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ステータスが変わったら、麦くん支持者になった -花束みたいな恋をした-

『花束みたいな恋をした』は好きな映画ランキング暫定1位の作品である。
noteをはじめたきっかけは、noteに挙げられるこの作品のレビューを観るのが楽しくて、自分もやってみたいと思ったからだった。映画館にはリバイバル上映を含めて4回観に行った。ノベライズ本もDVDも買った。サントラは落ち着きたいときによく聴く。こんなにもこの作品に没頭できるのは、私が未だにちゃんとした恋愛をしたことがないからなのかもしれない。表では、大好きな坂元裕二さんの作品に大好きな有村架純さんと菅田将暉さんが主演という私のための作品だと思うから好き!みたいなことを言ってのけている。

私はこの春社会人となった。まだ2週目の週末。会社にやって行う業務はただ研修を受けること。簡単すぎる業務を行う毎日だけどもちろんとても疲れる。1週目は一週間が経つのが長すぎて、これを40年も続けていくのかと考えたときにとても絶望した。2週目は慣れからか一週間が経つのがものすごく早く感じて未来に少し希望が見えた。来週から本格的に業務に向けた知識を入れていく研修が始まるからまた絶望するかもしれない。だけど気持ち穏やかに週末を過ごすことができている。

Netflixに3ヶ月体験入会している。Netflixでしか配信されていない作品を漁っている。昨日は『ヒメアノ〜ル』を拝観した。恐ろしくて素晴らしくて、この邦画がすごい!ランキングを私が作ったらTOP10には余裕で入れてしまうかもしれないくらい凄かった。多分映画館で観ていたら、作品が圧巻すぎてしばらく言葉も出ないし音楽も聴きたくないし、とにかく上書きしたくない八谷絹状態に陥っていただろう。しかし昨日は見た時間が良くなくて、夜中の12時に見終えたから寝るに寝れなくなってしまった。ぼんやりNetflixの作品一覧を眺めていたところ『花束みたいな恋をした』のサムネイルが目に飛び込んだ。来た!これだ!私が今幸せな気持ちになるにはこれだ!迷わずtap。社会人になってからこの作品を鑑賞するのは初めてだった。

今まで何回か観てきて、観るたびに主人公2人へ寄せる私の思いは変化していた。あるときは絹ちゃんに全肯定の気持ちになって私もプライベートを全力で楽しめる社会人になりたいと願った。あるときは絹ちゃんにも麦くんにも寄り添って、もう少しお互いに態度改めたらまた分かり合えそうなのに…と未熟ながらにも2人の態度を中立的に評価していた。

そして今回。この作品を観終えて私が支持したのは完全に麦くんだった。そして社会人2週間目にして今まで引っ掛からなかった表現が引っ掛かるようになった。(なんのナンバリングかわからないが話の区切りで番号を変えてみる。番号を添えて書き終えてみると、それは私の今回考えた別れた原因であった。)
①平日の話
麦くんは定時で帰れるらしいと説明を受けた会社に入社し、実際は帰宅が8時すぎることもある生活を送った。5年の辛抱だと先輩に言われながら。トラブルが起こると対策室行きになり、忙しく働いた。大学生の頃はなんとブラックそうなと思っていた。確かに麦くんの会社はブラック体質なのかもしれない。だけど働き始めた人は頑張れば輝ける先輩たちの前例を目にしたら、みんなそこで成長したいと願う。8時過ぎに帰宅できたらかなり良い方なのでは?と思うし、トラブル対応も責任感の強い麦くんは残りたかっただろうし。何も麦くんの個性は死んでいない。ただ今を頑張っているだけ。2020年に再開したときはだいぶ余裕がありそうだったから、本当にあの時が1番辛かった可能性だってある。
ナレーションは完全本音ベースだし、麦くんに仕事を頑張るなと押し付けることはしなかった。だけど、息抜きしたら?とか自分はつまらない仕事とかいうやりたいことはやりたくないと主張した。その点で一歩絹ちゃんの方が幼かったのだと思う。

②バックグラウンドの違い
そもそも二人が出会った時からバックグラウンドが対極だった。東京に出てきて一人暮らしする麦くんと実家でゆったりと暮らす絹ちゃん。麦くんは仕送り5万で恵まれていた一人暮らし大学生だったのだろう。だけど家事は全部やるし、自分が好きなことをするためにどう生活していけば良いのか考える癖がついている。一方で絹ちゃんはずっと実家であまり積極的に手伝いもせずに好きなことだけをして暮らしてきたに違いない。麦くんの家に転がり込んで、ほとんど麦くんにも料理をしてもらっていただろう。喧嘩したときに麦くんの から出た「家事も仕事もしないで好きなことしとけばいいじゃん!」という発言からも絹ちゃんの家事を好んでいない感じが伺える。多分絹ちゃんは実家暮らしで育った私と同じようにご飯のときはお箸を出して、洗濯物が置いてあったら畳んで…みたいなちょっとしか手伝わずに生きてきた子だと思った。
やっぱり社会人になっても実家暮らしの私にとって、一人暮らしの人は本当に尊敬に値する。どんなに疲れて帰っても自分で家事をやらなければ、いずれ生活は回らなくなる。家事をやりつつ出社して笑顔を保っている彼らはカッコよく見えるし、疲れたとか彼らの前で軽い気持ちで言ってはいけないなと何度も思わされた。
2人のバックグラウンドが、楽しく生きるために苦しいこともやる麦くんと好きなことしかやりたくない絹ちゃんを生み出し、引き離されざるを得ない運命を生み出した。これはもう人格を変えてしまってはどちらも幸せになれないし、お別れは必然だったのかもしれない。

③疲れた顔くらいしたい
麦くんは絹ちゃんに度々言い方や表情で指摘をされる。指摘をされないときだって、皮肉のような発言をして絹ちゃんを苦しめた。私はずっと麦くんのそういう態度が気に食わなかった。だけど社会人になってたった2週間で麦くんの気持ちがわかった。疲れすぎて普通に笑えないし、わかってることを指図されると非常にイラつく時がある。絹ちゃんだって仕事をしていたけど、帰ってゲームをする余裕もYouTube見る余裕もある。だけど彼にはなかった。そんな彼ならあんな態度をとってしまうに違いない。麦くんがあの態度を変えようと努力をしたらもっと麦くんが麦くんでなくなる。あの限界のような状態でも、絹ちゃんに興味を持ってみたり話を聞いていたりした彼は偉い。
全く今まで私の中で気づくことのなかった麦くんの気持ち。これに気付けたということは、これから働くことで楽しめる映画の幅が広がるということだ。それは非常に嬉しい。

まだ研修2週目が終わったところ。一年後にこの映画を見たら私はどんな感情を抱いているのだろう。きっともっともっと苦しい思いをして働いている私は、今よりもずっと麦くんの味方になっているのだろう。

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