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住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案


 もう20年以上前ですが、不動産屋さんで働いていた当時は60歳が定年で、年金は65歳からになっていました。アパート・戸建ての賃貸を希望する高齢者は日に1人位はいましたが、家賃の保証会社も出始め、2年間一括払いの火災保険加入も必須でしたが、殆どの方が窓口で断られていました。たとえ身内が同行しても高齢者の単身入居となると、窓口で家主さんから受け入れて貰えない理由を不動産屋から説明されます。その理由は、火事・滞納・孤独死の心配がある事以外に、保証人を付けても暫くすると何の対応もしなくなる人が多い事や孤独死した時には家主と不動産屋で対応することもあった事からでした。
 2000年前後から日本はバブル景気がはじけ、リーマンショックがあり、東日本大震災と本当に不況の真っただ中で大変な時代でした。滞納したうえに部屋に荷物や駐車場に車を置いて夜逃げする人もいました。外国人の学生は地震で帰国してしまう人も。残った家財道具の処分も法律的に難しいらしく途方に暮れそのままにしている家主さんもいました。また、自宅にいる時間が長い高齢者も多く音には敏感で、中には天井をつつく様な過激な行動をする方もいて近隣とのトラブルもありました。そうすると隣家の住人が転居してしまう事もありました。特に夜勤の方や新聞配達業の方等は朝方帰宅する人もいて、お互いの顔や事情を知りませんので感情面から問題が大きくなってしまうのです。
 そう言った事を経験すると、斡旋する不動産屋も無理にリスクの高い人を条件の良い物件に案内する事もなくなります。さらに、どの様な家主さんでもリスクの高い方をわざわざ入居させてトラブルを引き受ける方はいません。一方で良い貸主と物件を確保する事が不動産業にとっては命綱でもありますから、広告費分を確実に回収するには家主との関係は一番重要になってきます。


1・法案内容

 203回国会に、閣法で所管省庁は国土交通省と厚労省から「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下、住宅セーフティネット法)が提出され、参議院先議で審議中です。


提出理由
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進及びその居住の安定の確保を一層図るため、居住安定援助計画及び住宅確保要配慮者の家賃債務の保証に関する業務を行う家賃債務保証業者の認定制度の創設、住宅確保要配慮者居住支援法人の業務の拡大、終身賃貸事業者が行う事業に係る認可手続の見直し等の措置を講ずる必要がある。


概要


住宅セーフティネット法等の一部改正法案に伴い、関係する法律は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」「高齢者の居住の安定確保に関する法律」「独立行政法人住宅金融支援機構法」「社会福祉法」「住宅融資保険法」「生活困窮者自立支援法」の6つで、それぞれ一部の法律が改正されます。
この法案は厚労省・国交省の所管で、制度の関係個人・団体は「住宅確保要配慮者」「家賃債務保証業者」「居住支援法人」「終身賃貸事業者」そして、「都道府県及び市町村」です。

住宅確保要配慮者とは
 住宅確保要配慮者は、改正法において、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯と定められています。また、省令において外国人等が定められているほか、地方公共団体が賃貸住宅供給促進計画を定めることにより、住宅確保要配慮者を追加することができます(例えば、新婚世帯など)。

家賃債務保証業者の認定制度
家賃債務保証とは、入居希望者が賃貸住宅の契約を締結する場合に、保証会社が借主の連帯保証人に近い役割を果たす制度です。借主が賃貸借契約の期間中に家賃等を滞納した場合に、保証会社が一定範囲内で立て替えます。その家賃債務保証の業務の適正化を図るために、国土交通省の告示による家賃債務保証業者の登録制度を創設しました。

住宅確保要配慮者居住支援法人
住宅確保要配慮者(低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子供を養育する者、その他住宅の確保に特に配慮を要する者)の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進を図るため、住宅確保要配慮者に対し家賃債務保証の提供、賃貸住宅への入居に係る住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援等を実施する法人として都道府県が指定するものです。
(住宅セーフティネット法第40条)。

終身建物賃貸借事業者の事業に係る認可手続の見直し等の措置」とは、賃借人の死亡時まで更新がなく、死亡時に終了する(相続人に相続されない)賃貸借で、認可申請時点ではなく届出時点において当該基準の適合の有無を行政機関が確認します。認可手続の住宅ごとの規模や構造・設備に関する基準は残します。

