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「社会成長」を如何に実現できるのか?

日本中の社会起業家が集う「新公益連盟」の合宿に参加。

最近歳のせいか忘れっぽくなってきたので、ここで感じたこと、学んだことを五月雨式だが綴っておきたい。

【経済成長に対して社会成長】

我われソーシャルセクター(広い意味で社会事業を行う事業者のクラスタ)は、「社会成長」を牽引する役割があると思う。
あたかも企業が経済成長を牽引する役割があるように。

「社会成長」とは何か。

男女格差が激しい社会が、男女平等になっていくこと。
子どもの権利が軽視されている社会が、子どもを一人の個人として尊重し、声を聞ける社会になること。
長時間労働とパワハラに彩られた企業社会が、しなやかで尊厳ある働き方ができるものになっていくこと。
高齢者が孤独と孤立にさいなまれる地域から、亡くなる瞬間まで居場所と出番と仲間に恵まれる地域になること。

経済成長はとても大切だが、所得が増えても治安が悪くて外に出歩けなかったり、
差別が横行していたり、医療が高すぎてアクセスできなかったりすると、人々のウェルビーイングは実現できない。

よって、経済成長とともに「社会成長」が非常に重要だ。
しかし、この言葉に聞き覚えがない人が多いように、社会成長は忘れられがちだ。
なぜか。

【金銭換算できないものは、存在しない】

答えは簡単。数値化ができないからだ。
経済成長は、GDPとひとりあたりGDPなどで数値化できる。数値化できるものはお金に換算できる。
お金こそ価値を表す最高の指標だ。
これが我々資本主義の大きな特色だ。

経済成長をブレイクダウンした、企業の売上・利益・時価総額・株価も数値化可能だ。
だから我々は追っていける。

実体として存在しているわけでなく、概念としての存在なのにも関わらず、
リアリティを持ったものとして「存在」を感じられる。
お金の物神化。

しかし、社会成長は違う。
数値化できない。もしくはしづらい。
よって金銭換算不能だ。

どれだけ女性が生きづらい想いを抱えているのか。
声を聞かれなかった子どもの心の中の叫び。
孤独に苦しむ高齢者の日々。

こうしたものは数値化して金銭換算できない。
せいぜい、ジェンダー平等ランキングや子どもの自殺率、
月あたりの高齢者の会話量などによって、間接的に推しはかれる程度だ。

よって、現状の資本主義下においては、強力に成長を推し進める力を駆動しづらい。

そんな中、さまざまな手段を使って社会成長を実現しようと力を尽くすのが我々広い意味でのソーシャルセクター(NPO・ソーシャルスタートアップ・学校や福祉団体等々)だ。

しかし、経済成長を担うビジネスセクターに比して、ソーシャルセクターの成長は緩慢で、そのセオリーも十分発見できているとは言いがたい。

【ソーシャルスタートアップの「成長すごろく」の必要性】

NPO等のソーシャルセクターのプレイヤー(仮にソーシャルスタートアップと呼称)が小規模に留まる理由の1つに、僕は「成長すごろく」が可視化・共有されていないことで、リソースが適切に配分されていないから、という仮説を持っている。

どういうことか。


https://theseed.vc/magazine/o1NZBCKTより

これはグロービスキャピタルパートナーズ ディレクターの湯浅エムレ秀和さんが提示している、スタートアップの成長すごろくだ。
スタートアップの世界では、「投資ラウンド」をグラフにしたものだ。

創業、シード、アーリー、ミドル、レイターというフェーズに、それぞれ創業出資、シード投資、シリーズA、シリーズB、シリーズC,IPOという投資機会が(ほぼ)対応する。

つまり、成長のフェーズと資金投入タイミングとその規模がほぼ型化され、それを参考にエンジェルやアクセラレーター、VC等の支援プレイヤーがリソースを提供することが、業界的に共有されている。

翻ってソーシャルセクターではどうだろうか。
財団の助成金は、スタートアップでいうところの創業やシードに集中している。
100万円を100社にばら撒く的なものだ。
⚪︎⚪︎社会起業塾的なものも早期フェーズではあるが、ミドルやレイターでは途端に支援は無くなる。

創業は支援してもらえるが、そこそこ(数千万)の大きさになると、途端にリソースが枯渇し、成長の踊り場を迎えてしまう。
なので、小さな団体がわらわらいて、インパクトが出しきれない、という現象が発生してしまう。

【直線的な成長以外の選択肢】

また、企業と違って、「直線的に自分たちがデカくなる」という方法以外の方法も共有されていない。

例えば、社員15人で予算が5000万だが、法律をバンバン変えている、というNPOになることはできる。
自分たちの組織をスケールさせるのではなく、政策起業でインパクトをスケールさせる道だ。

またあるいは、事業をやっている団体が、中間支援団体化していく方向性もある。

例えば弊会フローレンスは全国小規模保育協議会、全国医療的ケア児者支援協議会を立ち上げ、事業を実践する団体を増やすことに尽力している。また、政策起業道場を運営し、政策起業家を増やすことに力を割いている。
これも、組織を大きくするのではなく、インパクトを拡大する方向性だろう。

このような「成長の仕方」が業界的に整理・見える化・共有されているとは言い難い。
だからソーシャルセクターでは、みんな「どうしていけばいいのか分からない」手探りの状態が長く続いているのだ。

【最後に】

次なる資本主義を構想するためにも、「社会成長」の方策を研究することは重要だ。そして鍵となるのは、ソーシャルセクターの成長だ。しかし悲しいかな、研究も分析も可視化も共有も足りない。

研究者の方々、またコンサルティング会社でプロボノをやっても良い、という企業の方々は、ぜひこうした領域の可視化に力を貸してもらえたら、と思う。スタートアップではあたりまえのカオスマップがあるだけでも随分違うと思う。

僕がスタートアップ経営者(当時はベンチャーと呼ばれていた)だった22年前には、こんなに洗練された成長すごろくもリーンスタートアップ的なメソドロジーも無かった。しかし、今や成長の型と共通言語によって、スタートアップ界隈はエコシステムを形成している。

ソーシャルセクターも20年後にそうなれないと、誰が言えるだろうか。

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