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【愛情あふれる設定資料集3冊】孤独なオタクを救う本

オタクは孤独だ。

オタクっていうのは、根が自分勝手なコミュ障ばかりだ。だからたとえ数が集まろうと、わかり合えることは少ない。
人と繋がることが目的のオタクもいれば、作品以外に一切興味がないオタクもいる。自己承認のために作品を利用するオタクもいるし、そのような行為を浅ましいものとして厳しく嫌うオタクもいる。だから狭い範囲で棲み分けしたりケンカしたりと、蠱毒とか腸内フローラみたいな環境で生きている。

でも、どんなオタクも、好きな作品の前では、孤独を忘れて世界に没入できる。こんな自分でも生きていたいと思わせてくれた、そういう作品に命を救われたオタクは少なくないだろう。

公式資料集は、作り手と受け手を作品への愛で繋げてくれる

私も根が自分勝手なコミュ障のオタクなので、公式からの供給で(文字通り)生きているのだけれど、コンテンツにはいつか終わりが来る。あるいは、作品じたいは続いていても、構成要素が変わって、私のなかで「終わってしまった物語」もある。そんな私にとっての救いは、公式の設定資料集だ。

公式設定資料集は、作り手と受け手を、作品への愛で繋げるものだ。
私には、時々読み返しては元気をもらう本が三冊ある。

物語完結から2年後に出た公式資料集

NHK教育(ETV)に、『ムジカ・ピッコリーノ』という音楽番組がある。

世界が崩壊する日、人々は空飛ぶオルゴールに音楽を託した。1000年後、歌を忘れたオルゴール「モンストロ」を治療するために、音楽のエキスパート「ムジカ・ドクター」が世界を駆けている。

という物語だ。スチームパンクな世界観のなかで、ジャンルを問わない名曲たちが紹介される10分番組。じわじわ人気が出て現在シーズン7まで作られているが、私は「ハマケン」こと浜野謙太が主役を張っていたシーズン1、2が一番好きだ。シーズン3からの方向転換についていけず、ひっそりと悲しんでいた人は少なからずいて、そんなオタクを、この本が救ってくれた。

本書は、シーズン2の完結から2年後に発売されたビジュアルブックだ。
おそらく放送当時は、CDやDVD化、あるいは書籍発売などの需要を見込んでいなかったのだと思う。権利関係よりも、「良い音楽」を届けるほうを優先してくれていたのだろう。変態じみた選曲センスもステークホルダーの少なさを感じさせる

権利関係に決着がついたのか、それともファンの期待に応えて無理を通してくれたのか? 完結後2年も経ってから発売されたこの本には、公式資料集定番のキャストインタビューもスタッフコメントもない。どう見ても「残っている情報をどうにかかき集めて本にまとめた」ものなのだけれど、絶対出す予定のなかったものを、こんなに時間が経ってからでも本にまとめてくれたという事実だけで嬉しい。製作者のなかにこのシーズンを愛している人がいるのだと思えた。

またいつか、ハマケン扮するドットーレと、ピッコリーノ号の皆に会いたい。

内容を詰めすぎてめちゃくちゃに完成が遅れた鈍器

上記とは別に、コンテンツの公開前からもうモリッモリに盛り込まれた公式資料集を準備していた作品がある。

映画は、公開された瞬間に供給が終わるコンテンツだ。儚くて、取り返しがつかない。

だから、公式設定資料集は映画公開後なるべく早く出すものなのだと思う。何なら公開と同時に発売していても良いものだ。
だというのに、本書は内容の増築と、それにともなう発売延期を繰り返した。もとは2016年8月10日だった予定が遅れに遅れ、結局発売されたのは12月30日。我が家にも年の瀬に560ページ・3.6kgの漬物石が届いた。

メイキングやインタビューを中心に、あの「ゴジラ」がどう作られていったのかが詰め込まれている。ものを創る人間であれば、必ず通るであろう「つくることの怖さ」に向き合いながら、15億円と300人以上を巻き込んで名作を仕上げていった凄みに圧倒される。

本書は、何なら読まなくてもいい。目に見えるとことに置いてあるだけで良いのだ。その存在感だけで、「こんなに凄い作品があるんだ、私だってまだやれる」なんていう、ちょっと青臭い元気が湧いてくる。

ターゲットの需要をしっかり掴んで繰り出された凶器

日曜の朝、家事をする時間かせぎのために、子供たちをテレビの前に固定しておく番組群がある。いわゆる「ニチアサ」だ。

そんな「ニチアサ」は、大人のオタクもテレビの前に固定している。とくに昨年放送されていた『快盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』の固定力は強かった。
ルパンと警察というだけあって、ストーリーの主軸は「お宝いただき!」「待てルパ~ン!」なのだけれど、もちろん戦隊ヒーローなので、異形のモンスターが巨大化してロボットで倒すテンプレートも踏襲される。そこで、ふたつのヒーローの敵対と共闘がドラスティックに描かれた。そしてルパン側にも警察側にも違った魅力を持つ「二人のレッド」が登場し、たくさんの大きなお友だちが、この「ルパパトのダブルレッド」にやられた。

幼児番組は、劇中に登場する玩具の売上で評価される。その点において、「ルパパト」の評判は芳しくなかったらしい。しかし、作品にハマった大人のオタクたちは何かしらにお金を遣いたくてうずうずしており、どうやらターゲットの需要をしっかり掴んだらしい誰かが、たくさんのキャラクタームックを出してくれた。

それらの中でも素晴らしかったのが、これだ。

見ての通り、全体のコンセプトカラーも「赤」の、とても美しい本だ。そして何より写真が素晴らしい。どのくらい素晴らしいかと言うと、「以下の3枚がカラー掲載から外れたくらい」で通じるだろうか。

ヒーローは、役者とスーツアクターの二人で完成するキャラクターだ。だから「ダブルレッド」は4人の関係性で成り立っている。4人が考えるそれぞれのダブルレッド論から、「レッドのヒーロー」がいかに特別な存在であるかが見えてくる。

ヒーローは、大勢の人に支えられてこそヒーローたり得る。ヒーローは、支える仕事と支えられる仕事で成立する。

大人の社会は、尊敬と信頼で回っている。

終わらない物語はない

物語が終わる頃に発売される設定資料集には、作り手の愛が込められている。

自分がこんなにも好きになれた作品を作ったひとたちが、その作品をこんなにも愛していたのだと知ることができる。

終わらないでほしいとは思っていない。ただ寂しいのだ。
その寂しさに「そうだね、私もそう思うよ」と返してもらえるような気がするから、私は公式設定資料集が大好きなのだ。


投稿日 2019.06.22
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です


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