住宅セーフティネット制度の見直し


国土交通省 住宅局の作製資料から、「住宅セーフティネット法改正法案」の改正内容を見て見ました。まず、制度の見直しに至った背景は、老人ホームの入居希望が多く順番待ちになっている事からです。さらに、今後10年間で高齢者の単身性や2人世帯がさらに増える事が予想されています。
 空き家は沢山ありますが、残念ながら高齢者に対する拒否感と法律的な問題が原因でなかなか改善しません。大家さんが入居を拒否する大きな原因は、孤独死・残置物の処理の問題からです。
 そこで、大家が入居を拒まない物件の登録し、行政が情報を公表し、法律で設立された協議会の居住支援者によって入居手続きの手伝いや安否確認と居住のサポートを行う仕組みを作ります。もし、お亡くなりになった時は賃貸契約の終了手続きや残置物の処分を行います。


2・安定的な住宅供給の法整備

 これまでも国交省も厚労省もそれぞれに安定的な住宅確保の法整備は行われてきました。その流れを見て見ます。

〇2001年平成13年に国土交通省と厚生労働省が共同で所管する高齢者の居住の安定確保に関する法律ができました。高齢者が安心して生活できる居住環境の整備を目的とした法律です。
〇2007年平成19年には国土交通省と厚生労働省が所管で住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律住宅セーフティネット法)」が制定されました。高齢者や障害者などへの安定的な住宅供給を目的としています。その理由は平成18年制定「住生活基本法」の目的に「国民生活の安定向上と社会福祉の増進を図る」事とされ、基本理念として低額所得者、高齢者、そしてお子さんを育成される家庭その他住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保をするよう、衆議院より提出され議論されました。
 こちらは、平成19年6月8日衆議院国土交通委員会の政府参考人の説明では、今後10年間に高齢者の単身者・2人世帯の急増し住宅確保が困難な状況が説明されています。

令和6年3月国土交通省住宅局の資料

2011年平成二十三年「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により、省令で「国土交通省・厚生労働省関係高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則」ができました。
高齢者住まい法では、福祉サービスやバリアフリー設計など、高齢者が安心して生活できる居住環境の整備が目的とされています。2011年の改正では、高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)、高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)が「サービス付き高齢者向け住宅」として一本化されました。

サービス付き高齢者向け住宅について


〇2015年平成27年国土交通省所管で特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(特優賃)」が制定され、特定優良賃貸住宅制度主に中程度の所得階層のファミリー向けに供給しました。特定優良賃貸住宅は、地方自治体または地方住宅供給公社が建設する場合と、国及び地方自治体の補助を受けて民間事業者が建設する場合があります。特定優良賃貸住宅は、良質とされる物件を通常よりも少ない金額で借りられる制度として知られており、入居者目線では「良質な物件を通常よりも少ない金額で借りられる制度」として知られています。

〇2017年平成29年には国土交通省所管で「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案(住宅セーフティネット改正)」が提出され可決しています。
 平成29年4月5日 衆議院 国土交通委員会での石井国務大臣の法案提出理由は、「 単身高齢者について、今後十年間で百万世帯の増加が見込まれるなど、高齢者、低額所得者、子育て世帯等の住宅確保要配慮者について、安心して暮らせる住宅が確保できる住宅セーフティーネット機能の強化が重要な政策課題となっております。またこの法改正から、住宅確保要配慮者に国交省令で外国人が加わりました。
 一方、住宅ストックの状況は、空き家、空き室が多く存在するとともに、引き続きその増加が見込まれていることから、こうした空き家等の有効活用が課題となっております。このため、空き家等を活用した住宅セーフティーネット機能の強化を図る必要があります。」と述べられました。その概要です。
都道府県都道府県及び市町村が住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅の供給促進計画を作成することができる。
・住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅について、都道府県知事等による登録制度を創設し、登録を受けた賃貸住宅の情報を広く提供するとともに、賃貸人に対して必要な監督を行う。  
・居住支援法人、代理納付を推進、適正に家賃債務保証を行う業者について独立行政法人住宅金融支援機構による保険の引き受けを可能とする事。  

令和6年3月住宅セーフティネット制度の見直しについて



住宅セーフティネット制度について


〇2021年国土交通省は事故物件に関するガイドライン」を制定しています。このガイドラインでは、事故物件とは自殺や他殺による死のほか、特殊清掃が必要になる死が発生した物件と定義されています。ガイドラインに法的な拘束力はないので各不動産仲介業者が事故物件かどうかを判断することには変わりません。しかしガイドラインがあることで、不動産仲介業者の「判断基準」がある程度統一されますので、入居後のトラブルの発生などが減る可能性があると言われてます。
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」


3・高齢者が住む家

 高齢者が住む家には、幾つか選択肢があります。
①自宅か自宅以外か?
②民間施設か公的施設か?
③有料か行政負担か?
 1963年(昭和38年)に老人福祉法によって「老人ホーム」が正式名称となり、老人ホームには大きく分けて公的施設と民間施設の2種類があるそうです。さらに、入居する方の介護度や費用、認知症の有無などによってはいれる施設に違いがある様です。

