すきま

 めったに外泊しない奥さんが、郷里の同窓会とかで、今夜はお留守。家にはあなたと私、それに高校1年と3年の、2人の女の子だけ。子供たちはとっくに手なずけてあるから、全く問題ないわ。今日こそあなたに、私の魅力を徹底的にわからせてあげる。

 足音を忍ばせ、あなたの部屋にそっと近づくと、扉の下から明かりが漏れていた。いつものように就寝前のひと時、一人でパソコンで遊んでいるのね。
 私は前足で扉を叩き、とっておきの甘えた声であなたを呼んだ。

 次の日。仕事から帰るなり私を抱き上げ、頬ずりする旦那の姿を見て、奥さんは驚愕した。

 そりゃあそうよね。
「留守の間、子供たちとこの子の世話をお願いね」の返事が、「猫なんか、一晩ぐらい食わなくたって死にやしないだろ」だった人なんだから。

「猫は魔性って言うけど……いったい、どんな魔法を使ったの?」
 奥さんは笑いながら私にたずねた。

 フフン、『猫の学校』の卒業試験を、首席で通った私には簡単なことよ。いかにして人間をとりこにし、快適な家猫(いえねこ)生活を手に入れるか、たっぷりと勉強したんだもの。

 でも確かに彼は手強かった。このチャンスを得るまで、2年もかかったわ。
 私がこの家にもらわれて来たのは、生後5ヶ月の頃。自分で言うのも何だけど、少しでも動物が好きな人なら、メロメロになっちゃうほど可愛かったんだから。
 なのに彼は私に一切、構おうとしなかった。だから私と彼はずっと、距離を保った間柄だったわけ。

 それがなぜたった一夜で、180度変わったかって? 何も特別なことはしてないわ。彼が椅子に座っている間は膝の上に乗り、ベッドへ行く時は足にまとわりついて、朝まで彼の布団の上で寝てあげた。それだけよ。

 人間って不思議な生き物で、恋人や仲の良い友人や、かけがえのない家族と一緒に居ても、それが当たり前になると、なぜかだんだん物足りなくなる。時には一人で居るより孤独になることもあるんだって。変よね。

 でもだから私たちは、その心のすきまに入り込み、癒してあげられる存在なの。だって孤独の特効薬は、「自分は愛されている」「誰かに必要とされている」と感じることだもの。

 様々な人間の心理を鋭く暴き、1964年にアメリカで書かれた『猫語の教科書』は、猫のための本当に素晴らしい本だったわ。今ではこの本を教科書にした『猫の学校』が、世界中にあるの。

 えっ、生まれてからずっと家の中で飼われていたお前に、そんな学校へ行く暇があったはずはない、ですって?
 ウフフ、それこそ猫族の魔法。もちろん、人間には決して教えられない、永遠の秘密よ。

- fin -

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