私は本命がいる。時々好きで時々好きではない。相手はいつも同じだ。

彼は一歳歳上で小学生の時に初めて出会った時からもう10年近く経つ。私たちが出会う数年前に彼の母は再婚(正確には再婚していない)していて彼には新しい父(正確には父ではない)がいた。出会って以来家族ぐるみの付き合いで旅行にもよく一緒に行ったが、彼は新しい父とは折り合いが悪かった。私は彼が可哀想だと感じたのかもしれない。

ほとんど話さないのにどこを好きになったのか？と思うだろう。きっかけはある。

それは小学5年生の時、私は彼と同じ塾に一緒に通っていた。自宅から駅までは2人で自転車を漕いだ。ある日駅へ向かう途中で私の自転車のチェーンが外れてしまった。

しかし彼は嫌な顔をすることもなく直ぐに素手でチェーンを戻してくれた。これから塾で勉強をするというのに彼の手はチェーンの油で真っ黒になってしまった。洗ってもなかなか落ちない汚れだ。

小学生で大騒ぎすることなくそんなことが出来るだろうか。他の人だったら躊躇わず出来ただろうか。

しかしそれから私は彼という人間を信頼するようになり、彼がこれから何をしたとしても全力で味方をしようと思った。

コミュニケーションが得意な方ではないがシュッ(?)としているので女の子からは割とモテていると聞く。(彼のお母さんから聞いた)

SNSでは私にしか分からないような投稿をするのに対面ではほとんど話してくれない。20歳の誕生日にはグレンフィディックというスコッチをプレゼントして祝ってくれた。それでもほとんど話すことはない。だから私は彼がいつも何を考えているのか分からない。家族と一緒の場でしか会わないからだろうか。私を家族のように思ってくれているからだろうか。一生分からない。

大学生になった今でも彼のような人は見たことがない。何を考えているのか分からない、ほとんど話したことがないけれど家族のような存在の変人。

そんなミステリアスな彼が時々好きで時々好きではない。

喋らない。けれど大切な存在。そんな関係で私は十分だ。