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里山と木質資源 里山資本主義を振り返る

2013年に発行され、大きな反響を呼んだ藻谷浩介氏による「里山資本主義」。

2008年にリーマン・ショックが起こり、お金がお金を生みだすというマネー資本主義が崩壊。
2011年には東日本大震災が発生、これまでの原子力に頼った電力供給や東京一極集中型の社会構造が顕在化するとともに、持続可能性や再生可能エネルギーに対する関心が一気に高まりました。

再生可能エネルギーといえば太陽光や風力、地熱といった自然環境から得られるエネルギーと結び付けられがちですが、日本にとっては伝統的で豊富な資源がもっと身近にあるのではないでしょうか。
里山資本主義では、戦後の高度成長期を経て今まで十分に顧みられてこなかった森林資源から、もう一度エネルギーを創出しようという提案がなされました。
書籍で取り上げられたプロジェクトが木質バイオマスの活用や地方創生といったものであったため、里山=自然に囲まれた田舎、からの経済再生のように捉えられましたが、実際は中央集権に頼らない自立した持続的な経済を、地域の身近な「里山的」ネットワークを活かして推進していこうという提案なので、全ての活動が「緑」と結びつくとは限りません。

里山資本主義の中でも希望を持って大きく取り上げられていたのが日本とオーストリアの木質資源活用の事例。

岡山県の真庭市にある建材メーカー、銘建工業による製材の木くずを燃料とした木質バイオマス発電。
日本も1960年代までは山から多くのエネルギーを得ていたのですが、エネルギー転換や安価な外材の輸入により日本の林業は衰退していきます。
銘建工業では創業時から木屑や端材を燃料として活用していたそうですが、1990年代には本格的なボイラーや発電機を設置、今では本社工場で使用する電力だけでなく売電を行うほどの規模となっています。
山からの資源を利用しエネルギーや経済の自立を推進することで、里山を中心に再びお金が回り、雇用と所得が生み出されていったケースです。

オーストリアにも森林資源を活用して経済の自立を目指し、再生可能エネルギーの活用で世界的に有名になった村があります。
ブルゲンラント州、ハンガリー国境沿いの寒村ギュッシング(Güssing)。人口4000人にも満たない小さな村はこれといった産業にも恵まれず過疎が進むばかりでしたが、1990年にギュッシングの議会は全会一致で、エネルギーを化石燃料から木材に置き換えていくことを決定します。
高価なエネルギーを外から買うより、古くから身近にある木質資源からエネルギーを取り出すことで、エネルギーの自給自足に挑んだのです。
化石燃料を購入するために使っていた資金を、地域内で循環させることによって図る経済の立て直し。地域発展計画により木質バイオマスによる地域暖房を行い、さらにコジェネレーション(熱併給発電)システムによる発電を始め、売電もスタート。1999年にはヨーロッパ再生可能エネルギーセンター(EEE)が建設される等、再生可能エネルギー活用のモデル地区として、世界中から数々の視察やエコツーリズムを受け入れるまでに復活しました。

固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)という電力買取制度のため、再生可能エネルギー活用では効率的な発電システムが重視されるのですが、木質バイオマス発電においては発電の際に生じる「熱」の利用を忘れてはいけません。前述のコジェネシステムを導入することで、発電時に出る廃熱を暖房や給湯に回し、熱と電気を無駄なく活用することが大切です。
ギュッシングを一例として、欧州のコミュニティでは地下に熱配管を巡らせ地域全体をカバーする、広域地域暖房の導入が試みられています。

地域に存在する再生可能資源を用いて、化石燃料からの脱却や経済的自立を目指す。

とは言え… 自然エネルギーとは自然が生み出すエネルギー。人の思惑通りに運ぶとは限りません。
固定価格買取制度(FIT)の導入によって各地で再生可能エネルギーの導入が加速されましたが、制度が終了した途端に破綻する事例も散見。
地方からの成功例として取り上げられたギュッシングのバイオマス発電所も2013年に経営破綻を経験しています。

自然エネルギーへの転換とは、活動を自然から享受できる範囲に留めることを意味するのでしょうか。それとも森林のように管理し保護することによって多様性を備えたより豊かな姿へと導くことができるものなのでしょうか。
実に悩ましいところです…

参考文献:
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く
藻谷浩介 NHK広島取材班 著 

当時の考察や展望を踏まえ、2020年に新しい書籍が刊行されています。
森林資源や木質バイオマス等のエネルギーというより、瀬戸内のジャム、しまなみ海道サイクリング等、地方活性化の実例として里山の地域社会で事業を起こし成長を続けている人々を追っています。

進化する里山資本主義
藻谷浩介 監 / Japan Times Satoyama推進コンソーシアム 編

2022年6月6日 芒種

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