見出し画像

本を作る方法

書いてつくって、出せば本だ!

前回までのコラムの通り、Amazonのオンデマンドサービスを利用して、祖父の自伝を出版しました。
大手版元に頼らなくても、一人でここまでできるよ、という事例として、出版までの具体的な道のりを記録していこうと思います。

祖父の自伝『昭和十二年十一月、東京』こちらで販売中です。

本を作る前に決めること

正直な話、本の内容やページ数は後からいくらでも調整できます。なので最初に「売るための体裁とガワ」を決めましょう。

ISBNコード、どうする?

書店で流通している本には、「ISBNコード」というものがあります。裏表紙の上のほうにある、あの2段のバーコード。そのうち、97から始まるものが、ISBN(International Standard Book Number=国際標準図書番号)です。
書籍を特定するための世界共通のユニークナンバーで、日本では、これをそのまま書籍コードとして使用しています。
これは付けても付けなくてもいいのですが、つけておけば商業の流通ルートで書籍の特定が可能になります。つまり、

・全国の書店でも買える
・国立国会図書館に記録が残る
・Amazonの「なか見!検索」(立ち読み機能)が使える

などのメリットを受けられます。
ISBNコードの取得は日本図書コード管理センターで出来るのですが、費用はなんと「コード1つあたり370円~8000円(いくつ取得するかによって単価は変わる)」。思ってたより安くない?これで世界共通の書籍ナンバーが手に入ってしまうんですよ。

ただし、申請に際して出版者の登録情報は完全オープンになってしまいます。個人事業主の場合は、名前と住所が全世界に公開されてしまうのです。それはちょっと避けたいし、そのために個人事業を法人化するほど事業の目処は立っていない……なので私は、業者で付与してもらうことにしました。

業者を決める

Amazon内に業者のリストがあるので、ここで検索して選定します。

業者によって、利用できる形状や紙選び、あるいはオプションサービスに違いがあります。印刷物のサイズ(=入稿データサイズ指定)も微妙に違うので、自分のやりたい形状に近い業者を探すといいでしょう。

私は今後テクノロジーよりの路線で行きたいので、IT系メディアで馴染み深いインプレス社のサービス(Nextpublishing)を利用しました。
個人向のオンデマンド出版サポートを推す業者が、デザインエッグのMyISBN。アート・デザイン・ノベル系に特化している感じでしょうか?とっつきやすそう。

原稿を書こう

というわけで、こちら完成した原稿になりますーというわけにはいきません。大脳新皮質から文章を生み出す工程だけは誰にも手伝えないので、頑張って……。
当然ですが、校正も校閲も編集も自分で手配しなければなりません。原稿をプロの目で見てもらえれば、クオリティは段違いになるでしょう。しかしこれは、従来型の商業出版フローでしか得られない贅沢な工程です。
私が文章を書くときは、初稿はポメラで、最後はWordから文章校正ソフトを通して全体の確認をしています。安いソフトではないけれど、人力の手間を考えたら全然高くありません。効率は金で買えるんです。

~~~ここから、同人誌を作り慣れている人にはつまらない話~~~

本の形にしよう

原稿完成おめでとう!!これで本が出るよー!……というわけにもいきません。

作品の完成形は、書籍。完成した書籍には、様々な専門知識や特殊技能が盛り込まれています。なんと、それらの道具やノウハウへのアクセスはかなり開かれており、ある程度までは誰でも「それらしい」ことができてしまいます。

本文の入稿データをつくろう

原稿を本として印刷可能な状態にするために必要な工程がエディトリアルデザインです。「書いたものを大きさ合わせてPDFに変換」みたいな、単純な事務処理ではありません。

エディトリアルデザインで使うのは、プロのクリエイター御用達のツールInDesign。「イラレ」ことIllustratorや、「フォトショ」ことPhotoshopでお馴染みの、Adobe製品です。ぶっちゃけて言えば、「文章が打てればいいや」くらいのつもりで買った安いパソコンではまともに動いてくれません。

もちろん、Wordでも同じようなことはできます。
しかし、出来上がりの「それっぽさ」も、「それっぽく」するための作業効率も段違いなのです。作業効率の悪さはアウトプットまでの工数を増やし、表現の質を下げます。仕事にするつもりだったら、道具は良いものを買うべきです。

InDesignを使った入稿データ作成時にとても役立ったのが、以下の二冊。

とくに『マネするだけでエディトリアルデザインが上手くなるはじめてのレイアウト』が凄い。最前線にいるエディトリアルデザイナーがどのように本の体裁を決めていけばいいのかを理詰めで解説してくれるので、本当に真似しているだけでそれっぽい版面が完成してしまいます。
本の体裁も、「小説 余白 設定」とかで検索すれば、無料である程度の調べはつくでしょう。しかし、タダで得られる情報の質は、知識と理屈が体系的にまとめられた書籍にはかないませんよ。
ちなみに、鈍器作家で有名な京極夏彦氏は、「読み味」を確かなものにするために、原稿執筆の段階でInDesignを使っているんですって。変態的だけど、リンク先を読めば、たしかに理には叶っているんだよね…でも変態だと思う……。
表紙をつくろう
自作でも外注でもいいけれど。表紙は本の「顔」。ものすごく重要です。
外注するなら指示書を作成、納期を明記したうえで絵師さんにコンタクトし、見積もりをとります。私はこんな感じにしました(抜粋)

今回の表紙は、以前腐女子解説コラムでキャッチ絵を描いていただいたうりかわさんにお願いしたところ、ここまで仕上げてくれました。考えていたものピッタリ!

念のため釘を差しておきますが、この本を読んであなたの好きに描いてくださいは下の下策です。
そしてあなたの宣伝になるので無償で描いてくださいは言語道断ですからね。
ヤバイ依頼人の情報は光の早さで同業者に共有されます。

~~~同人誌を作り慣れている人にはつまらない話ここまで~~~

入稿、チェック、再入稿

入稿して、見本誌を注文。見本がとどいたら、赤ペン片手にできあがりを確認します。とくに、誤字はここで見つかるので、できればダブルチェックを人に頼みたいところ。
けれど、伝説の誤植「インド人を右に」や水嶋ヒロのデビュー作の例を見るに、どれだけ頑張っても人間であるかぎりミスは起きるのだろうとも思います……

そして、チェックしすぎて頭がパーンってなりつつ修正した原稿を再入稿し、書籍販売手続き(業者によって手順が異なる)、それで完成です!

……正直、私もやらかしてます!!!!!

お疲れ様でした!

「誰にでもできる」とは言ったものの、手ぶらから始めるにはソコソコ投資が必要なんだな……と思い直しました。パソコン、執筆ツール、デザインツールなどなど……単純に道具が多いですね。

もし「この一作のためにそこまでモノに投資できない」と迷う方がいれば、代行で請け負うので声かけてください(宣伝)

ちなみに、爺ちゃんの自伝こと『昭和十二年十一月、東京』はこちらで販売中。(「なか見!検索」でけっこう読めちゃうので、立ち読みだけでもどうぞ)


投稿日 2019.04.11
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です


この記事が参加している募集

文学フリマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?