みんなの介護」サイトより


 しかし、これらの施設も空きが無くて順番待ちだったり、高額で入居できない人もいるし、施設での生活になじまない方や、1人で自由に住みたい人もいて施設を解約する人も多いようです。

特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)

そこで、空き家の活用も兼ね主に高齢者を賃貸住宅のアパートに住んでもらおうと言う話の様です。
 今回の法改正で特に重要なのは「居住支援法人」の存在だと思います。業務は、登録住宅の入居者への家賃債務保証、住宅相談など賃貸住宅への円滑な入居に係る情報提供、相談見守りなど要配慮者への生活支援、それらの附帯する事です。
今回、断らない住宅の登録や、残置物の処分や終身建物賃貸借などが制度にはいるので、家賃債務保証の締結をした場合親族や関係者の情報提供を求めない事も困難者には大きく、家主は住宅の建築や改良など住宅金融支援機構が受けられることや、保証会社は住宅金融支援機構の家賃債務保証保険に入る事によって家賃回収の心配がなくなる事等から、相当状況は改善すると思われます。

 既に村木厚子氏によって、全国に「一般社団法人全国居住支援法人協議会」が設立されています。2017年以前から、高齢者の問題も考慮し、今回住宅の確保が困難な若い子育て世帯やご夫婦や外国人も対象にした住宅セーフティネット法の改正を主導された様です。
 ご自分の理想の社会を作りたい意志が感じられますが、まずは税金を当てにして動かれるのではなく、身近な方々と出来る事をやる事が望ましいのでは?


一般社団法人 全国居住支援法人協議会の役員に奥田知志氏の名もありました。奥田氏は天皇陛下にお会いし、コロナ禍での国民の状況を説明したでもあります。
 全国居住支援法人協議会は、2019年6月14日には厚生労働省内の厚生労働記者会で設立発表会を行っています。


4・疑問点と法改正

①住宅セーフネット法案改正で、家主さんがリスクの高い方への入居を避けたい理由は理解できますが、政府はこれまでその根本の問題を解決する姿勢があったのか私には疑問です。
 問題となっているのは、火事・孤独死・残置物・家賃の不払い・賃貸契約の継続性から、高齢者との契約を敬遠したと考えられます。しかし、有料老人ホームでも同じような問題が発生してるのに特に問題になりません。
 昔にはこの問題は無かった事なのに法律の規制によって起こった問題と見るべきで、問題となる規制を廃止して法整備して頂きたいです。
 契約形態として、先ずは「終身賃貸契約」を作り、孤独死については人感センサーと通報システム設置の義務、お亡くなりになった時に残置物の処分の権利と契約終了を明記し、火災保険加入と火気厳禁、賃貸保証契約で家賃の不払いに対応した内容にし、場合によったら生活保護で対応する事も可能とする事も検討すべきと思います。さらに、こころの瑕疵の告知義務は「終身賃貸契約」においては該当しない様に改正すれば良いわけです。また、賃貸条件を緩和し調整地区での畑付き空き家の現状貸し契約も可能にすべきと思います。

 老人ホームや病院では亡くなった方のすぐ後に別の方が何のこだわりもなく入られるのに、今の時代に何故民間の賃貸借の物件に価値を下げる様な告知を義務付けするのでしょうか?高齢者にとっては寧ろ事故物件でも入りたいと思う方もおり、長いこと放置されると臭いがしみこむとも言われますが、近年の消臭剤や芳香剤は性能も高いです。嫌な方は別の所を探すだけですし、寧ろ高齢者にとっては終の棲家で終える事が可能なのですから自由裁量を増やすべきです。
 もし前記の様な契約が可能とすれば、憲法の個人の財産権にも関する内容になるので、行政側は不動産と福祉の法律と行政に対応できる専門のコンシェルジュ的な人材は必要になるでしょう。家主にインセンティブとして「終身賃貸契約」の所得分は大きな減税にして、制度に過剰な税金が使われないように現在の住宅セーフティネット法を改正すべきです。

②入居者の残置物や遺産はどの様になるのでしょうか?
数年前から高齢者に遺贈を進めるCMをよく見ました。

③概要にある目標KPIですが、居住サポート住宅供給戸数10年間で10万戸という数字は、どういった数字になるのでしょうか?
供給戸数という事は入居して無くても登録しさえすれば供給戸数に成ります。何度も契約解約を繰り返す人もいます。
この場合の目標はどれだけの人が入居できたのかというのが大事なので、契約件数や契約者の人数を目標にすべきではないでしょうか?



以上です。
NHKから国民を守る党の参議員浜田聡議員より依頼を受け、法案調査いたしました。


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