の書店への流通も可能。作成の負担は同人誌より軽いくらい。

オンデマンド出版のメリットとデメリット

結論から言うと、私はオンデマンド出版を選びました。費用と流通性のメリットが大きく、今回出版した書籍の方向性にも合っていたためです。しかし、もちろんメリットとデメリットがあるので、すべてのケースにおいて最適というわけでもありません。

メリット1.在庫リスクが無く、費用負担がほとんどゼロである

おそらく、最大のメリット。オンデマンド出版は注文が入ってから印刷・製本するので、買い取り契約も在庫も発生しません。商業出版の書籍と同じルートで販売が可能なのに、費用リスクはほぼゼロです。

メリット2.絶版にならない

売れなくて在庫が残りまくった本は絶版(もう買えない状態)になります。しかし、オンデマンドであれば、(サービスが続く限り)どんなに売れなくても「すぐ買える本」という状態を続けられるのです。「いつか必ず、知らない誰かが求める本」を売り続けることができるので、ニッチな需要やロングテールに応えられるでしょう。

メリット3.全工程を「とりあえず自分でやれる」ようになること

これは、やってみて思ったメリットです。「一通り自分でできる」はフリーランスやクリエイターの世界で、結構な強みになります。「こういうことなら出来るんですけど……」「ここ以外はよくわかんないから……」なーんて言ってるうちは、良い仕事なんか回ってきません

メリット4.ぶっちゃけカンタン

実際にやることは、同人誌をつくるのと変わりません。むしろ、印刷形態の自由度が低いぶん、同人誌より原稿に集中できるんじゃないかな。そしてオンデマは前述のとおり在庫の発生しない出版形態なので、印刷費用がかからない……正直、同人誌が作れる人にとってはラクに感じるかもしれません。

メリット5.Amazonや全国の書店で売れる

全国の書店に流通させるための書籍コードを付与できるので、全国の書店で取り寄せ注文が可能になります。AmazonではISBNコードがなくても販売可能で、その場合はマジでゼロ円出版も可能です。

デメリット1.書籍単価が上がる

1冊あたりの印刷費用は、商業出版のオフセット印刷(何万部も刷るようなもの)と比べると高額です。全体的に動くお金は本当に小さいのだけれど、大手版元の再販制度に頼らない構造にすると、書籍の価格はどうしても上がってしまいます(一冊あたりの自分の取り分は、ちょっとびっくりするくらい小さい)。

デメリット2.ペーパーバックであること

いまのところ、個人が利用できるオンデマンド出版でカバーや帯をつけるサービスはありません(多分)。
書店に並ぶ人気作の、立派な体裁に慣れたひとからは見劣りするかもしれません。何も事情を知らない個人の読者は、「高いのに安っぽい」という印象を受ける可能性もあります。

デメリット3.ぜんぶ自分でやらなきゃいけない

メリットと裏表ではあるのだけれど。手書きやワープロ原稿を誰かにポーイと投げれば本が完成して、しかもあちこちで広告を打ったり営業までしてもらえるタイプのサービスではありません。なにより、専業の第三者に編集・校正をしてもらうことによる質の向上も見込めません……白馬の王子様をアテにせず、自分の力で生きる覚悟みたいなものは必要。

デメリット4.本屋に置かれない

オンデマンドは注文がきてから印刷されます。営業・取次さんのマンパワーはありません。なので、「自分の本が本屋に並んだ!面陳平積み!」みたいな光景はお目にかかれません。

minneやiichiみたいなものだ

これは、個人作家のハンドメイド品を販売するプラットフォーム「ミンネ」や「イイチ」に近いものかもしれません。それでも出した本はAmazonや全国の書店で購入できるし、このようにシミルボンで紹介できます。

私は作家になったわけではありません(自分で書いてないしね)。どちらかといえば本作り、しかもエディトリアルデザインの経験が宝になりました。

冒頭に書いたとおり、これは小さなトライの記録。誰かの役に立てば幸甚です。

次回は、「具体的に」本を出すまでにやったこと。文章を書く「だけ」で食っていきたい人にはキツい話になってしまうかもしれませんが、知っておいて損はないと思います。

なお、5月6日の文学フリマ東京では、書籍コードなし、カバーつきの特装版(正直、Amazon版よりも豪華です……)を、Amazon版より安価で頒布します。ぜひ当日は東京流通センターに来て下さい。



投稿日 2019.04.04
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です

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