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「美しいです」「大きいです」は誤用?「形容詞+です」問題を考える



こんにちは。こもくです。

それまではあまり気にしたことがなかったのですが、noteで記事を書くようになってから、正しい日本語を勉強したいという欲がふつふつと湧いてきました。
今日までに、日本語の難しさを題材にした記事をいくつか執筆しています。

今日のテーマは、

「美しいです」や「大きいです」は誤用?

というものです。

きっかけをくれたのは次の書籍です。

高いとか大きいといった形容詞(状態・性質をあらわし、断定するとき「〜い」で終わる用言)を文末に配置するとき、そのまま「〜です」と付けることを禁じるメディアがあります。

上の書籍のP66より

「美しいです」や「大きいです」のような「形容詞+です」の形は、記事を書く上では避けた方がよいというのです。

本記事ではこの「形容詞+です」の形について、様々な角度から議論していきます。

■話すのか書くのかで事情が違う

「危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください」

電車の駅でよく聞くこのアナウンスを「なんか変だ」と思う人はいないでしょう。
「危ない(形容詞)+です」という、その正誤を問われる表現を使っているのにも関わらずです。

これは理由がはっきりしていて、話し言葉だからです。
書き言葉としての「形容詞+です」には本記事で綴っていくように諸説ありますが、話し言葉としての「形容詞+です」は完全に許容されています。

戦前戦後の名作文学でも、会話文では「形容詞+です」が登場しています。
下のブログで詳しく紹介されています。

「日本の女の方も美しいです。ことにあなたなぞは――」

芥川龍之介『舞踏会』

話し言葉としての「形容詞+です」が正しいことに口を挟む余地はないので、以下、本記事では書き言葉としての「形容詞+です」の是非を議論していきます。

■結論としては誤用ではない

教育出版のWebサイトには以下のように記されています。

形容詞に断定の助動詞(「だ」)の丁寧体「です」を接続させる言い方は,昭和27年4月14日に国語審議会で建議された「これからの敬語」以降,今日では,もはや誤用とはいえないのが実情であり,教科書のうえでも認められている。

教育出版のWebサイト

結論として、「形容詞+です」の形は誤用ではないようです。

ただ、いろいろなところで指摘されている通り、違和感を覚える人が少なくない表現であることも事実です。違和感の正体を明らかにしていきます。

■「形容詞+です」の問題点|Part1

誤用派の意見で中核をなすのは、

「です」は「だ」を丁寧にした表現だから交換可能でないとおかしい

という論理です。

例えば、「美しいです」の「です」を「だ」にすることはできません。
「美しいだ」は満場一致でおかしいですから。

「です」を「だ」にすることはできないから、「形容詞+です」は誤りであるという意見です。

■形容詞以外の品詞の丁寧表現

これだけ見てみると、「形容詞+です」が誤用であるという意見には一理あるように思えます。

ただ、上でお伝えした

「です」と「だ」は交換可能であるべき

という理論はそもそもどこからきているのでしょうか。
これは、他の品詞の丁寧表現からきていると考えらます。

形容詞以外の品詞の丁寧表現は次の通りです。

【動詞】読む→読みます、書く→書きます
【名詞】本だ→本です、犬だ→犬です
【形容動詞】綺麗だ→綺麗です、安全だ→安全です

これらの例をご覧いただくとわかる通り、

・動詞のあとには「ます」
・名詞と形容動詞については言い切りの「だ」の代わりに「です」

というように、動詞・名詞・形容動詞については丁寧表現の明確なルールが決まっています。議論の余地がありません。

けれども、なぜか形容詞だけ、丁寧表現がルール化されてこなかったのです。「形容詞+です」問題のすべて原因はここに帰着しています。

ルール化されていないけど、形容詞の丁寧表現はないと困ります。
他の品詞のルールを参照しつつ、敬体を作っていきます。
そこで、まずは動詞のように「ます」をつけてみましょう。

美しい→美しいます

違和感のかたまりです。却下。

では次に、名詞や形容動詞のように「です」をつけてみると、

美しい→美しいです

となり、響きや接続的には問題なさそうな文言ができあがりました。

しかし、名詞や形容動詞の場合は「だ」の代わりに「です」を使っていて、「だ」と「です」は交換可能です。
このルールは形容詞にも当てはめたいので、「です」を使う敬体から「だ」を使う常体へと変形できなくてはなりません。

