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妄想日記⑬もしも私がおじさまだったら。

起きて鏡を見ると、顔に大きな枕ジワが出来ていた。
昨夜、やや悶えながら寝たからだと思う。
年甲斐もない。
今に始まった話ではない。

白いダッフルコートを着て文庫本を読む姿を駅で認めた時、胸がきゅうっとなったのは事実だ。
「聡一郎さん、待ってましたよ」
駅長が駆け寄ってきた。
「この方、久美子さんの紹介らしいんですけど、今すぐ家に帰りたいって聞かないんですよ」
「電車ってすぐに来ましたっけ?」
彼女は本から目を離さない。
目尻の横のかすり傷が痛々しい。
「しばらく来ません」
「そうですよね」
二人して彼女を見る。
「私、帰らなくちゃ。主人が帰ってくるまでに夕飯を作らなきゃいけないんです」
潤んだ目にすがられる。
俺はあっさり彼女に落ちた。

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