ここで、前述の「美しいです」を「美しいだ」に変えることはできない、という問題にぶつかるわけです。


■「形容詞+です」の正しい形

この問題を解決するのは簡単です。「です」を「だ」に変換してもうまくいくように、「の」を入れてやればよいのです。

美しいのです→美しいのだ

「美しいのです」にも「美しいのだ」にも誤りはありません。
下の書籍によると、「形容詞+のです」という表現はWebライティングの世界でも認められているようです。

「形容詞+です」は「形容詞+のです」に変えてやれば万事解決。
めでたしめでたし・・・とはいきません。

■「形容詞+のです」の問題点

以下の二つの文章をご覧ください。

1.あの女性は美しいです。
2.あの女性は美しいのです。

なんというか、ニュアンスが微妙に違いませんか?

「2.あの女性は美しいのです」の方が書き手がより美しいと思っている印象を受けます。「美しい”の”です」の「の」が強調を役割を担ってしまうのです。

このように、「形容詞+です」を書きたくなったとき、「形容詞+のです」に書き換えるだけでは自分の思った表現にならない可能性があります。

■「形容詞+です」の問題点|Part2

では「形容詞+です」を書き換えるにはどうしたらいいのか。
それを考える上で、「形容詞+です」の否定派の意見が参考になります。

否定派が「です」と「だ」の交換可能性を理由に「形容詞+です」を認めていないのは前述の通り。
この文法的な理由のほかに、感覚的な理由もよく挙げられます。

「形容詞+です」は幼稚な表現であると言うのです。

例えば次の文章。

今日公園でお菓子を食べました。楽しかったです。

どことなく小学生の日記のような雰囲気がありますよね。
この印象は、文法上の問題を解決した「形容詞+のです」を使ってもあまり払拭できません。

今日公園でお菓子を食べました。楽しかったのです。

この幼稚さは何が原因なのか。
私が本記事を執筆する上で最も悩んだ点です。

悩み抜いた末に出会った次の記事との出会いが、この原因を明らかにしてくれました。

形容詞は、その多くが、書き手が経験したことを通して抱いた、書き手の「感情」や「感動」です。しかし、文章の読み手は、書き手と同じ経験をすることはできません。だから、形容詞だけを書いても、何に感動したのかが伝わらないのです。

上の記事より引用

「形容詞+です」が幼稚な表現である原因は、主観のかたまりである形容詞というのものがそもそも幼稚な表現だからということに気がついた瞬間でした。

「形容詞+です」を文末に置くということは、文章の主役がその形容詞であることを意味しています。
幼稚な形容詞を主役に据えてしまうことで、文章として幼稚な印象を与えてしまうのです。

■「形容詞+です」の書き換え方

さあ、いよいよ「形容詞+です」問題におさらばし、より良い文章を仕上げるときがきました。
ここまでの議論を踏まえ、最終的な答えは、「"形容詞+です"を文末に置かないように文章を組み替える」ことです。

下記Webサイトが非常に参考になりましたので参照させていただきます。

次の例文を書き換えることを考えます。

あの女性は美しいです。

1.形容詞のあとに形容動詞を足す

あの女性は美しくて綺麗です。

文法的に間違いがなく、形容動詞を足したことで意味が増えるので含みがでます。

2.形容詞のあとに「ことです」を足す

あの女性の何よりの魅力は美しいことです。

形容詞が主役になっている問題自体は解消されないものの、実際に書いてみて気がついたのですが、「あの女性は美しいことです」とは言えないので文章の序盤に厚みが生まれます。

3.形容詞を先にもってくる

あの美しい女性は私の理想のタイプです。

形容詞を主役から完全に下ろしました。文章の後半部分を考えるのが大変になりますが、幼稚な印象は薄れます。

以上3つのような解決策が考えられます。
その他もし妙案があればコメントで是非教えてください。

■関連書籍

作中でご紹介した書籍は、初月無料のサブスクKindleUnlimitedで読むことができます。
想像以上に具体的な話が多く、すぐに実践できることがたくさんありました。
Webライティングに興味がある方におすすめです。

KindleUnlimitedについては下の記事をご参考ください。

また、KindleUnlimitedでは読むことができませんが、幼稚な形容詞を避けて大人の印象を与える表現をまとめている書籍もご紹介します。

■まとめ

・「形容詞+です」は話し言葉としては問題ないが、書き言葉としては若干の違和感がある
・その違和感は、文法的なものと感覚的なことに由来する
・「形容詞+です」の文末表現を避けることで文章に含みが生まれる

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